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黒魔法使いファントム   作者: 光影
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授業


 春奈の影で見えなかったがあの人影……華だ。

 大和が『まずい、このままでは華に魔術がぶつかる』と思った数秒後、魔術が被弾して爆発する。勿論この程度の火力では華に怪我はないがこれは別の意味でまずい。魔術が被弾し華が空間魔法で一気に大和たちの所まで来る。

 明日香さんと千尋さんが必死に華に謝る。華は笑顔で気にしないでと言っているみたいだ。


「ところでベクトル変換なんて巧妙な事を誰がしたのですか?」


 三人の女の子が大和を一斉に指をさす。大和は華が何もなしに許してくれない事を何となく分かっていたが儚い希望を込めて恐る恐る聞いてみる。


「生徒会長怒っています?」

「怒ってるわけないじゃないですか。ここまで上手にベクトル変換使う人を初めて見たのでつい興味を持っただけですよ」

「そうですか」 

「もし良かったら手合わせしていただけませんか? 私今年初めて模擬戦出場で緊張していますの?」

「遠慮しておきます。生徒会長の相手は俺なんかじゃ務まりませんから」

「別に手合わせ程度でいいからしましょう。勿論まだそちらの女の子二人は魔術の練習中みたいですから私と赤城君の一対一でね」

「早乙女は?」

「女の子二人の指導で忙しそうじゃないですか」

「生徒会長の仲間の方々を放っておいていいのですか?」

「えぇ大丈夫よ。生徒会メンバーだから察してくれているはずですからさぁ行きますよ」


 ヤバイ。急いで距離を置く。


「光の矢よ。汝の敵を射抜け」


 四本の矢が大和を追尾攻撃してくる。


「五大元素の一つ水よ、球体となりて直進せよ。球水」


 空気中の水素を元に魔力で生成された直径十センチ程の球体の水が四発、光の矢を目掛けてそれぞれ進む。


「聖剣よ。我に力を与えたまえ」


 大和は落ち着いて判断し華の剣がAランクの光剣の生成である事を確認する。


「闇よ。我に力を与えたまえ」


 華に対抗して大和は闇剣を生成する。両者が激しくぶつかり合う。剣と剣がぶつかる度に火花が散る。魔術による高速移動は単純だがその実扱いはとても難しい。大和の気まぐれで明日香の為に先程の竜巻の術式構築を見せてあげる事にする。国家戦闘員の精鋭魔術師は基本的に光と闇以外の基本属性に限っては全て扱えるよう習得が義務付けられている。


「竜巻よ。全てを吹き飛ばせ」


 巨大な竜巻が華を目掛けて襲う。先程の明日香の竜巻とは違い、粗々しく校庭の砂を巻き込みながら風が空を切る音を立てながら華に襲いかかる。


「面白いですね。なら天に向かって燃える竜よ、その業火を持って全てを焼き付くせ」


 大和の気まぐれに華は千尋がさっき使った火竜の咆哮を使ってくる。これも先程の火竜の咆哮とは違い、周りの大気の温度を急激に熱し、そのあまりの熱さに校庭に落ちていた周囲の桜の花びらが次々と灰になる程の高温で大和に襲いかかる。Bランク魔術と言え学生レベルではなく軍用レベルで打てばこれくらいにはなる。むしろここまで本気になれば昨日の大和と華の遊び程度で使っていたSランク魔術より恐ろしいぐらいだ。竜巻と火竜の咆哮がぶつかり合う。風すら燃やそうとする火竜の咆哮を竜巻は襲い掛かる火を全て風圧で掻き消そうとしながら衝突しぶつかり合う。相性で言えば風は火を炎上させる為、劣勢だが、風の力が強ければ炎すら掻き消す力を持つのが風の性質だ。二つの力は拮抗し爆発して消えた。爆発した場所を中心に小規模だが直径五メートルほどのクレータが出来たが、気にせずお互いに斬りかかる。


「なにこれ……これがBランク魔術なの?」

「そうです」

「え? 副会長」

「私も模擬戦の練習で来てみたら面白い物が見られたので実はずっと見物させてもらってます。それに周りをよく見てください。皆さん練習をそっちのけで二人を見てますよ」

「本当だ」

「そこの二人の女の子は覚えておくといいでしょう。貴女方の技の最終到達点は先程生徒会長と学年代表が使った所にあります」

「はい」

「はい」


 この時、華にはまだ余裕があったが大和には余裕があまりなかった。理由は明確で純粋な剣技と魔術師としての実力差だ。更に大和の気まぐれでもう一つの魔術が使われることになる。大和としてはAランク魔術の本気は周りの被害を考えると使いたくないが生徒会メンバーがいつの間にか各群衆に散らばっている事に気づいていた。更に生徒会メンバーの配置から何かあった時の生徒の保護が目的なのはすぐに分かった。大和には華相手に単発では仕掛けても火花が防がれるのは目に見えているのでフェイクを入れていく事にする。


