表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒魔法使いファントム   作者: 光影
2/26

大和の異論

 二人の魔術師は魔力を練る為に集中する。


「魔力全開放。全魔力、魔力回路に集中、そして我が身を護る剣となれ」


 大和は詠唱を行い、そのまま自分の身体を軸として魔力のオーラを身に纏う。魔力のオーラはとても使い勝手いい。時には必要な魔力をオーラから供給することで魔力生成に掛かる時間を短縮し、時には相手の魔法攻撃からオーラが盾となって我が身を護ってくれる。

 春奈の集中力が今までにない以上に上昇していき大和を見ながら呟く。


「それが噂に聞く魔力のオーラ。習得度Aランクの高魔術を簡単に使ってくれるのは嬉しいけど、学園ランカーの条件にAランク魔術は必須って事を考えれば普通ね」


 春奈は言い終わると同時に大和の背後に瞬時に移動し詠唱を始める。


「天に招かざる者、その業火の罪を受けよ。全てを焼き付くせ火竜、火竜の豪炎」


 赤い魔法陣が春奈を中心に広がり魔術が発動する。直径一メートル程の火炎が猛スピードで大和に向かって五発飛んでいく。更に春奈の口が動く。


「火は万物にして全てを燃やし尽くす。追撃せよ炎の槍」


 大和は魔力のオーラを身の周りに集中して五発の火竜の豪炎(ごうえん)をガードする。

 火竜の豪炎は魔力のオーラに被弾し、爆発して綺麗な火の粉となり宙に舞う。火の粉で視界が悪い中、炎槍を生成し手に持ち大和に向かい突進してくる春奈。手にある炎槍は魔力で作られた炎を纏っている。

 大和は突撃してくる春奈に対して追撃の詠唱を開始し、そのまま春奈に向かって突進する。


「我に力を与えよ。レジスタンス」


 大和の右手に剣が生成された直後に炎槍が容赦なく頬を掠める。炎槍の炎は魔力で生成されており大和は魔力のオーラを纏っていた為、頬に掠める瞬間炎だけはガードされた。剣と槍が衝突する音が幾たびにも校庭に響き渡る。流石だ。この時大和は感心していた。ここまで槍を自由自在に操る人は同じ年では滅多にいないだろうと思った。何とか食らいつくも、もし魔術のオーラで身体機能をあげていなかったらと考えると彼女は本当に恐ろしくも強いのだ。

 両者は呪文詠唱の為一旦、距離を取る。

 春奈の頭の中に、ここで一つの疑問が生まれる。


「赤城君は接近戦得意なの?」

「どっちかと言えば苦手だけど」

「そう、それなのにその剣裁き矛盾している気がするけど。それにしてもその魔力のオーラは一体なんなの? 火竜の豪炎はBランク魔術でもトップクラスの破壊力を持つ。それなのに防衛魔術すら使わず防ぐなんて普通ありえない。それに剣の生成も詠唱が終わると同時に終わるってどうなっているの?」


 春奈の言いたい事はわかる。

 魔術は基本詠唱が終わってからそれに合わせた魔術回路を構成し、それを使用して魔力を必要な場所に供給して実行もしくは物体を生成する。だから絶対に一流の魔術師でもタイムラグが発生する。

 しかし大和は詠唱を開始すると同時に身に纏った魔力のオーラから魔力の供給を開始することができる。魔術回路は魔術のオーラが勝手に魔力回路を外部で生成から使用までの過程を行ってくれる。魔力源は魔力のオーラ自身が賄いそのまま魔法を実行する。後は発動の座標の位置を正確に頭の中で描き、詠唱で合図をすれば問題なく魔法を使えるというわけだ。デメリットも当然有り魔力のオーラの維持に大量の魔力を常時使用する為、長くは使えない。


「少し教えるなら、魔力のオーラは基本的に魔法攻撃に対しては効果が強いけど、物理攻撃にはとても弱いってことかな。そして身体能力もある程度向上する。その代わり魔力の消費量は多いってことかな」


 大和は一部の例外を除き、Bランクまでの魔法攻撃は完全防御できる事は黙っておくことにした。それでやけになって春奈が遠距離魔法を連発でもしてくればそれこそ火に油を注いでしまう。防御するのも魔力を元として行っているので連発で攻撃され続けたらこちらが魔力切れを先に起こす可能性を考えると全てを教えるのは得策じゃないと判断する。


