祝福の痣
「い、いでよー防壁!いでよいでよいでよいでよいでよ…」
唸って捻ってやっとカプセルが出てきた。
なるほど、透君も唸ってた訳だ。初めは楽しいかもと思っていたが、かなり疲れる。
こう、ぐったりとのしかかる感じ。
カプセルが転がっていき、ドーム型へと変形する。
ーーーこれで、12人目だ。
1人目の人はもうすでに、ほとんどの傷が完治していた。
聞けば、円状の光るものは魔法陣というらしい。
なんでも、魔力と魔法の交換通路になっているんだとか。
ラインさんが興奮気味に説明してくれた通り、ドーム型の防御魔法は回復力がとても高い。
観察していると、どんどん、というほどではないが、徐々に傷が癒えていき、3分程あれば完治するようだ。
この魔法さえあれば、透と薫は守れる。
まあ、あの子達に助けが必要なのかはともかく。
「そういえば、シホさんの祝福はなんなんですか?」
アルベルトさんが、穏やかな笑顔で聞いてきた。
「私、は...」
祝福なんて、どうやって知るんだ。
「ごめんなさい、それが、わからなくて....。」
「え?でも、祝福の痣はどこかに現れていますよね?」
「祝福の痣?」
私がそう聞き返すと、アルベルトさんは心底驚いた、というように目を見開き固まってしまった。
「えっと、祝福の痣は、体のどこかに現れるんです。背中とか、胸とか、耳とか、例えば、俺なら雫の形をした痣、ラインさんなら、葉っぱの形をした痣ですね。」
「そ、そうなんですか...」
(痣かあ)
自分がどんな祝福を受けているのかは、とても気になる。
なんだか、少しワクワクする。私も、アルベルトさんみたいに水を集めたり、ラインさんみたいに葉を操ったり出来るのだろうか。
少し期待しながら、手首、腕、足など、痣を探してみると、それらしいものを発見した。
「あ、これ?」
手のひらに、ハートマークの痣が出ている。
あら、なんだか可愛い。
「あの、アルベルトさん、これ...」
アルベルトさんに手のひらの痣を見せると、アルベルトさんは首を傾げた。
「なんでしょう、このマーク?魅了、は唇の形をした痣だし...」
でもなんだか可愛らしい形ですね、と朗らかに笑った。
ああ、癒される。
この人、いくつぐらいなんだろう。
見たところ20代だけど...。
透にも、こんな青年に育って欲しい。
「アルベルトさんは、どこに痣があるんですか?」
私がそう聞くと、アルベルトさんはにわかに固めたチョコみたいに、カチコチに固まってしまった。
「え、あ、あー…、お、俺は、その、ですね...」
「?」
「お、お尻、です...」
その場が、というより、私たちの間の空気がなんだか妙に生暖かい、微妙な感じになってしまった。
「....い、位置は関係ありませんよ。」
「はい…」
この人も、なんだか変なところで残念な人だ。
まあ、痣の位置なんて関係ない。うん。
「おーい、テントの掃除終わったぞー!!」
ラインさんが爽やかに駆けつけてくる。
ああ、この人も残念なんだよね。脳筋、というか、お人好しなのかな…。
「ありがとうございます。じゃあ、乾かしてから、また組み立てましょう。」
「いや、乾かす必要はないぞ。」
「え?」
どういう意味だ、訝しげにラインさんを見ると、後ろを指差した。
「?って、あ。」
薫が助けたうちの1人が、起きていたのである。
明るい茶髪の青年だった。
茶色い髪を指先でくるくるといじりながら、アルベルトさんと楽しげに話している。
「そいつは風の祝福持ちだ。ここは風もそこそこあるし、乾かしてくれるだろうよ。」
「グッドタイミング、ですね」
これなら、日が暮れる前にテントを立てて、一晩過ごせそうだ。
ーーーあのテントに私達が入りきるかどうかは別として…。
まあ、座りながらでも、人間寝れるはず。