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開幕

この世界(異世界なのでもちろんこの世界にだけ存在している…と言うのは正確には間違いだが)には数多くの勇者やら賢者やらエトセトラ……がいる。

そして大体の者がよく分からんが最強の能力なり何なりを持っており、異世界でツエーしながらハーレム作って人生を謳歌している。

そんな彼らは最早、ステータス云々の話ではなく、その次元を超越した強さを持っていなければ、それを名乗る資格はないほどまでのパワーインフレを起こしていた。


全ステータス∞?必殺の最強武器?最強の魔法?……そんなものは、彼らには通用しない。


彼らには水素と水素を魔法で融合させて自家製水素爆弾を町中で爆破するぐらいのサイコ的思考がなければいけないのだ。

だが、幸運にも彼らは、別の異世界にいるため、今まで衝突する事がなかったために、自らの世界で好きなように無双して女の子侍らせとけばよかったのだった―――――



今宵、そんな彼らのもとに、一枚の手紙が送られてきた。


―――――『異世界勇者杯開催のお知らせ』


―――――えー、てめぇら、お元気でしょうか。

―――――私は……まあ、『主催者』と名乗っておきましょうかね。

―――――この手紙はですね、はい。異世界でよく分かんないけど最強の力を授かっちゃって、異世界でなんちゃって勇者やってるてめぇら宛なワケですがね、まあ、何と言いましょうかね……てめぇら、本当の『最強』になりたくねえか?と、言うことですね。

―――――つまるところ、てめぇらみてぇなゆとり勇者どもにはね、一度集まって、同じ実力を持ち合わせたもの同士での戦いってのを知ってもらわなきゃいけねぇなと、私は考えたんですよ。はい。

―――――だからね、こうしてお誘いの手紙を出してるんですよ。

―――――まあどのみち三日後にはてめぇらは闘技場に転送されてるんですけどね(笑)

―――――……ってわけで、精々最後の自分が最強の世界を謳歌しとけよゆとり共



この手紙を見たものは、あるものはその闘争を体が求め、あるものは嫌々ながら武器を持ち、あるものは自らの最強の能力を信じ、あるものは強制転送魔法は僕には効かない、とたかをくくったりしていた。


しかして三日後、とある異空間に作られた闘技場に、彼らはやって来た。

直径200メートル程の闘技場には、総勢300名を越える異空間の勇者達が整列し、戦いの開始を今か今かと待ち望んでいた。

中には転生系の勇者なのだろうか、人間をやめちゃってるものもちらほら見受けられた。


『えー……じゃ、まあ手短に開会式始めようと思うんですが、てめぇらみたいに学の無いやつには分からないお話かもしれませんが、あるところに異空間転生しちゃった勇者が―――――』

そして始まる開会の言葉。

主催者の男が長々とぐだぐだとどうでもいい話を二時間以上し続ける。それだけでもうメンドくさいし、立ちっぱなしのため足へのダメージも普通なら相当なものだが、その程度でふらつくものはここにはいない。

彼らはみな、ステータスが高いのでこのくらいのこと耐えられるのだ。……耐えられるのだ(大事なことなので二回言った)

むしろここで倒れるものなら、そこで失格、出場する権利を失うのだ。

つまりこれは……そんな弱いものがいないかふるいにかけ、そこから出場者をさらに絞ろう……と言う意図ではなく、ただ単に主催者の昔通っていた学校の校長先生のお話が異様に長く、イライラした思い出があったので同じことを他人にもしてやろうと言うどうしようもない発想から行われていたりした。


『―――――まあつまるところ、私はてめえらが嫌いというわけです。はい。以上で挨拶を終わります。次にルールについてですが―――――』


じっくり三時間かけてどうでもいい異世界勇者の話をしてから、主催者はやっと今大会のルールについての説明を始めた。


―――――その一、予選リーグはトーナメント形式で行う。試合順序はこちらで決めてあるため異論は認めない

―――――そのニ、予選リーグは各種無制限何でもあり(ただし即死系は禁止)。どちらか一方が負けを認めるか、審判が戦闘続行不可能と判断した場合を除き試合が停止することはない

―――――その三、相手に最大限の敬意を払い、決して殺さないこと(殺した場合は即失格とする)