「それで火竜の豪炎は防がれたけど物理的な炎槍の攻撃は通じたわけね」


 春奈が舌打ちをする。


「そうだ。だから早乙女さんが火なら俺は水の魔術で攻める」


 大和は左手を地面に向かって伸ばす。


「五大元素の一つ水よ、球体となりて直進せよ。球水」


 青の魔法陣が大和の左手が触れている所から広がっていき魔術が発動する。空気中の水素を元に魔力で生成された直径十センチ程の球体の水が四発、大和の周りに浮かぶ。

 更に補助魔術の詠唱に入る。春奈も迎撃の為に詠唱を始める。


「水に形はなし、水は万有の形になる。弾けろ」


 大和の周りに浮遊している水の球体四つが春奈に向かって直進する。


「地獄の業火、全てを焼き払え。獄炎」


 春奈の詠唱によって周りに炎の壁が出来る。水の球体は全て炎の壁に衝突すると同時に蒸発し消える。

 大和は猛スピードで春奈の元へ飛び込んだ。炎の壁をジャンプで乗り越え上空から剣を振り上げそのまま落下していく。それに気づいた春奈が大和の剣を躱し炎槍で反撃してくる。しかし今回は大和も引けない。大和にとって接近戦は苦手だが出来ないから苦手なのではなく、疲れるから苦手なだけだ。剣が宙を舞うように春奈を襲う。大和がどんなに攻めても春奈には届かず後一歩の所でいなされる。いなし、いなされては攻守が変わる。その繰り返しだ。


 剣と槍が衝突しあう度に聞こえる衝突音、互いが学園ランカーである為、拮抗する二つの力。衝突音が鳴り響く度に大和の生成したレジスタンスの刃が少しずつ、刃こぼれする。


 魔法や魔術のランクは生成される練度に比例する。武器の場合は魔法、魔術ランクが高い精度が良くなり、低いと精度は悪くなる。それでも大和は積極的に攻めた。

 何が言いたいかと言うとBランクの炎槍とCランクの剣がぶつかれば必然的にCランクの剣の方が先に刃こぼれし、折れるのだ。


 このままではジリ貧だが試合も後二分ぐらいで終わる。なんとかなると考えたからだ。しかし大和の頭の中には嫌な予感があった。それは春奈がまだAランク魔術をつかっていないことだ。違和感が確信に変わる。周囲の不自然な温度変化。

 この魔術の波長は大規模魔術と確信する。

 春奈の口が開く。


「全て爆ぜよ、我が願い聞き届けろ」


 大和はこの詠唱がAランク魔術の火花だとすぐに気付く。魔力のオーラの練度を瞬間的に最高値まで上昇させ防御力をあげる。

 しかし魔力のオーラを破って火の粉の爆発と爆風の両方が大和を襲う。

 火花をまともに受けた大和は意識を失った。

   


 大和が目を覚ますと白い天井が視界に入る。夕暮れの日差しが目に入ってきて眩しかった。そもそもここは何処だ。仰向けになっている身体を起こし状況を確認する。するとベッドの横の椅子に座っていた春奈が起き上がる大和に気付く。


「大丈夫?」

「何が?」

「身体の事よ。何処か痛む所とかはない?」

「ないけど。それよりここは?」

「保健室よ。赤城君は私の火花を受けた後、意識不明になったから保健室に運んで私が看病していたの」

「成程」


 言われてみればそんな気がしなくもない。確か火花の爆風で飛ばされた時に頭を強く地面に打ってそこから意識が朦朧としたのを覚えている。それにしてもAランク魔術を戦闘中に詠唱以外を先に終わらせてボタンを押せば発動しますよ的な感覚で詠唱して攻撃とは見事としか言いようがない。


「それより聞きたい事があるわ」

「何?」

「最後、オーラの防御力あげたわね? あれはどうゆうこと?」


 流石に学園ランカーには小細工が通用しないみたいだ。春奈は先ほどの攻防で大和の魔力のオーラには何か秘密があると睨んでいた。


「普通に魔力を防御に充てただけだけど」

「手加減をしたとは言え、火花の攻撃力はBランクの攻撃魔術とは桁違いの威力よ。それなのに貴方は意識を飛ばした以外怪我や火傷すらしてない。普通に考えて可笑しいのよ」


 春奈の言葉には熱が入っている。春奈としてはいくら加減をしたとは言え大和が自分の必殺魔術をくらって結果的に無傷でいる事がなにより悔しかった。


「魔力のオーラはAランクだけど、本来はAランク魔法、魔術の生成と実行の補助、防御の補助が本来の姿だ。Bランク魔法が防げると言ったのは、悪魔で格下魔法は効かないと言う意味だ」

