決勝戦 1
大和と華は生徒会室を出て試合会場に行く。大和は待ち合わせの試合開始十分前に会場に行くと約束していたので華に事情を説明して、魔法の高速移動を使い試合会場に先に向かう。そして選手控室まで一直線で行く。選手控室の扉を開けると三人の女の子がストレッチをしていた。表情的にも緊張はしているものの試合には影響がなさそうだ。
「大和、 生徒会長を倒してきて。応援してるから」
「赤城さん、信じてます。ここまで来たら勝ちましょう」
「赤城さん、今まで色々とご指導ありがとうございました。最後は勝って幕を閉じましょう」
三人共今まで以上に目に闘志が宿っていた。そんな女の子に勝てないとは男として言えない。大和の言うべき事はただ一つ。
「あぁ、正真(学園内で)正銘(許可され)の(ている)本気(全力)で行く。多分三人のフォローは一切出来ないし気にかけられないと思う。だから三人で生徒会メンバーの足止めはしっかりと頼む」
大和の一言に三人がほほ笑む。
「任せて」
「勿論です」
「はい」
三人がバラバラの事を同時に言う。しかしやる事が分かっている。これだけで十分だ。
試合会場に入ると二年Aクラスの四人が待っていた。今までと違って空気が重い。
観客席も昨日までと違ってやけに静かだ。しかし観客数は昨日の比ではない。観客席は全て埋まり、移動用の通路もびっしりと埋まっている。きっと二年Aクラスの緊張感が会場全体に広がっているのだろう。流石の大和も鳥肌が立った。選手全員が真剣な表情で相まみえる。
華に限っては寝起きのはずなのに、そんな事を微塵も感じさせてくれない。大和は久し振りに緊張して手汗をかく。大和も気持ちを切り替える為目を閉じ集中する。
そして、自分に言い聞かせる。
目の前の敵を倒す事に集中しろ。
相手は上官だ。本気でやっても問題ない。
相手は上官だ。本気でいかなければ一瞬で勝負がつく
なら俺がクラスの為、華の為にやるべきことは、全力で試合に挑む事。
他校の学校紹介を見た。
Aランク魔法、魔術の打ち合いを会長、副会長がしている姿の動画だった。
蓮華学園だけは違った。理由は明白。
しかし各学園差は実際にはそれだけだ。
でもそう思えないのは何故だ。
華の実力をこの学園の皆が知らないからだ。
でも今日は違う。そう華は一年間この日の為に頑張って来た。
そろそろ報われてもいいはずだ。
姉さんの力借りるよ
静かに目を開ける。目の前の相手に集中する。
アナウンサーも空気を読んでかいつもみたいな気楽な感じがしない。
「今回まさかの予選決勝戦がどちらも不戦勝と言う蓮華学園百年の歴史でも初めての事が起きました。そこで今日のこの試合が模擬戦決勝戦となります。では何故こうなったかのかを会場の皆さんに簡単に説明します。昨日の試合で生徒会長の鏡月さんの光魔法により同じ二年Eクラスの西野幻術を魔法攻撃一つで簡単に破りました。会場の誰もが見ても鏡月さんには余裕がありました。残りの三人も去年優勝に導いた不死鳥のコンボ攻撃を使っていませんでした。それにより勝ち目がないと三年Cクラスが辞退、同じく昨日の試合で我らの生徒会副会長を赤城君が複合魔法の黒炎一つで火竜の攻略と生徒会副会長を倒しました。それが校内でも噂となり相手の三年Bクラスが辞退しました。どちらのクラスも試合進行に影響がないように職員が来る八時にメンバーの四人で直接辞退を告げに来たそうです。
去年のイレギュラーと今年のイレギュラー勝つのはどちらかになるかが今日の注目ポイントです。どちらも大将をしていますので一騎打ちの場合はそれがそのまま試合の勝敗になります。去年も蓮華学園九十九年の歴史で初めて一年生クラスが決勝戦に駒を進めたと有名になりましたが、今年もそうなりました。本当に二年連続で歴史をひっくり返そうとしているダークホース同士の戦い。去年優勝に導いた不死鳥を一年生の三人がどう攻略していくかも見どころです。では両陣営の大将に一言もらい試合開始のカウントダウンをしたいと思います。では挑戦者赤城君からお願いします」
「鏡月さん、東さん、小風さん、百連さんこの日を楽しみにしていました。先輩方に胸を借りるつもりで行きます。そして俺達が勝ちます」
「では前回優勝者の鏡月生徒会長一言お願いします」
「あの日ここにいる私以外の三人を圧倒した赤城君の強さを私は認めています。だから私もそれに応える事にします。そして会場の皆さんに一つお伝えします。今まで何も言いませんでしたけど、赤城君を悪く言う生徒が多い本当の理由として嫉妬の部分が大きいと思いますが、今日の試合をよく見ておいてください。彼は苦しみながらも頑張って今の力を手にいれたのだと思いますから」
今の大和にとって華の言葉が何を意味するかはどうでもよかった。赤城大和のやる事は決まっている。そして十二時と言う事は何処も昼休みの時間。他の学園の生徒会全員がこの試合のライブ中継を見ているはずだ。
「ではお待たせしました。試合開始のカウントダウンをします。三、二、一、〇試合開始です」
試合開始のゴングが会場全体に響き渡る。