「五大元素の一つ水よ、球体となりて直進せよ。球水」


 大和の周りに空気中の水素を元に魔力で生成された直径十センチ程の球体の水が四つできる。今までの球水とは違い水の純度を極限まであげている為、透明に近くなり視認がしづらくなる。剣と剣が交差する一瞬の隙を狙い、華を打ちするが案の定四発とも躱される。


「赤城君、流石だと言いたいけど甘いですよ」

「生徒会長本当にこれで終わりだと思いますか?」

「水よ。蒸気として爆発しろ」


 詠唱によって先程の球水四つが勢いよく魔力によって熱せられ水蒸気爆発を起こす。物凄い音と同時に辺りを霧で覆う。この霧事体も高温になっており、息を吸うだけで肺が熱くなる。大和は華の後ろに空間魔法で周り込み詠唱をする。流石だ。模擬戦メンバーはこの霧程度だと目は効くのか。息はしにくそうだが、と大和は感心する。


「全て爆ぜよ、我が願い聞き届けろ」


 火花の詠唱を終え、次は自分達を守る障壁を展開する。


「魔法陣展開、魔法術式は障壁、全てを守れ」


 大和が二つの呪文を詠唱し終えると、全ての霧が華の周りに一瞬で集まる。華の口が動く。華を中心とした周りの空気を一点に凝縮して魔力による大爆発を起こす。生徒会メンバー全員が瞬時に障壁を張り、皆を守るがBランク相当の障壁では意味をなさなかった。障壁は凄まじい爆発の衝撃波によって壊れ、そのあとすぐに高温の炎が全てを燃やす。校庭の砂の一部が溶けて溶岩みたくなり次々と溶けていき辺り一帯が沢山の炎で燃え盛る状況となる。大和の展開した魔法障壁により怪我人はいないが、華は無傷だった。障壁展開と高速回復魔法を大和が火花を打つ瞬間に発動していた。華の回復魔法も火花と同じAランクで効果はある一定回復量までの自動回復となっている。回復スピードを最大まであげ身体がダメージを負うと同時に回復にはいったのかと大和は現状を分析する。


「まさか赤城君がAランク魔法まで使えるとは思いませんでした」


 華は知っている。大和がSランク魔法魔術を使える事を。これはただの華の皮肉だ。


「それはどうも」

「今日は楽しかったしここまでにしませんか?」

「そうしてもらえると助かります」

「では手合わせここまでと言うことで。失礼します。後で私の所に報告書持って来てくださいね」


 そう言い残すと華はクラスの模擬戦メンバーの元に歩いて行く。


「悪いが違う校庭に移動しないか? ここは炎があちこちで燃えてて危険だと思うんだが」

「あんたがしたんでしょうが! とにかく移動することには賛成よ。明日香ちゃん達いきましょうか」

「なら先に行っててくれ。俺は火を消化してから行くことにするから」

「わかったわ」


 三人が先に他の敷地の校庭に向かう。ここの蓮華学園は魔法魔術の練習用の校庭が八個ある。試合用に別で二個とかなりのお金を使って設立されている。また今回のような練習によって校庭が壊れた場合は数日以内に専属の業者が勝手に直してくれることになっている。


