約束
大和は休憩室を出てクラスの元に行き皆に先程の件を伝える。大和の予想では十人程度しか午後は残らないと思っていたがまさか皆残る事になるとは思わなかった。皆が喜んでいるので結果オーライとなる。
「あの~本当に私達弱いですけど稽古してもらえるのでしょうか?」
明日香が心配そうに大和に聞いてきた。
その後ろに同じく心配そうな顔をして千尋と春奈がいる。
「あぁ。たったの一時間ちょっとだけどな。本番前にかなり貴重な体験になると思うからしっかり頑張ってこい」
「は、はい」
「頑張ります。ありがとうございます。」
「あぁ。まぁとりあえずがむしゃらでいいと思うけど」
「私はどうしたらいいの?」
「ん? 春奈はしっかり常に二人に指示を出しながら全力でぶつかってこい」
「急にそんな事言われても無理よ。私ですら足元に及ばない相手なのよ」
「本番でもし俺が指示出せない状況になってもそう言って諦めるのか?」
「絶対に諦めないに決まっているでしょう!」
「ならそうゆうことじゃないのか?」
「え? そうね。優勝を狙うならいずれはそうなる。これはその練習って事ね」
「そうゆう事だ。」
明日香と千尋が目を丸くして大和を見る。
「わかったわ。なら二人とあっちでこの後の作戦考えてくる」
「あぁ」
「赤城さんカッコいいですね」
「赤城さんカッコイイです」
「ありがとう」
そう言い残した三人を大和は何処かに行くのを見送る。
これが華の望んだ状況ならこちらもそれを全力で利用させてもらう。本番はこの模擬戦終わりの全学年による対抗戦だ。焦点をそこにあてた場合、今回の経験は各々にとって特別な物になるだろう。それにそれが終われば校内選抜メンバーによる学校対抗戦がある。恐らく華の頭の中はそこを見据えていて全てそれを中心に計算されているはずだ。十校の魔術学園がぶつかり合う。確か各学校の生徒会と副会長は全員国家戦闘員と言っていたな。なら少なからずいずれ国家戦闘員とも戦う事になるのか。恐らくあの時殿を命じた銀幕の部下とも相まみえる事になるだろう。
十三時になり各々の午後の練習が始まる。大和は試合までしばらく時間があるので二年生の先輩達が一年生にどのように教えるのかを見る事にした。先輩達も全員残ってくれているおかげで一対一指導になっている。皆成長したいと言う気持ちが強い事が分かる。恐らく十四時二十分までの練習でいいかと個人個人担当している一年生に言っている事からこの後の試合が見たいってのもありそうだ。クラスの皆も先輩に同調していることから見たいらしい。あくまでこの時間は自由時間なので大和に口出しする権利はない。皆が先輩にコツを教えてもらってから急激に成長している。先輩達も答えは教えずにヒントを与え各々がしっかりと考え身体で気付けるようにリードしている。流石先輩達だ。大和はこんな風に皆を導く事は出来ない。流石華だ。大和を当時国家戦闘員として部下になった時も丁寧に教育してくれたのは華だ。今でも照れくさくて口にはしないが感謝している。だから華が大和の命を取りに来たあの時も抵抗はしなかった。感謝しているからこそ手を煩わせたくなかったしな。
先輩達をよく見ると皆指導しながら春奈と同じように自分の魔力を練っている。これが今年最強のクラスの実力か。そりゃ皆がビビるのも無理はない。正直二年生の他のクラスの人達と比べると皆頭一つ抜けているのが分かる。流石に二年生のクラス代表まではないが一年でここまで差が出たのか。一年の時に何処のクラスに配置されたかで決まっていたようなものだから二年Aクラスになれた人は幸せものだな。
大和はずっとここにいても暇なので春奈達の方に行ってみる。大和が移動してみると案の定想像していた通りになっていた。一方的な展開だが常に回復魔法がかかっているため肉体ダメージはないが服が破れていて、ボコボコにされている事が分かる。先輩達も大和との約束通りちゃんと春奈達が反撃出来るように手加減をしてくれている。三人共自分の事で精一杯のはずなのにちゃんと仲間の動きを見ていて、春奈の攻撃に合わせ明日香と千尋がフォローしている。大和が思っていたより成長が早かった。いや生徒会メンバーがそうなるように上手く配置につきながら火力制限していると言った方が正しい。防御はボロボロだけど今日に限っては十分すぎる成果を三人とも得ていた。
「大和気づいた?」
「あぁ生徒会メンバーの三人めっちゃ神経配りながら春奈達が最大限成長できるように頑張ってくれてる」
「流石よね。私からしたらまだまだ甘いけどね」
「華が基準になったらそうなるさ」
「生徒会長としては大和が玲奈、愛恵、愛花を成長させるんじゃなくてどうやったら強くなれるかを考えるきっかけを与えて欲しいんだけどなぁ~何て言ったらどうする?」
「生徒会メンバーより難易度上げてきたな」
