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黒魔法使いファントム   作者: 光影
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問題発生

 大和の家の玄関チャイムの音が聞こえる。煩いな。誰だよ、朝早く人の家のチャイムを鳴らす馬鹿は。身体が動かない。お布団から出たくないと身体が言っているのが分かる。チャイムの音が玄関を蹴る音に変わる。大和は流石に壊れないだろうが万一の事を考え玄関に行き覗き穴を見ると華と春奈がいた。それにしても春奈の奴スカートでよく蹴ってきたな。恥じらいと言うものがないのかこいつは。と扉越しに独り言を言いながら玄関の扉を開ける。


「遅い!」

「遅いですよ」


 玄関の扉を開けると大和は華と春奈から怒られた。大和は部屋に上がる二人をただ見つめる。華と春奈がリビングに行くと大和を呼ぶ声が聞こえてくる。


「早くこっちに来て。朝ごはん作ってきたから」

「早乙女さんに手伝ってもらいながら作ったの」


 大和が華を見ると少しモジモジしている。初めての料理に緊張でもしているのだろう。用意された朝ご飯を見て大和はある事に気づき思う。朝からクリームシチューは少し重たい気がする、華と春奈は胃もたれとか考えていないのかと。


「いただきます」


 試しに大和は一口食べてみる。口の中でシチューのまろやかさが口全体に広がり、野菜のおいしさのハーモニーで一杯になる。


「とてもおいしい。ありがとう」

「良かった」

「早乙女さん色々助かりました」


 華と春奈が安堵したのかお互いの手を握り合って喜んでいる。

 朝のメニュー選びのセンスはちょっと残念だが、料理の腕は確かなものらしい。


「ご馳走様。なら又学校でな」

「え? 一緒に行かないの?」


 春奈に続き華が寝室に向かう大和に追い打ちをかける。


「待ってますから一緒に行きましょうよ?」

「眠いから後一時間程寝てから学校にいくよ。どうせ行かなくても卒業できるしな」


 可愛い女の子二人の雰囲気が急に変わる。


「早乙女さん手貸してくれるかしら?」

「勿論です」


 二人が大和の身体をガッチリとホールドして洗顔、寝ぐせ直し、歯磨き、着替えとただ立っているだけで全部してくれる。


「ありがたいが終始どちらかが常に関節を決めてホールドするのはどうかと思うが?」

「学校をさぼろうとするやつに言われたくない!」

「早乙女さんの言う通りですよ。ちなみに赤城君の部屋に入った時にサブキーを拝借しましたのでこれから登校拒否をしようものなら力技になりますよ?」

「それ泥棒だからな。とにかく返せ?」

「学校に一度でも登校拒否及び遅刻をしないと誓うのなら返します」

「…………」

「そこは嘘でも誓うと言え馬鹿!」

「早乙女さんの言う通りです。とりあえずしばらく預かっておきますね」

「…………」

「言い訳が出てこない感じですか?」

「……」

「本当どうでもいい所は素直ですね」

「なんでこんな子に育ったんだろう」

「早乙女はお母さんみたいな事言うんだな」

「そりゃ心配だからね。なんなら私と一緒に寝泊まりする? しっかりお世話してあげるわよ?」

「したらプライベートがなくなりそうだから遠慮しておく」

「なら生徒会長として生徒の指導するのは当然と言う事で私の部屋にきます?」

「それも先程と同じ理由で遠慮しておきます」

「頑固ね」

「頑固ですね」


 大和と春奈がなんだかんだで自分達のクラスに到着してみると教室が騒がしい。


「あら皆どうしたの?」

「あ。代表。実は模擬戦のメンバーを先生から十二時までに決めて欲しいって言われて皆で出場メンバーをどうしようか困ってる所です」

「ならとりあえず皆一旦席について」

「今から代表の四人を決めるけど出場したい人やこの人なら任せたいって人がいたら教えて頂戴。その後に出場候補者によるバトルロワイアル形式でクラスの代表を決めましょう。異論がある人は手をあげて」


 春奈がクラス全員を見る。しかし誰も手を上げない。やっぱりこいつリーダーシップあるなと大和は感心しながら見ていた。


「では異論もないみたいだし次は出場したい人挙手して頂戴」


 春奈がクラス全員を見る。またしても誰も手を上げない。


「あらいないの?」

「だって今年はあの生徒会長が出場するんですよ。下手したら大けがするじゃないですか」


 クラスの一人が呟いた。


「成程。なら推薦したい人を挙手で教えて。ただし挙手したからと言ってその人が後々後悔すようにはしないわ。もしいたら私の権限でいじめた側に処罰を与えるわ」

「はい。私は早乙女さんがいいと思います」


 これにはクラス一同が頷く。大和もこれには納得だ。大体毎年どこのクラス代表を中心にチームが編成されて大将をしているからな。去年の生徒会長はクラス代表でありながら辞退していたがそれでも生徒会長のクラスが優勝した異例もあるけど。