「赤城君もどうぞ先に行ってください。ここは生徒会メンバーで火を消しますから」

「ありがとうございます」


 大和は副会長の言葉に甘えて早乙女達を追いかける。


「さてと簡単に言いましたがこの火と言うか燃え盛る炎をどうやって消しましょうかね」

「とりあえず全員で雨を降らせて鎮静化が一番かと思います」

「それもそうですね」

「はい」

「普段物事にあまり興味をもたない書記である貴女が生徒会メンバー以外の誰かの為に何かをするとは珍しい事もあるものですね」

「生徒会長が認めた男ですから多少は興味ありますよ」


 少し走っていると校庭の一角に春奈達の姿を見つける。


「さっきので疲れたから隣で休憩したいんだけどいいか?」

「どうぞ。とりあえず今日は見ているだけでいいわ。私も自分の練習は明日からにして今日は明日香ちゃんと千尋ちゃんのお世話をすることにしたから」

「それであの二人は魔力を練る練習からってことか」

「そうよ」

「赤城から見て二人はどう見える?」

「心の何処かで戦いに対して怯えているように見える。それと自分に自信がないのが態度や魔法に表れている」

「やっぱりそうなるわよね。それで気になっていたんだけど最後の赤城が使った技何?」

「ん? 火花だけど。お前が俺との演習の時使ったやつな」

「私の技ってあんなに強いの?」


 大和の一言に春奈が驚いた顔をする。


「そうだ。俺と会長は基本の五元素のAランクまでなら殆どの技を使える。それもほぼ最高火力でだ。お前の技は軍事魔法書に採用される程強力な魔術の一つだ。だが学生の多くは使える技の難易度だけで強さの優劣を決めてしまう。だからただ使えるだけで満足して天狗になる奴が九割だ。だが学園ランカーの基準は卒業までにしっかり能力開発した場合の技の完成形で評価している。すると当然難易度が高い技を持つ程伸びしろがあり強くなるだろうって事で学園ランカーに選抜される。学園ランカーは今だけじゃなく今後も多くの生徒の見本となる可能性が高い者を選んでいるってことだ。これは学年代表権限以上で見られる資料に書かれていた事実だ」


「なら生徒会長が赤城を学年代表に選んだ理由もただ近くにいて欲しいって気持ちとは別にちゃんとあったって事?」

「まぁそうなるな」

「ちなみに私が強くなるためにはどうしたらいいか教えてくれないかしら?」

「条件がある。今日から俺が自分の練習を本番までしなくていいなら構わない。早乙女だけでなく修行は平等にあの二人にもする。そうなると確率は低いが魔法の暴走をしたときにすぐに止められる状況の確保って意味で俺は基本見るだけとする。どうする?」

「考えがあるなら構わないわ」

「なら今俺が説明したことをあの二人に話して、あの二人が理解したらこっちに連れてきてもらえるか。ただし俺と会長の秘密は言うなよ」

「分かったわ」


 さて上手く伝えられるか見せてもらおうかな。早乙女は今後クラスを導いていく立場の人間だ。だから教わるだけでなく教える事も今後を考えれば重要となってくる。大和は理解力のある早乙女に伝え、そこから明日香と千尋に早乙女が指導することにより後は三人の成長を見ているだけで勝手に三人が成長してくれると言ういい仕組みを構築する。まぁ簡単に言えばwinwinの関係だ。春奈が二人に説明を終え二人と一緒に大和の元に戻ってくる。


「あの、赤城さん私一生懸命頑張ります」

「私も一生懸命頑張ります」


「二人共そんなにかしこまらないでいいよ。とりあえず簡単に現状を話す。まず明日香さんと千尋さんは詠唱して、魔術をただ使っているだけになってる。だから俺や生徒会長が同じ魔術を使っても差がでるのは当たり前だ。これに関しては学園ランカーの早乙女も同じだ。ならどこで差が出たと思う? そうだな早乙女なら予測がたってるんじゃないか?」

「う~ん。やっぱり魔力を練る段階だと思うわ」

「半分正解。まぁとりあえず魔力を練る段階でどんだけ高純度に魔力を練れるかが一つのポイントとなってくるからまずはそこからだな。ちなみにただ練るだけじゃ純度は上がんないから頑張ってみて」

「え? 終わりですか?」

「うん。まずは考えてみて色々やってみるといい。もし魔力が暴走したら早乙女が止めてくれると思うし、いざってときは俺が止めるから気にしなくていい」

「あんたねぇ~。結局私が止める前提になっているじゃない」

「すみません」

「別にいいわよ。ならとりあえず始めるわね。さぁ二人共行きましょう」


 三人は少し離れた所で練習を始める。華は監視カメラを使って今の大和と春奈のやりとりを全校配信していた。勿論先ほどの会話の中で自分に不利益な情報になる部分は修正しての配信だ。確か模擬戦候補生以外の生徒も午後からは自由時間になっていた。てか全員の端末に直接メールで配信って何を考えている。これじゃ学校全体のパワーの底上げじゃないか。

 大和は昼休みに生徒会室に行って今思った事を聞いてみるかと思ったがその必要がない事に気づく。他の学園の高位権限者が有能と言う事は直接指導もある程度してくる。って事は蓮華学園もそれに対抗する必要があるってことか。それにしても華のやつどこまで先を考えてやがる。これじゃ全てが華の描いた通りになっている気がする。と自己解決する。



