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黒魔法使いファントム   作者: 光影
20/26

姉さん


 声が聞こえる。その声は数年前に聞いたとても懐かしい声で大和がずっと聞きたかった人の声だった。


「大和聞こえる?」


 声が聞こえ目を開けるとそこは幼き頃大和が姉さんと修行していた場所だった。春風が気持ちよく日当たりがとても良い草原で思い出の場所となっていた。

 声が聞こえた方を見ると姉さんがいた。相変わらず綺麗だ。薄い青紫色の長い髪が風でなびいている。


「姉さん?」


 姉さんが大和の目の前まで風にふかれる髪とロングスカートを手で抑えゆっくりと歩いてくる。


「久しぶりね」

「うん」

「姉さんが死んだ事まだ後悔してるの?」


 姉さんの声はいつもの優しい声だったが今日の姉さん目はどこか悲しそうだった。きっとあの日の事を大和と同じで色々と思っているのだろう。


「うん」

「今日は時間がないから今度ゆっくりあの日の真相を伝えるわ。今日は大和に継承をしに来たの」

「継承?」


 大和は聞いた事がある言葉に戸惑いを覚える。


「そう。赤城家は代々女王陛下の側近もしくは近くにいる名家。そしてその中でも禁忌の魔法魔術を行使できる数少ない家系なのは知っているわね」

「うん」


 これは大和が幼い時に何度も両親や姉さんから聞かされた話だ。大和が軍の下っ端なのは過去に色々と不味い事をしたからだ。朝練をサボったり体調不良を理由に任務を休んだり、上官とよく喧嘩したり国外逃亡したりと思いだしたくない記憶が沢山ある。


「両親が死んだ以上私が赤城家の当主になるのが自然だけど私もあの日死んだわ。だから必然と大和が一族の生き残りとして当主となる。ここまでは理解できてる?」


 大和が頷く。


「継承と言っても両親や姉さんがいない以上どうしようもない」

「姉さんの事を少しは信じなさい。何故死んだはずの私が今此処にこうやっていると思うの?」

「あの日、蘇生魔法に自分の魔力を注入して術式に細工をしたからって考えるのが普通だけど、禁術の改変なんて聞いた事がない」


 姉さんが左手で口元を抑え軽く笑う。


「姉さん?」


 すると微笑み、口元を隠していた手で今度は大和の頭を優しく撫でる。


「大和だって何となく分かるでしょ。血に刻まれた記憶が不可能を可能にしてることが」

「血に刻まれた記憶?」

「そう」

「…………」

「そして今日は私が代々継承してきた魔法、魔術を貴方に全て授けるわ。ただしこれは元国家戦闘員総隊長にして元指南役最高責任者の魔法と魔術でもある。赤城家はこうやって先代からの技を記憶の中で直接継承するの。だからある意味最強の魔法、魔術家系。これにより変な話修行をしなくても強力な力を習得しちゃうからね」


 大和の頭を撫でていた姉さんの手が震える。先代が習得した技すら血に刻まれた遺伝子がそれを教えてくれるのか。勿論そこに代償がないわけがない。別名、短命一族とも言われている。禁忌魔法や禁術魔法は本来継承できない。どちらかと言うと個人のスキルに近いからだ。その不可能を可能にしたのが記憶の中での継承。

 大和は黙っている。何かを言うにはあまりにも無知で言葉が見つからなかった。


「大和がこの力を継承してどう使うかは貴方次第よ。自分の為に使ってもいいし、誰かの為に使ってもいい」


 姉さんの身体が大和の身体と触れ合うように少し前に来ると優しく抱きしめる。

 そのまま再び大和の頭を撫でる。


「禁術の一つに通称『禁じられた幻術』があるわ。それは使う練度によって魔力ではなく生命力を使用するの。これは私が開発した魔術よ。これを使えば一国家ぐらいなら命と引き換えに大ダメージを与えられる。だから後は大和が決めなさい。国家に従うか復讐するか誰かの為に生きるかを」