「だって大和は私の彼氏で将来の旦那さんだからそれくらい余裕でしょ?」
「…………」
「ちょっと黙らないでよ! 独り言みたいで恥ずかしいじゃない!」
「ちょっと想像していた」
「え? 何を?」
「さっき華が言った将来の話」
「え? もしかして大和は私と結婚したいのかな? したいならしたいって言っていいのよ」
「俺が華に相応しい男になったらな」
「うん。ずっと待ってるよ。ちゃんと私を守れるぐらいに強くなってね?」
「…………頑張ります」
簡単に言ってくれる。国家戦闘員の隊長クラスと言えばS+ランク魔法魔術を戦闘中でも平然と詠唱して最大火力で使うレベルだ。普段からそんな事してれば連戦に対応できなくなるのでしていないが敵の数が正確に分かってればまさに一騎当千する化け物クラスだ。華はその中でも若くして隊長の中でも上位クラスにいる。大和では一生かかっても喧嘩したら力では勝てない相手なのは目に見えている。
「冗談よ。大和は私が守ってあげるから大丈夫」
「ありがとう。なら華のご機嫌とりとして後で生徒会メンバーに力の差を見せてくるよ。一応確認だけど華の願いはどうやったら三人で俺に勝てるようなるか試合後に考えさせるでいいんだよな」
「正解。私相手だと三人共心の何処かで負けて当たり前ってのが染みついて困ってたのよ」
「だろうな。それは俺でも逆の立場だったらそう思う」
「それはどうゆう意味?」
「そのままの意味」
「まぁいいわ、お願いね。ちなみに今日は十五時で帰るの?」
「俺は疲れたから帰る」
「疲れたってまだ休憩室で私達とお茶飲んだだけじゃない?」
華の言葉に大和が言い訳を考え直す。
「これから疲れるから帰る」
「言い直してそのレベルの言い訳なのね。まぁいいわ一緒に帰ろう?」
「分かった」
「勿論春奈も誘うけどいいよね?」
「好きにしてもらって構わない」
「そう。確認だけどさっき二回も強調していたけど校庭壊す予定は?」
「ない。校庭が燃える可能性はある」
「まさか火花を使うつもり?」
「あぁ」
「なら障壁は私が展開してあげるから程々にお願いね」
「助かる。ちなみに回復魔法もいいか?」
「分かってるだろうけど大和にはかけないからダメージ負ったら自分で回復してね」
「俺だけないの?」
「私だってあの三人が凄い勢いでダメージを受けてるせいで連続で回復魔法行使してかなり魔力使ってるのよ。それに大和が戦闘中の回復魔法の時間事体は今の半分弱程度かもしれないけど実力差から最低でも今の倍以上の魔力を使うと仮定して、更にAランククラス対魔術障壁まであの観客人数分展開したら結構キツイの。てかAランク魔術は一回しか使わないよね?」
「二回」
「なら二回までね。流石に三回目は絶対魔力が足りなくなるから」
「分かった」
「ちなみに何を使うつもり?」
「ダークスピアと複製魔法で流石に二十本は可哀想だから二本にしようかと思ってる」
「って槍術を使うって事は障壁はいらないけどその分回復が必要になるって事ね」
「あぁ。剣でいこうと思ったけど三人相手なら近接戦闘中心の槍術のほうがいい。むしろ槍だけでもいけるとも考えてる。魔術はあまり使うつもりはないけど、向こうが使ってきたらもしかしたら魔術勝負乗るけど結局の所あの三人次第って所かな」
「ちなみに障壁は二回が限界だからそこだけは気を付けて」
華は大和が向きになってAランク魔法、魔術を使うと思っていた。
「あぁ。可愛い彼女の頼みだからな」
「大和好きだよ。頑張ってね」
最近、心配症な華の扱いを大和はちょっとずつ分かってきた気がしていた。
約束の時間には少し早いが春奈達の修行が終わる。次は今校庭で春奈達が相手をした生徒会メンバー三人と大和の練習時間となる。流石の大和でもたまには魔術を使わないと感覚がなくなる。大和と春奈達三人がすれ違う。三人の身体に外傷はないが汗の量が尋常じゃない。一切休まず戦わされた事が分かる。息も肩でしているし倒れないか心配になるが向こうには華がいるので大丈夫そうだ。
「赤城頑張って」
「赤城さん頑張ってください」
「赤城さん頑張ってください」
「あぁ。たっぷり三人の仇は討ってくる。明日香さんと千尋さんは戦いの心構えを見てて」
大和は真剣な表情のまま魔法を使い生徒会メンバーがいる所まで移動する。
「え?」
「え?」
「え?」
「赤城さん今何て言いました?」
「仇を討つって」
「多分生徒会メンバーの先輩をボコボコにするつもりじゃないかな?」
「いくらなんでもそれは無理かと思います」
「そうですよ。早乙女さんですら歯がたたない相手ですよ」
「赤城は生徒会長と昨日互角に闘っていたのよ。それを考えると……」
「です……ね」
「……成程」
「先輩達が怪我しない事を祈りましょう。私達も早く戻らないと危険かもしれませんね」
「そうね」




