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黒魔法使いファントム   作者: 光影
21/26

黒魔法


 一瞬さっきまでの事が夢かと思ったがそうでもないみたいだ。

 大和の中に流れる血がそれを教えてくれるのと、次の試合どうしようかと考えていたが、姉さんの言っていた様に華に恩返しをしないといけないと思うと自然と答えが出た。どうやら大和は考え過ぎていたようだ。やっぱり姉さんは凄いと大和は思う。

 扉がノックされ音が聞こえる。


「どうぞ」

「入るわよ」

「三人共どうした?」


 三人が呆れた顔をして大和を見る。


「もう少ししたら試合だからその確認とどうやって戦うかの確認」


 春奈の一言で大和は全てを察知する。

 どうやら姉さんと合っているうちにもうちょっとで試合が始める時間になっていたみたいだ。


「相談と言うか三人に頼みがあるんだけどいいか」

「相談って」


 大和と春奈の会話を明日香と千尋が静かに見守る。


「次の試合、明日の予行練習として複合魔法を使ってもいいか?」

「複合魔法? それに予行練習?」

「明日の生徒会長との試合一体一で戦おうと思う。三人の練習に生徒会メンバーが手伝ってくれた時のお礼を含めて。だから生徒会副会長でその練習をしたいと思う。ただし勝負は一瞬でつくかもしれない」

「ちょっと待って。複合魔法と勝負は一瞬ってどうゆう意味?」

「複合魔法は二つの魔法、魔術を一つの物として発動することだ。要は生徒会メンバーの不死鳥的な感じ、その分技の威力も強い。だから三年Dクラスの模擬戦メンバーが防げるかはやってみないと分からない。これは俺の姉さんの技だからまだ一度も使った事がないから現状ではどうなるか何とも言えない」


 大和の言葉を聞き、春奈の後ろにいた千尋が大和の前に移動する。


「赤城さんは一体何者なんですか?」


 千尋が真剣な表情で大和に質問する。


「何者でもないよ。ただ皆と同じ学生で生徒会長と同じこの学園ではイレギュラーな強さを持っているだけの人間だよ」


 千尋は大和の言葉に納得できないと言った感じで否定してくる。


「そんなはずないです。常に私達を正確に導いてくれたり生徒会長と同じようにとても強かったり、Aランク魔法、魔術をいくつも使えたりと私達と生きている次元が違うって感じがします」


 まぁ確かに言われてみればそうかもしれない。国家戦闘員と言う事は軍事機密だが各々の判断で事前に誰かに教えてもいいと言われている。もっと言うなら魔人が攻めて来たときに必然と正体がバレる。魔人の来襲頻度は年々上がっていていつ来ても不思議じゃない。だから華はあの時いたメンバーには教えた。 要は魔人が襲撃してきて緊急時になればすぐにバレると言う事で機密ランクも一番下となっている。去年はたまたま都心部まで被害がなかったから華の正体については誰も知らないだけだ。

ここ数年、都心部に限ってはかなり平和が続いているので、自分達が守られている実感はないのだろうが。

 春奈が口を開く。


「千尋さんの言いたい事は分かるけど、私達チームだよ? だから大和をそんな風に言うのは辞めようよ。ただ強いって理由だけで疑っていたら、模擬戦に出られなかった人達からしても私達だって十分イレギュラーに見えるわ。だから見えない所で努力した大和を信じようよ」

「早乙女さん……」


 春奈は大和の正体について知っている。だからこそ言っている事は嘘ではなく、事実を言えたのだろう。流石に華が認めただけの事はある。


「それもそうですね」

「なら時間だし会場に行くわよ。試合は大和の好きにしていいよ。私達がしっかりとサポートするから」


 春奈の言葉に対して明日香と千尋が頷く。

 華はこうなる事を事前に察して去年出なかったのかと大和は気づく。流石は大和の上官だ。


「ありがとう」

「それで私達は何をしたらいいの?」

「なら最初もし敵が突撃してきたら、十秒でいいから足止めして欲しい。詠唱さえ終われば後ろにそのまま下がってくれると助かる」

「分かった」

「分かりました」

「分かりました」


 試合会場に着くと午前中より観客が増えていた。それもそのはず。生徒会長の次に強いとされていた副会長を皆は見に来ているのだ。午前中は少し手加減している感じが正直あったが今回はそうでもないことは目を見れば分かる。