しかし誰一人として動かない所か詠唱すらしない。お互いの警戒心が最高値にあり、下手な行動は出来ないと身体が直観していた。それを崩せるのはお互いにとっての最大の警戒相手が自分の警戒を辞めた時、すなわち大将同士の戦いが始まった瞬間。それまでは下手に動けない事を全員が身体で理解していた。観客達ですらそれを察して静かに見ている。
そして戦いは一気にクライマックスまで行く。
大和は空間魔法を使い華の後ろに空間移動をする。
華の顔を目掛けて右手でパンチする。
華が上半身を横にずらし躱す。大和はそのまま右手の勢いを利用して空中で横回転して左回し蹴をする。今度はジャンプをして躱すと同時に後ろ蹴りを華が大和に向かってしてくる。魔法による高速移動の最大速度で後方に移動して大和は華との間に距離を作る。距離を取ると同時に華が詠唱なしで剣の生成をする。大和も着地と同時にすぐに華の方に移動方向を変え突撃すると同時に魔力のオーラと闇の槍を生成する。光の剣と闇の槍が高速で何度もぶつかり合い綺麗な火花と鉄と鉄がぶつかる重たい音が何度も何度も会場に響き渡る。両者は高速移動をしながら、地上と空中で何度も何度も衝突する。
華の口が動く。
「魔法陣展開<光に招かざる者、その者の罪を見定め聖なる光にて全てを焼き付くせ> <<慈母よ私に加護を>>」
勿論全部Aランクだ。これは正直大和でも厄介だ。今回は魔方陣の数と術式から見て光のレーザーが四本で自動追尾機能付きの威力重視。面倒だ。大和の近くを高速で何度も通る度に風を切る音が耳元でする。華自身に自動回復魔法がかかっているだけならまだいいが、ちゃっかり魔方陣にも自動回復魔法をかけて詠唱での乗っ取り防止のプロテクターまでかけていた。あれは奪うにしても破壊するにしても厄介すぎる。この状況を一瞬で作り笑う華に対して大和はどうするか悩む。
華と光のレーザー四本が空中浮遊した大和に向かって飛んでいく。大和は急いで呪文詠唱をしながら華に向かって移動する。流石に詠唱と言っても時間が惜しいので全て通称名だけで今回は魔法構築する。その分時間は短縮されるが魔力の必要な量が多くなるがそうは言ってられない状況だ。
「行けダークスピア」
高速移動をしながら光のレーザーを躱し、大和は華と衝突して剣と槍が短い時間に何度もぶつかり合い光のレーザーの対応の繰り替しとなる。一方華の方はと言うと大和の槍術を全て防ぎ攻撃しては何度も自動追尾してくる槍の対応の繰り返しとなる。大和もダークスピアの数は四本にし威力と速度、自動追尾の練度をあげている。これで手数はお互いに単純計算で普段の五倍。レーザーを一旦躱し華に再び攻撃を仕掛ける。華もどうやら同じ考えのようだ。
「魔方陣展開。<<影纏いと獄炎を媒体に黒き炎よ。矢となり我が敵を燃やせ>>黒炎」
「魔方陣展開。<<光と獄炎を媒体に聖なる白き炎の矢となり全てを燃やせ>>光炎」
両者がぶつかり合いながら複合魔法の展開をする。複合魔法の合成基本的に上位魔法ランクを継承するが同格の場合一つ上位ランクに値する力を持つ。なので学園内では大和も華もAランクまでになるようにしないといけない。
全てを燃やし尽くす黒い炎と全てを燃やし尽くす白い炎が空中で衝突しあい互いに燃やし尽くして消えていく。魔方陣を媒体にしているので魔力が尽きるまで無限に何個も細いレーザーのように黒炎が矢の形状となり華に向かって飛んでいく。その数毎秒十五本。それは向こうも同じ。
大和と華も魔法による衝突がしていても互いに自らの攻撃を止める事は基本的にしない。魔法も魔術もあくまで補助と考えているからだ。試合会場上空は無数の黒炎と無数の光炎、四本の槍と四本の光のレーザーの激突でとても盛り上がる。その間を二人の槍と剣がぶつかり合う火花が飾ざる。流石に数分もしてくると大和にとっては邪魔でしかない。常に全ての魔法の移動範囲を計算して動かないと行けないので疲れてくる。軍で大和以上に戦場を駆け巡った華にとってこれくらいは余裕となる。 仕方ない全部吹き飛ばすか。大和は魔法の威力計算と震源地等を全て計算して詠唱をする。
「複写展開<<全て爆ぜよ、我が願いを聞き届けよ>>」
狙いは華の光のレーザーの魔方陣四つと光炎を生成している魔方陣の五個。結局全ての魔法陣に最大火力で放つ。
大和の狙いに気付き華もすぐに詠唱する。
「複写展開<<全て爆ぜよ、我が願いを聞き届けよ>>」
狙いは大和のダークスピア四本と黒炎を生成している魔方陣の五個。全ての魔法陣に最大火力で放つ。
まさか華までこのタイミングで火花とは、「障壁展開」二人のその言葉と同時に会場全体が大爆発する。観客席の障壁は一瞬でダメージ量が飽和状態になり粉々に壊れ消滅する。昨日B会場を襲ったものとは比べものにならない熱風が会場と観客席を襲う。観客の生徒達は魔法を行使しているが息がとても苦しそうだ。
職員が総員で障壁の張り直しと生徒の為の耐熱用の魔法をかける。
気にしている余裕がなかったが地上の六人も何とか大丈夫そうだ。春奈達三人の連携障壁ですら消滅して多少ダメージが来たみたいだが大和に大丈夫とアイコンタクトをしてくれる。それは生徒会メンバーの三人も同じで華にアイコンタクトで合図をしている。やはり戦闘は空中戦だけにした方がよさそうだ。




