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戦場主婦  作者: ヤサシイキ
11/19

母親

「じゃあ、食いもん取りにに行くか。」


明るいうちにさっさと済ませるぞ、と笑ってラインさんは立ち上がった。

(し、食料調達…)


そ、そうだ、ここは私が元いた場所とは違う上に、戦地だ。

けど、そんなサバイバルをすることになるとは...。


ああ、今日ジーパン履いてて良かった。

動きやすいものね。


「あ、あの、どこへ調達しに行くんですか?」


そう聞くと、アルベルトさんははあ?と言って、指をさした。


指の方向を見ると、その先には何もない。あるのは地面に生える花だの草だのだ。


「え、ま、まさか、食べ物ってーーー」

「ミモミ草にきまってんだろ。これに塩かけて食うんだよ。」

「え、し、塩以外の調味料は...」

「ない。ああ、でも干し肉はあるぞ。」


私はくらりと、目眩がした。

草に、塩をふりかけて食べるですって...。干し肉って、どんな味がするの…。


「あ、でもあのキキニ草っつうのは少し甘味がある。んで、あのポペリ花は辛い。」


待ってろよ、今たくさん成長させてやる!と言って、ラインさんは草、もとい食料の元へ駆けて行った。



ああ、元の場所に帰りたい。


認めたくないが、ここは違う地、いや、違う世界だ。

私のいた所じゃ魔法なんてなかったし、祝福もなかった。手のひらに痣もなかったし、戦争なんて無縁だった。

戦争、という単語を心の中で繰り返し唱える。

戦争、という言葉は、学生の時教科書で何度も見た。

それはフィクションに近くて、残酷で、なくなれば良いとも思うけど、それだけ。

私にとっては、縁もゆかりもないものだった。


急激に、体温の下がる感覚がする。

どうしようもない不安が、背に汗となって伝った。


元の場所に早く帰りたいと、嬉々として草を刈り取るラインさんを見て感じる。

金色の髪が沈み始めた日に照らされ、キラキラと輝いていた。


怖い。

こんなんで、私は透と薫を守れるのだろうかーーー。




「まーま」

「どしたの?」


陽だまりのような笑顔で無邪気に問いかける子供を、強く抱きしめた。

怖い。

この暖かい体温が、いつか冷たくなってしまったら、この陽だまりのような笑顔が、冷たい涙に変わってしまったら、もし、赤い頰が青くなってしまったら、柔らかい体が、細く硬くなってしまったらーーー。


私は、この子達を本当に守れるの?


「ママ、だいじょぶ?」

「また、いじわるされたの?」


ーーー暖かい。


「ママ、かおるがまもってあげる!」

「とおるもー」


ーーー暖かい。

この子達は、生きている。

そして、これからも生きていく。

だって、私が守るから。

私は、母親。


この子達を守るのが、私の義務であり、権利だ。

子供に心配されていてはいけない。


「ごめんね、なんでもないよ!2人とも大好き!」


ぎゅーっと、薫と透を抱きしめる。

どこに行っても、変わらない。


(私は、母親なんだから!)


「おーい、お前らも手伝えー。食いっぱぐれてもいいのかー。おら、早く来い!」

「はーい!」

「うわっ、それは勘弁っす」

「い、今行きます!」

「かおるも!」

「とおるもー」



ーーーとりあえず、今考えるべきは塩と草をどうやって美味しくするか、だ。




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