「さぁB会場本日の最大の目玉です。三年年Dクラスと一年Eクラスの試合です。三年Dクラスのクラス代表の田代選手は校内において生徒会長に次ぐ実力者です。そしてそれを守護する強力な仲間もサポーターとしてかなり優秀な事が先程午前の試合から分かっています。そしてB会場の優勝候補でもあります。これには対戦相手も苦労しそうだぁ~。ここで田代選手に一言頂こうと思います」


 田代が意気込みを言う。それに合わせて三年Dクラス応援団が盛り上げる。


「生徒会長が認めた赤城君を倒して明日の試合に駒を進めるつもりです。誰が相手でも負けるつもりはありません」


 会場のボルテージが一気に上がる。


「そして次にその対戦相手の紹介です。いよいよ今大会のダークホースとなった一年Eクラスの登場です。なんと言っても再注目選手である鏡月生徒会長が最も警戒する人物。蓮華学園のイレギュラー。そんな赤城君にも試合前に一言いただきたいと思います」

「本気で戦います。ただそれだけです」

「ではBブロック午後の部の試合です。それでは選手が所定のポジションに着きましたので試合開始のゴングを鳴らします。三! 二! 一! 〇」


 田代がいきなり火花の詠唱に入りそれに続くように残りの三人が風属性の詠唱に入る。


「全て爆ぜよ、竜よ我が願い聞き届けろ」


 成程。この時、大和は敵である先輩達に感心する。それは魔術呪文を改変して形態変化をさせ火花の破壊力を持った竜を召喚してきたからだ。


「暴風よ。全てを切り裂く刃となり、火竜に力を与えろ」

「暴風よ。全てを切り裂く刃となり、火竜を護る風となれ」

「暴風よ。全てを切り裂く刃となり、火竜を援護しろ」


 残りの先輩達も竜巻の改変呪文で各々がサポートしてくるとは大和は思ってもいなかった。こうなるとかなり警戒されていると考えるのが定石となる。力勝負で勝てる相手なら間違いなく午前中と同じように魔術を使い田代が攻撃、残りがサポートって感じになるはずだからだ。春奈達三人が大和の前に立ち、何とか時間を稼ごうと足を震わせながらも立って構える。これは大和に対する信頼よりも目の前の三年生の圧が上回っているからだろう。間違いなく去年優勝に導いた不死鳥に対抗する為の連携技と言う事は見ただけで誰でも分かる。

 火竜の周りにはとても熱い熱風が勢いよく渦をかいて循環している。何より空気が熱すぎて魔力で耐熱に防御をはって温度調整をしないと肺が一瞬でやられる。会場の観客も観覧席に貼られた障壁とは別に自分達で熱さ対策の魔法を行使して対応している。

 春奈達は魔力だけで何とか熱さ対策を出来ている。修行中に火花の練習で耐熱練習していてよかった。火竜が四人に指示され風を纏った炎の息を吐く。炎の息と言っても、竜の一撃にふさわしい破壊力だ。風の力で威力もかなり増大されている。

 三人が震える足を頑張って支え連携する。


「赤城さん信じてますから早く詠唱してください」

「さっきはごめんなさい。だからここは私たちに任せてください」


 明日香と千尋の声がした。春奈はギリギリまで集中力を高めていた。

 大和も仲間を信じて魔術の詠唱をする。


「障壁展開、ベクトル変換とダメージ操作付与。」

「全て爆ぜよ、我が願いを聞き障壁となれ」


 三人の力で生成された本来無色の障壁が火花の炎を纏い火竜の一撃を受け止める。

 火竜の息は火花を纏った障壁を少しずつ貫いていく。会場全体に熱風というよりは目に見えない炎が空気として(ただよ)っていると言った感じだった。春奈が知ってか知らずか無意識に火花を改変して障壁に付与する形で展開していなかったら一瞬で貫通されいた。だから大和は詠唱するのに必要な時間を手にいれることができた。