「そうゆう事だったのね」

「他に質問は?」

「ないわ」

「そっか」

「後これからは早乙女でいいわよ。私は貴方の事、赤城って呼ぶから」

「わかった」


 魔術に関してはいずれバレるだろうし特に隠す必要もないから話したが、大和にとって気が強い女は昔から苦手だ。いつも人の事は後回しで自分の都合を押し付けてくるあたりが特に苦手だからだ。それでもこれから三年間は仲良くするしかない。


「ちなみにこの後少し時間あるかしら?」


 特に予定はないが大和は面倒事に付き合わされるのも嫌なので嘘をつく。


「すまない。この後は予定がある」

「そう。なら私が力づくで赤城を連れて行くしかないのか」


 大和としては演習の時と同じく今も選択させるだけさせて無視するなら最初から要件を言って欲しかったりしたがここでそれを言っても無駄だと思い、喉まで出てきた言葉を必死に抑え言わない事にする。しかし考えとは裏腹に、大和の口は自分が思っているより素直だった。


「俺の話聞いてた?」

「ん? 文句あるの? このまま帰ると家に入れないけどそれでもいいの?」

「何馬鹿な事言って……」


 大和の言葉が途中で詰まる。春奈が先ほどから細い指を使い回転させてある銀色に光るリングの先についている物の正体に大和は気付く。大和の家の鍵は今、春奈の手の中にある。春奈は中々自分の言う事を聞いてくれない大和が寝ている間に家の鍵を奪っていた。


「ちなみに私と今からデートしてくれたら返すけどどうする?」


 春奈の手の中にあった大和家の鍵が今度は春奈のブラウスの胸ポケットに姿を消す。


「分かった。それで何処に行くつもりだ?」


 大和としてはこの上面倒な状況で嫌気がさしていたが、そんな心情とは別に頭が冷静に現状を分析する。春奈はデートと言っているがその前に「連れて行くか」と言っていた。恐らく何処かに行って用が終わればそれで終わりになるだろうと大和は考える。エネルギーを極力使わずに帰るまでの道筋を考えると今は大人しく従うが得策と判断する。


「生徒会室」

「はぁ? なんでそんな所に?」

「ん? クラスの代表者は任命された日に生徒会室に行き諸々の権限依託をしてもらい、それが終わり次第初めて代表としての権限を使えるようになるからよ」

「それは知ってる。なんで俺まで行かないといけない?」

「ん~何となくかな」

「お前なぁ……」


 大和からため息でる。


「嫌なの? なら私は一人で行くね。じゃあ」


 保健室の扉を開け出ていく春奈を大和は慌てて追いかける。

 家の鍵さえなければ本来はここで帰るが今回はそうはいかない。


「おい。俺の家の鍵を返せ」

「ん? デートしてくれたら返すと言ったはずだけど。デートしてもないのに返すのは嫌。赤城は私と生徒会室までデートをするか、私の胸ポケットから鍵を力づくで奪うか、諦めるかの三沢しかないよ。ちなみに鍵取る時に胸触ったら訴えるから」

「分かった。生徒会室まで一緒に行くから全部終わったら鍵を返せよ?」

「そう。最初から素直にそう言えばいいのに」


 大和は春奈に完全に遊ばれている。ここで鍵を無理やり奪って春奈が皆に胸を触られたなんて校内で言い出したら誤解しか生まれない。大和は葛藤する自分の心と向き合いながら冷静に状況判断をする。


「それで本当の理由は?」

「本当って?」

「とぼけるな。生徒会室に俺を連れて行きたい理由だ」

「なんだ。気づいてたの。面白くないなぁ」

「当たり前だ。早乙女が保健室で俺を待っていた理由を考えた時、看病じゃないと仮定した時、何か特別な理由があるとしか思えない。それに看病なら保健室の先生がいる。すると必然となにかあると予想はつく」