 この言葉の意味を大和は正確に理解する。姉さんは大和の中に宿した魔力を使って自分が死んだ後の大和の全て見ていた。継承するタイミングを見計らう為に。


「姉さん……」

「本当は華ちゃんの為に色々と頑張りたいと思ってるんでしょ?」

「……うん」

「もういいのよ。両親や姉さんを殺したって自分をもう責めないでいいから。心を閉じて自分を護っても辛いだけ。辛いなら華ちゃんに癒してもらいなさい。小さい頃から華ちゃんはずっと大和を一番に考えていたわよ。少しは恩返ししなさい。だから国の呪縛とか私達の事でもう悩まないでいいのよ」

「………でも」

「自分の好きなように生きなさい」


 雨も降ってないのに大和の頬に一滴の水滴が流れ落ちる。それに気づいた姉さんが大和の顔を自分の胸に押し当てる。大和は安心したのか今までずっと我慢していた感情を涙と一緒に姉さんにぶつける。そんな大和を姉さんは受け入れ抱きしめてくれる。


「好き人にはたまには好きと心を込めて言いなさい。そしてこれからは自分の為に生きなさい。赤城家の生き残りはもう一人しかいない。なら貴方自身の手でどうするか決めなさい。先祖達に対する責任は全て私が引き受けてあげるからね。いいわね?」

「…姉さん、…俺……頑張るよ」

「うん」

「…………」

「ちなみに最近仲良くなった子の名前春奈ちゃんだっけ? いい子じゃない。ちゃんと仲良くしてあげなさい。変な話しかも知れないけどあの二人の女の子ならどちらでも姉さんとしては応援してあげるから」

「うん」


 大和の考えている事は姉さんには全て筒抜けとなっていた。


「なら継承を始めるわね。目をつぶって」


 大和は静かに言われた通りに目を瞑る。


「大和は相変わらず私には素直ね」


 いつもの大和をからかう時の声が耳から聞こえたと思ったその時、華や愛花先輩とは違う感覚、いやとても懐かしい感覚が大和の唇に伝わる。

 大和と姉さんを中心に黒い巨大な魔方陣が展開される。


「赤城家の当主『黒の巫女(みこ)』として先代にお願いがあります。現時刻を持ち赤城大和を正式に赤城家の当主として任命し力の継承を行います。どうかお認めください」


 姉さんの言葉と同時に大和の頭の中には姉さんが使っていた全ての技のイメージが入って来た。技の開発中の光景まで入ってくる。確かにこれなら技の本質を理解できるが何とも便利がいい魔法だ。これが禁術を使える家系の特典ってやつか。


「どう?」

「何か色々と分かった気がする」

「なら成功ね。それより姉さんとの久しぶりのキスした感想は?」

「懐かしかった」

「そうね。大和と華ちゃんが小さい頃、いつも私にキスしてくる大和を華ちゃんがいつも怒っていたものね。それに毎日私に甘えてくる大和を見て私に文句も言っていたわ」

「そんなこともあったけ」

「大浴場で私が大和と修行終わりに入っていたらそこに華ちゃんがいつも来て大騒ぎだった。だからいつも私の貸し切りの時間になってからのお風呂だったじゃない」

「言われてみればそんな事もあった気がする。てっきり姉さんが俺に取られて嫌だったから華が来てたと当時は思ってた」

「やっぱり。昔から人の好意には鈍感だったものね。今もか」

「そうだね」

「なら大和も少し元気が出たみたいだし私帰るね」


 密着していた姉さんが立ち上がり一歩後ろに下がる。


「姉さんまた会える?」

「うん。私の魔力がなくなるまではたまに大和に会いに来る予定よ」

「わかった」

「相変わらず大和は小さい頃から甘えん坊だね」

「うん。姉さんの事好きだから」

「それ言う相手間違っているわよ。ならまたね」


 すると姉さんが消え大和は目を覚ます。


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