「なら私は出るわね。他にはいない?」

「赤城君はどうですか? 彼も学園ランカーなら戦力として申し分ないのでは?」

「だそうよ。赤城君出場する?」


 大和が春奈の顔を見ると嬉しそうな顔をしている。大和は自分の意志を正直に伝える。 


「生徒会長が怖いから嫌です」

「赤城君にもう一度聞くけど出場するわよね?」


 春奈の手に合ったチョークが二つに折れる。クラス中が恐怖で支配され静まる。


「生徒会長にボコボコにされるから嫌です」

「赤城? 愛情を込めて最大火力で火花を貴方の身体に叩きこんであげましょうか?」

「出ます………だからそれだけは辞めてください」

「良し! なら決まりね。気を取り直して後二人ね。誰か推薦して頂戴って……皆そんなにふるえてどうしたの?」

「お前の殺気に皆やられたんだよ」

「え? でも赤城は大丈夫じゃない」

「俺を基準にするな」

「それもそうね。皆挙手しないなら私が勝手に決めるけどいいかな?」


 その笑顔に皆が安心する事はなく一同が一斉に何度も首を縦に振り意思を伝える様は誰が見ても違和感がある光景だった。


「とりあえず実技成績上位者の明日香さんと千尋さんにお願いするわ。基本は私と赤城が前衛の明日香さんと千尋さんが後衛で行こうと考えているわ」

「クラス代表として命じます。出場者の四名はこのまま実技練習の為に校庭にて練習。残りの者は各自苦手科目の練習を十二時までしなさい。以上解散。あ、ちなみに後一週間もしたらどのみち分かるから言うけど赤城が今年の学年代表だから私達クラス代表に言いにくい事は直接言ってもらってかまわないわ」


 春奈が教室から出ていく。クラスの皆が大丈夫かと言った目を大和に向けてくる。

 そりゃあんなやりとりを見せられればどうみたって春奈の方が強いように見える。


「あの赤城さん私達大丈夫ですか?」

「えっと……どちら様で?」

「私、堀明日香と言います。こっちが東方千尋です。それで私達が模擬戦のクラス代表で大丈夫でしょうか?」

「あぁそのことね」


 大和は右手で携帯端末を見て二人の情報を見る。

 二人はEクラス登録されている生徒では三番目と四番目の実力者と書いてある。


「問題ないんじゃないかな。早乙女も馬鹿じゃないしとりあえず校庭に行こうか」

「はい」


 校庭に着くと早乙女が仁王立ちで待っていた。

 大和は春奈の頭のネジは緩いのかと思ったが彼女にとってはこれが普通なのかもしれない。


「遅いと言いたいけどまぁいいわ」

「とりあえず明日香さんと千尋さんの力を見たいから二人で息を合わせて最大火力で遠距離魔術を赤城狙って打ってみて」

「おい! なんで俺なんだよ」

「え? だって私が見たいからだけど」


 春奈にとって大和の正体が自分の命の恩人と分かった時から我が儘を聞いてくれるお兄ちゃん的な存在になっていた。そして我が儘を聞いてくれることが当たり前になっていた。大和はその我が儘に付き合わされ文句を言うが最終的にはいつも了承していた。


「もういい。さっさとやるぞ」

「え? でも大丈夫なんですか?」

「あぁ何とかなると思うから大丈夫だよ」

「分かりました」


 二人が大和から距離を置き構える。春奈の目から見れば二人はまだ少し頼りないがあったが覚悟を決めてからの二人の緊張感が少し離れた春奈にも十分に伝わってきた。


「竜巻よ。全てを吹き飛ばせ」

「天に向かって燃える竜よ、その業火を持って全てを焼き付くせ」


 大和と春奈の頭の中が何かをしたわけでもなくリンクする。堀明日香は資料通り、風を得意として東方千尋は火を得意として、竜巻と火竜の咆哮はそれぞれが協調し、より強力な魔術となって相手を襲う。最初から連携して打ってくるとは思いにもよらなかった。と同じ事を思う。

 そして、春奈の一歩先まで大和は見抜いていた。


「どちらもBランク魔術か。合わせてB+ランクと言った所か」


 大和は冷静に状況を整理し春奈の立ち位置を確認し詠唱する。


「魔法陣展開、ベクトル変換付与」


 明日香と千尋の魔術は学生としては威力があるものの魔術としての完成度がとても低く簡単に防げると考えた大和は障壁のベクトルの変換方向を春奈に向ける。朝の恨みと言い、今回の件を少し根にもっている大和にとっては悪戯半分だ。魔法陣に魔術が当たると向きを変え春奈の方に向かっていく。明日香と千尋は魔術が進行方向を変えて慌てていたが春奈は難なくジャンプで躱す。少しは驚いてくれてもいいのに面白くなかった。


 ここで問題が発生する


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