「大した推理欲ね。まぁ生徒会室に着いたし本人に直接聞けばいいよ」


 春奈が生徒会室の扉を開くと今年の一年生学園ランカー四人と生徒会メンバーがいた。一斉に皆が春奈とその後ろにいる大和を見る。ただ見られているだけなのに圧が凄い。


「ようこそ生徒会へ。私はここの生徒会長をしている鏡月華(きょうげつはな)です。クラス代表の早乙女さんと付き添いの赤城君ね」

「遅くなってすみませんでした」


 春奈が生徒会長に頭を下げる。鏡月の名は学園を超えて有名だ。大和はそれにしてもどこか別の場所でも聞いた事があるような気もする名前だったが何処で聞いたか思いだせないでいた。


「気にしなくていいわよ。権限依託さえ終わればとりあえずクラス代表の方々は帰ってもらって大丈夫ですから」


 生徒会長は笑いながら、校内専用携帯端末からそれぞれの代表者に権限依託依頼と言う文面でメッセージを送る。各々のクラス代表者がそのメッセージを一通り読み終わると承認のボタンを押していく。蓮華学の最高権力者は生徒会長であり、その下に副会長、書記、各委員会委員長、生徒会メンバー、学年の代表者、クラスの代表者、学園ランカー、一般生徒となっている。基本的にはこの縦順列で権限を持っていて先生達ですら生徒会メンバーと同じ権限しか持ち合わせていない。唯一校長先生と、教頭先生が生徒会長以上の権限を持っているが余程の事がない限り職員は口を割り込んでこないので、学校の全ては実質的に生徒会長の一存で資金管理を含み全て運営されている。


 大和達の前にいる鏡月華は一年生で生徒会長に抜擢(ばってき)された天才少女だ。それはこの国に住んでいる人なら全員が知っている程の有名人となっていた。圧倒的魔法、魔術センスに頭の回転まで早くおまけに美人と来た。顔立ちが整っており何より腰下まである銀色の髪が印象的だ。魔法は本来魔法陣を何処かに設置して条件下で発動する魔術の事を指す。魔法陣に術式を加えるのは大量の知識が必要なのだが目の前にいる鏡月と言う人間はいとも簡単に魔法陣を使える状態まで持っていく。


「ではクラス代表者の方はもう帰ってもらって大丈夫ですよ。私は今から赤城君とのお話がありますので」

「え? 俺?」


 大和が驚き、春奈が口を挟む。


「私達も一緒に聞いて構いませんか?」


 周囲を見ると周りのクラス代表も同意見と言った感じで生徒会長を見ている。生徒会長と大和がどんな話をするか気になるみたいだ。それに春奈がここで帰ると大和としては家の鍵がまずい。


「別にいいですけど……つまらないお話ですよ?」

「構いません」


 生徒会長は少し考え、生徒会メンバーに椅子を用意するように告げる。するとすぐに椅子が用意されたのだが何故か大和のだけなかった。


「赤城君? 貴方の椅子はないわよ?」


 大和が心の中で疑問に思っていた事の答えが当たり前のように聞こえる。大和の顔を見上げ、首を傾げながら言ってきた生徒会長に大和は一瞬殺意がわいてしまう。


「あらら。殺意なんて人に向けたら駄目ですよ?」


 大和は焦る。今の殺意が見破られたことに。大和は頭の中で何が起きたか分からなかった。殺意と言っても一般的に冗談半分で使われる程度の物で周りが察する事はほぼ不可能に近い。それなのにこの人は当たり前のように気づきましたといった感じだ。周りの生徒会メンバーは顔色一つ変えてないがクラス代表者は全員が嘘だろうと言った表情をしていた。


「用件を聞きましょうか?」

「それもそうですね。先に言っておきますが赤城君に拒否権はありませんよ。現時刻を持って貴方を一年生学年代表に任命します。又非常時おいては権限レベルを生徒会メンバーと同じ権限とします。異論はありませんね?」


 大和は頭が痛くなる。この状況が全く分からない、そもそもどうしていいかが分からなかった。どうなっている。それでも一つの答えが頭の中ではっきりと出てくる。何故そんな面倒な役回りをしなくてはならない。何かある度に報告が来て、決定を下すとか絶対に嫌だ。仮に皆が何も面倒な事をしなくても、外部から魔人が攻めてこないとも限らない。


「異論はあります。絶対に嫌です」


予約で投稿していますが編集がバタバタです。

土日は更新頻度をあげて、平日は21時前後の更新を目安に頑張っていく事にしました。

もう一つの作品の編集もあるので土日は時間が少し不安定になるかもです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