 大和は三人に向かって叫ぶ。


「障壁を捨てて後ろに下がれ」


 本来ならこの状況での障壁の破棄は命の危険すらある。三人は落ち着いてアイコンタクトでタイミングを合わせ大和の後ろに魔法移動する。本当に大和の事を信じていないと出来ない行動に大和は少し笑う。さっきまで震えていた身体が前を向いていて試合中に成長している三人を見て昔の自分を思い出したからだ。

 春奈達が障壁を捨てた事により、障壁が粉砕して炎の(ブレス)が大和達を目掛けて向かってくる。田代先輩の雷撃による追尾攻撃と残りの先輩達の火竜の咆哮が三発。少し後ろを見ると春奈達が大和を見ていたが障壁展開の構えすらとっていない。まるで信じているからと言った感じでただ構えているだけだった。


 会場の観客達は全員汗をかいているように見える。いくら耐熱魔法を展開してもこの狭い会場では熱気がたまりやすい。熱気は一階の試合会場より上にある観客席の方にたまりやすい性質がある。


「生徒会長としてはこの状況どう思う?」

「赤城君の試合前の目の色が今までと違ったわ。なら何かあるはずよ」

「少年のあの目は間違いなくあの時の私達に向けられた以上の殺気だったね」

「ふふ。きっと私達の不死鳥の時と同じく何か手がありそうですね」

「玲奈までそう思うのか?」

「むしろ愛恵が心配しすぎです」

「そうだ。愛恵ももっと少年を信用しろ。今度の副会長候補にして私達を統率するかもしれない者なのだからな。それにやはりこんな所で負ける男じゃないさ」

「そうだな。生徒会長が今回の模擬戦に出たいと言った理由が少し分かったよ」

「一応聞いてあげますけど、なんだと思ったの?」

「暇な学園生活に飽き飽きしている所に赤城と言う自分の相手になるかもしれない人間が現れた。だからどうにかして本気で戦うように仕向けて戦うって所じゃないのか?」

「半分正解です。流石風紀委員長ですね」

「半分?」


 愛恵の一言に玲奈と愛花も疑問に思い試合に集中していた目線を華の顔に向ける。華の出場理由については実は玲奈達三人ですら華からは気まぐれとしか聞いていなかったのでずっと気になっていた。


「はい。ちなみに赤城君は私が今年何故模擬戦に出たのかもう知っています。だからどの道私が何もしなくても私に本気で戦いを挑んできますよ」

「ちなみに生徒会長は本気の少年にも勝てるの?」


 愛花が冗談で華に質問をした。何も教えてくれない華を困らせようとしたのだ。


「はい。正真正銘の本気でいいなら多分余裕です」

「…………」

「…………」

「…………」


 愛花の冗談でした質問を真面目に答える華の一言は模擬戦の仲間ですら衝撃的な事実となり三人の言葉が失われる。


「え? なんで三人共黙るのですか?」


 何も答えない三人に華が理由を求める。愛恵は目線を華から玲奈に向け助けを求める。


「いや……玲奈説明を頼む」

「…………」


 急な無茶振りに玲奈が慌てる。


「玲奈? 理由を聞いてもいいかしら?」


 この瞬間笑顔の生徒会長と一緒にいる三人は会場の熱風に対して完全な魔力制御をして涼しそうな顔をしていたはずなのに全身には大量の汗をかいていた。人間は熱さや恐怖に関係なく汗をかくのは難しい事は誰でも分かることだ。玲奈の声は冷静を取り繕っていたが僅かに震えていた。


「生徒会長が恐ろしく強い事が分かったからです」

「そうですか。ちなみに愛恵と愛花の意見も聞いていいですか?」

「玲奈と同じです」

「玲奈と一緒です」

「そうですか。そんなに赤城君強いですかね?」


 首を傾けながら試合を見ている華に対し三人が恐怖していたがようやく反撃の瞬間がくる。


「強いだろ!」

「強いから!」

「強いです!」


 この瞬間三人が初めて息を揃えて華に自分の意見をぶつける。


「あら。息ぴったしですね」


 大和は目を瞑る。

 そして一呼吸して目を開け魔法を展開する。


黒炎(こくえん)


