学年代表とクラス代表
今作品は模擬戦が完結するまでの20~30話程度となる見込みの作品です。
別作品執筆中の為、こちらは短期更新で完結(少し前に作った作品を編集した物)させる予定です。(ちゃんと小説一巻分ぐらいの内容はあるはずです)
世界は魔人と言われる存在に支配された。支配されたと言ってもまだ人類は大陸と海と空の半分を死守しており交戦状態と言った方が正しいだろう。魔人が誕生した原因は人の欲望によるものだった。魔人は人類が魔法を使い更なる科学の発展と力を求めた際に偶発的産物として生まれたものに過ぎない。
その時媒体となった人間を元にして成長して人と同じ生活をして人と同じように反映していくようになる。必然的に魔人は人を憎むようになる。この地球上には人と魔人が生態系のピラミッドの頂点に君臨し、殺し合いを続けていた。負けた方が支配下に入る事は必然である事は双方が理解しており最早、後には引けない状況になっていた。この戦争の終結は簡単だ。人類の王と魔人の王のどちらかの首を取れば全てが終わるが故に人も魔人も無駄な殺生は基本したくない気持ちは同じはずだ。そう殺すは己の道を塞ぐ敵のみ。基本的に一般市民を積極的に殺す事はしてないはずだ。なら出来ないのだろうかと思った。それは『共存』と言う一種の戯言。一人の少年はそう思うが、世界は少年が思っている程甘くないのが現実。
第一部隊撤退開始、第四部隊と第六部隊通信途絶、第七部隊シグナルロスト……指令指示を。
「くそ……あの魔獣の強さはなんだ。間違いなく精霊レベルだ。主の魔人を倒されなければここも終わりだ」
モニター越しに国の精鋭魔術師をどんどん倒していく魔獣。それを見つめ、指令からの指示を待つ作戦本部。この時多くの者が諦めていた。魔人が使役する魔獣は魔術によって生まれる使い魔だが初めて目にする者がほとんどの精霊レベルだった。精霊レベルは人の域を超えた強さに値する。
そして重かった指令の口から放たれる言葉に誰もが納得した。
「撤退だ。ここの地区は破棄する」
街一つと引き換えに人類は活動区域を狭めながらも生き延びる事に成功する。
魔人も街一つを住処にするのに最初の半分以下になっているためか魔人と魔獣の追撃はなかったが人類の被害が大きい事に変わりはない。
私立蓮華学園は今年で創立百年を迎える。
伝統と格式ある学園で多数の魔術師候補生が通っている。この学園は実力主義である。今この国は魔人と呼ばれる人類の敵が沢山いる。
魔人と魔獣を倒す為の力がすなわち今この国には求められている。つまり魔術を使う為の知識が沢山あってもそれを使いこなせないのであればこの学園では評価されない。
静かな教室に担任の先生の声が響く。
「今からDクラスの代表者を決める。誰かやりたい奴はいないか?」
クラスの生徒が近くの人と悩み顔で相談を始める。クラスの代表とは、簡単に言うと責任者である。クラスの生徒が何か違反したり、魔術の評定が悪かったりすると代表者が怒られるのは勿論、将来魔術師としては統率力がなしと烙印を押される。逆に言えばクラスの評価が良いと統率力ありとなり、将来が約束される仕組みだ。この学校は国の魔術師協会と強いパイプがあり学校での評判はすぐに魔術師協会の耳に入る。
皆、将来を天秤にかけ迷っている。
赤城大和は過去に色々とあり感情に乏しい為か自身の将来にあまり興味がなく、将来の事はその時に決めればいいと思っているのでクラス代表をしたいかとすら考えなかった。
しばらくすると誰も挙手しないせいか担任の先生が貧乏ゆすりを始めイライラする。
「やりたい奴がいないなら勝手にこっちで決めるがいいか? ちなみにAクラス~Dクラスは学園ランカーが責任者として抜擢された。お前たちの学年は学園ランカーが六人。お前たちがこのまま挙手や意見を言わないのであればこれでこの話を終える」
その時、一人の生徒が手を挙げる。
「先生。ちなみに学園ランカーはこのクラスに、そもそもいるんですか? 学園ランカーの存在は一ヶ月後の模擬線時に公開されるのでいずれ分かるものですが現時点ではまだそれも分かっていません」
さっきの人が「模擬線時に公開される」と言っていたが少し勘違いをしている事に気づいたが大和は心の中で自己解決する形で終わらせる。
先生が鼻で笑う。
「よく考えてみろ。今年は学園ランカーが六人もいるんだ。各クラスに一人ずつはいないと不平等だとは思わないか? 」
「……」
「そうゆうことだ。ちなみに本人達にはもう伝えてある。だから本人達が言えばこのクラスの学園ランカーがすぐに分かるということだ」
クラス中がざわめく。
「なんでこのクラスの学園ランカーは自ら名乗り出ないんだ」
「そもそも本当にいるのか?」
「自分の保身が大事過ぎてビビってんじゃない?」
皆が言いたい事を言い出す。一人の女子生徒が手を挙げ椅子から立ち上がる。
彼女は皆の注目を浴びながら堂々とした態度で言う。