 今日も後少しで一日が終わる。今日からはクラス代表が教室にて座学の授業をしたり実践をさせたりと普通の学校で言う担任の先生みたいな役割も全て兼業する。それがゆえ時間割りと言うものは存在せずクラス代表次第で帰宅時間が早くも遅くもなる。結果としては一年に一回ある学年昇級審査に受かればどんな手を使ってもいいと言うわけだ。外部教師を雇いたいなら予算案を生徒会に提出して承認されれば問題ないしと色々と自由が聞く学校ではある。春奈はそんな存在になろうと頑張って今座学の授業をしているが、正直眠い。クラスの皆は真剣に聞いているが大和からしたら何を言っているんだろうってレベルの授業内容だ。ずっと教室の空から綺麗な夕焼けを眺めて十五分が経った。てかもう十七時過ぎたのにまだ続くのか。二年生と三年生はどのクラスも下校しているのが窓から見ていて分かった。そして一年生はどのクラスも初日のせいか気合いが入っており終わってない。早く帰りたいな~とか思う大和の事を無視して授業は続く。


 華が何故か教室の廊下の窓から自分たちの教室の中を覗いている事に大和は気付く。とりあえず気づいていない振りをしたが、春奈の授業は続き、華は教室をずっと覗いていると言う大和にとっては奇妙な状態が一時間程続く。流石にお腹が空いた。黒板を板書する生徒は大和以外で皆必死によく分からない魔術理論を書き写していた。大和はノートを広げてみるものの白紙のままだった。そもそもあの魔術理論微妙に間違っている。これは間違えて皆覚えそうだなと大和が思っていると教室の扉が開く音がする。


「あ! 生徒会長どうされましたか?」


 春奈の声に一斉に皆が扉に注目する。


「その魔術理論少し間違っていますよ」

「え? どこがですか?」

「でも九割は合ってます。高校一年生の今でそれだけ理解出来ている生徒はかなり稀よ。残りの一割はそこの授業を一切聞いてない学年代表が教えてくれるはずよ」

「え? 俺?」

「そうよ。授業を聞かないと言う事は理解しているから聞かないのですよね?」


 華はちゃっかりと大和の事を見ていた。もっと言えば好きな人を無意識に見ていた。大和はずっと授業を聞いているのかと思っていた。ここでの反論は皆もいるしできないと大和は考える。


「分かりました」


 大和は黒板の前に行き、春奈の隣に立ち講義をする。なんでこんな事をしないといけないと、いつもなら文句を言う大和だがある事に気付いていた。それは華と春奈の二人が揃うと絶対に口では勝てないと言う事だ。


「とりあえずここから説明するが俺は面倒なので板書はしない。必要なら携帯端末のボイスレコーダー機能を使って録音して、個人個人で暇な時にでもノートにまとめてくれ」


 全員が携帯端末のボイスレコーダー機能をオンにするが大和にとって妙な二人がいた。


「なんで早乙女と生徒会長も便乗してるんですか?」

「え? この際だから聞いておこうかと思いまして」

「私は自分の間違いを知りたいから」


「そうか、なら始める。そもそも魔術とは魔力を練り、そこからある一定領域内の範囲内で人が操れる領域の魔法もしくは魔術を使用しているにすぎない。だから魔法も魔術も使う前に本来どのような力を持っているかを想像出来なければその真価を発揮しない。今日で言えば明日香さんや千尋さんの竜巻や火竜の咆哮がそうだ。これに関しては生徒会長から全員にメールで動画が送られているはずだから後で見ておくといい。ちなみに二人はまだ自分に何が足りないのか悩んでいるみたいだが今日の午前中に出した問に対する解がこれだ。要はただ使うだけでの魔術では下位魔法にすら及ばないって事だ。ならどうするか? それは明日早乙女が説明するから各々今日は帰宅してよく考えてみるといい。ちなみに答えは一つじゃないしこれ考えずに答えだけ聞いて納得するような奴は多分今後差がでると思う。早乙女、今の録音を全ての一年生クラス代表に送れ。そしてそこからクラス全員に送るように指示しろ。俺の講義はクラス代表としてではなく学年代表としてする。以上だ」


 クラス全員が急いでバックに荷物を直し次々と出ていく。

 やはり心のどこかでは口にはせずとも帰りたかったのだろうと大和は同情する。


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