 短い単語が指し示す通り大和を中心とした直径五メートル程の魔方陣の外側から黒い炎が渦を巻いて地面を溶かしながら現れる。上を見上げると炎の切れ目が見えない高さまで一瞬で到達する。それは遠くから見ると黒い炎の竜巻や火柱のように見える。会場の温度も黒い炎が現れたことで更にあがる。大和の後ろにいた三人が丁度魔方陣の中に入るように調整したのと一緒に魔方陣に耐熱の術式を組み込んだので平然としているが魔方陣の外はとても熱い事に気づいていない感じがする。勿論初めて見たと言った感じで色々と上の空の三人にとやかく言うつもりもない。

 火竜の息と雷撃、火竜の咆哮全てが大和達の盾となっている黒炎(こくえん)にぶつかる。魔法、魔術同士の爆発音が会場全体に響き渡り魔方陣の外側にいくつかのクレータが出来る。魔方陣の中にいる三人は爆発音を聞きようやく今の状況を把握する。何ともマイペースと言いたいが大和はそんな事より今は早く試合を決める事にする。

 黒炎を操り大和達を護っている(うず)はそのままにして黒炎の渦の一部から剣を五本生成して空中に待機させる。そして狙いをつける。大和はまず火竜の頭部、左翼、右翼、心臓に黒炎剣を一本ずつ放つ。 最後に田代の左肩を狙い放つ。

「障壁展開」と途中聞こえたが剣の速度が速く全ての剣が狙った所にささる。火竜に対しては手加減しなくていいのでそのまま刺さった剣の黒い炎が全てを飲み込んでいくのを眺める形となる。先輩の方は流石に身体が燃えると困るので熱さだけが身体に伝わるようにする。

 勿論剣に刺された痛みと加減しているとはいえ、百度近い炎を纏った剣が刺さっているのだ。魔力コントロールで痛覚麻痺、耐熱を制御しても激痛と熱さが身体を襲う。


「うわぁぁぁぁぁ」


 先輩の苦しそうな叫び声が聞こえる。春奈が大和に聞く。


「この黒い炎は何?」

「闇と火の複合魔法であって魔術でもあるから語尾はどちらでもいい魔法と言ったら分かるか?」

「なんとなく。ってこれベースの魔法は何なの?」

「春奈が初めて俺との試合で使った獄炎と闇属性魔法の闇の纏い」

「ってことはBランク魔法と魔術を合わせたって事?」

「BランクとAランクが正解」

「なら何でAランクを超えるであろう攻撃を全部しのげたの?」

「元々の練度が違う。そして五大元素の上に存在する生徒会長が得意とする光と俺が得意とする闇はその上位互換になる。ちなみに光と闇は生まれ持った才能と言われている事は流石に分かるな。要は練度も違えばランク以上に複合魔法は強力って事だ」


 ここでずっと無視していた叫び声が更に大きくなり初めて聞く叫び声となる。


「しぬぅぅぅぁぁぁぁぁうわぁぁっぁっぃぃぃ~~」


 三人にはダメージを与えなかったので大和はてっきり攻撃してくるだろうと思って黒炎を残したのだがまさかの三人で田代の傷の手当をしていた。

 剣を抜いても黒炎は消えない。あれは全てを黒く灰になるまで燃やし尽くす炎。だから強制的に沈下させるか術者を倒すか、その部分を切り取り燃えるのを防ぐかだ。今回はただ熱い炎が消えないだけに調整している。魔力を貼っているかぎり火傷もしないので沈下させるか身体の温度を調整すればいいのだが、何故か回復魔法を永遠とかけている。これでは炎によって失われた体力の回復しかしないので無限ループだ。まさに拷問って言ってもいいと心の中で笑っていたが、笑っている場合でもなさそうだ。

 大和は一旦先輩の黒い炎の制御を手放して沈下させる。明日香と千尋が偉い静かなので後ろをちゃんと振りかえって見てみると二人共黒炎の渦を指先で子供みたいにツンツンしている。

 もし大和が魔方陣に味方と認識させていなかったらと思うととても恐ろしい光景だ。


「審判危険する」


 生徒会副長の一言で試合は幕を閉じた。


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