「私がこのクラスの学園ランカーよ。私は別に代表者になりたいとかはないわ。ただ皆と普通に高校生活を送りたいだけ。でも皆がしないなら私が代表者になるわ。意義があるものはこの場で立ちなさい」
彼女の堂々とした風格に皆が驚いている。口を開いたまま見つめている者、何が起きたか分からず周りをキョロキョロしている者、興味津々(きょうみしんしん)の目で彼女を見つめている者、自分の意見を堂々と言う彼女に憧れの目を向けている者と様々だ。
「意義はないみたいね。私の名前は早乙女春奈。これから皆宜しくね」
先生は又鼻で笑う。
「やっと決まったか。ではこのクラスの学園ランカーは早乙女とする。今からの時間は自習とする。クラスメイトと交流を深めてもいいし勉学に励むもよし、魔術の実践練習で校庭に行ってもいいが下校時間までにはここに戻ってこい。じゃあまた後でな」
そう言い残し先生は姿を消した。
すると一人の女子生徒が立ち上がり何処かに向かって歩きはじめた。
周りの視線が立ち上がった女子生徒の方向に向けられる。
顔立ちが整い、茶髪のロングヘアーでよく見ると可愛い。そんな可愛い彼女が向かっていた場所とは赤城大和の机がある場所だ。正確には赤城大和と言う人間がいる場所である。
「赤城君、ちょっといいかしら?」
「早乙女さんだっけ?」
「何で赤城君はさっき挙手しなかったの? 赤城君も学園ランカーでしょ」
「えぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~」
クラス中が衝撃の事実に驚く。この時、赤城大和は早乙女春奈の言いたい事をすぐに理解する。何故なら赤城大和もこの学園のランカーに選ばれているからだ。このクラスには学園ランカーが二人いる。そのうち一人が大和でもう一人が春奈だ。
「簡単な理由だよ。俺は将来にそこまで執着がない。だから正直代表者とかもっと言えばランカーにすら興味がない。更に言うと魔術師にも。だから挙手しなかった」
大和の意見は正論だ。そこに裏はない。あるのは本音と言う真実のみだ。春奈がため息をつく。
「呆れた。ならなんでこの学校を選んだのよ? 将来、魔術師を目指さないなら蓮華学園じゃなくてもいいじゃない」
「それは何となくかな。理由をもしあげるなら今後何かしたいって思ったときに融通が利くからかな」
「そう。なら校庭にいかない? 赤城君なら私の練習相手になれるでしょ」
周りから見ても違和感があった。誰が見ても会話のキャッチボールが成立していない。どちらかと言うとキャッチボールと言うよりは春奈の一方的な会話の投球だ。彼女は自分の意見を早く伝えたい為に話しの道筋を強引に変えた。
大和は迷った。
魔術の行使には魔力は勿論体力も使う。
簡単に言うと疲れるのだ。しかし、これからは春奈と上手くやっていかないとこれから先色々と厄介者扱いされる。無駄な事をあまりしたくない大和にとっては辛い選択を迫られた。
クラス代表者となった春奈には今一般生徒ではアクセス出来ない資料の閲覧やクラスメイト処分決定権等の様々な権限が付与される。更に別で学園ランカーには特別な権限が付与されている。
大和以外の今年の学園ランカーは一般生徒から見れば全員が学年の高権限者である。もっと言えば毎年学園ランカーは各学年で基本五人ずつだ。今年の学園ランカーは花園学園百年の歴史の中でも稀な六人だ。暗黙のルールでクラス代表者=学園ランカーとなっていたりもする。大和は冷静にクラス全体を確認し波風を立てないようにすることにした。
「分かった。軽い手合わせ程度なら」
大和は頷く。その言葉を待っていましたと言わんばかりの顔をする春奈。
「良し。なら第二校庭に行くわよ。第二校庭なら人も少ないだろから少しぐらい暴れても大丈夫だろうし」
大和は内心、手合わせ程度ならと言ったはずだがと心の中でツッコミを入れながら席を立つ。
校庭に着くとあろうことかギャラリーが沢山いる。よく見るとさっきまで見ていたクラスメイトが大半だ。どうやら冷静に考えて、大和と春奈の会話を皆が聞いていたと考えるのが妥当だろう。
「あの二人学園ランカーらしいよ。ドキドキするね」
「俺、早乙女さん可愛くて一目惚れしちゃった」とあちこちから声が聞こえてきた。
やる気のない大和だったがこうなってしまった以上は覚悟を決める。
「赤城君ルールを決めるわよ。勝敗は直接魔法が被弾しダメージを負うか地面に膝をついた方の負けって事でいい?」
「分かった。集合の時間もあるし制限時間は三十分でそれまでに勝敗が決まらなければ引き分けでいいか?」
「いいわよ。なら今から一分後に試合開始で」
春奈の提案に大和は頷き、お互いにポジションに移動する。試合と言っても練習試合みたいなものだ。なのにこの盛り上がりは凄い。他クラスの生徒は十人程いたが学園ランカーの姿は見えない。それでも一ヶ月後にある模擬戦で戦うかも知れない相手には手の内を見せたくないのが大和の本心。そんな大和とは対照的に春奈はワクワクしているのか少し笑っている。
一分が経ち試合が始まる。