―――――その四、決勝リーグの内容は試合進行をみて決定するため放送を注意して聞くこと

―――――その五、試合棄権は原則禁止とする

―――――その六、この闘技場及び宿泊施設以外の場所へ試合期間中は行くことはできない

―――――その七、審判への暴言など、他人の気分が悪くなるような行動はとらないこと




『―――――えー、まあ、以上のルールを守って、楽しく元気にやっていきましょう。……ってわけで、第一試合は11時から開始するので準備してください。あと―――――』


そこまで淡々と、ダルそうに言っていた主催者は、一度何かを溜めるかのような間をあけてから、こう言った。


『予選リーグで敗退したやつからは、てめえらの世界での勇者としてのあらゆる権限や能力、その他全てが剥奪されるのでそのつもりで。』


それを聞いた瞬間、会場は凍りついた。

主催者を除き皆訳が分からない、理解ができない……といったような表情をしていた。


「……あ……あの……質問しても……よろしいですか?」


その沈黙を破るように、おずおずと出場者の中の一人が手を挙げた。


『あー……そこの……田中太郎さん?どうぞ、答えられる範囲でならお答えしますよ。』

「田中太郎じゃなくて佐藤茜です。……で、それって……要するにもし負けたら異世界でツエーは出来なくなるってことですか?」

『さっきそう言ったじゃないですか……まあ、そう解釈してもらって問題ありませんよ。……サンタマリアさん?』

「サンタマリアじゃなくて佐藤茜です。……分かりました、ありがとうございま―――――」

「ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ!」


サンタマリアもとい佐藤茜が感謝の意を述べようとした途端、それを遮るような罵声が飛んできた。

そう怒鳴ったのは、いかにもノリで異世界行って、とくに能力なんてほしくなかったけど手に入って、しかも気付けば自分の回りには女の子が集まってきてるし国王から勇者認定されてた系の勇者が立っていた。


『何ですか?……イキリインキャさん?質問があるならサヴォナローラさんみたいに挙手をしてください。』

主催者はその声の主の方に頭を向けると、ダルそうな口調を崩すことなく言った。


「サヴォナローラじゃなくて佐藤―――――」

「質問なんかじゃねえよ!あと俺の名は伊木利陰男(いきりかげお)だ!……大体なんだこの大会は!こっちは拒否権なしに無理矢理つれてこられたのに、挙げ句のはてに負けたら勇者としての権限を剥奪する?……ふざけんなよ!理不尽にもほどがあるだろ!」

『えー……だからさー……えっとねー、イキリインキャさん。まず君さ、最近はやりの能力なんていらないとか女の子にモテてるの気付いてない鈍感系の主人公で売ってるから別に困んないんじゃね?何でそんなキレてんの?』

「は?そんなん建前に決まってんだろ!俺はハーレムが好きだから敢えて気づかないフリしてるだけだっつーの!能力だって無かったら異世界にいる意味ねーじゃん!あと伊木利陰男だ!」


イキリインキャくんはさっきから一向に名前を覚えようとしない主催者に苛立ちながら、怒鳴るようにそう言った。


『おま……それここで言っちゃダメなやつや。……あのね、君らってさ、基本努力したがらないよね。ニートから転生したやつとか特に。別に勇者としての権限剥奪するだけなんだからさ、負けてもまた一から努力していけばええやん……ホラ、異世界農業系みたいにさ。何がダメなん?何も理不尽じゃないじゃん。』

「……だからなっ!……そのっ!態度がっ!さっきからムカつくんだよ!―――――ファイヤースパークッ!」


ついに怒りが頂点に達したのか、イキリインキャは手から炎か雷かよく分からない語彙力無さそうな魔法を生成し、主催者へ向けて投げつけた。

本来なら(というか彼の世界なら)この魔法を使っておけば『グワーマイッター!ナ、ナンテツヨサダ!』ってなったはずなんだろうが、そうはならなかった。

主催者へと向かっていった炎か雷かよく分からない物体は、彼の目の前で蒸発した。


「なっ……俺の魔法が……」

『……アラー、試合開始前に早速ルール違反ですか。……これは失格ですね。……ってことで、ハイッ!勇者の権限剥奪しますね。』


彼がそう言うと、イキリインキャの周りを白い光が包み込み、そして、弾けた。


「なっ……何……アレ、何ともない?」

『何ともないわけないでしょ。ステータス見てみ。』


体を見回して、呆れながら言う彼に従うようにステータスを見てみると……


「アレ……1?……全部?……ウソ……だろ……スキル……スキルは……アレ?何も……無い……そんな……ウソだ……」

『ウソなわけあるかボケ。それがテメーの元々のステータスだろうが。忘れたか?ステータスオール∞で魅力MAXの恩恵を神から受けただけで、自分はただのコミュ障豚だったってことを。今見てるそれが、テメーの本質だよ。』

「ウソだ……そんなのウソだ!……っ!そ、そうだ!……アリシア!フィーネ!クローナ!皆!……みっ!皆はぼっ……僕をっ……僕を好きって!……いっ、言ってくれたよね!そうだよね!?」


伊木利は最後の希望にすがるかのように、観客席の方に座っていた彼の取り巻きたちへ向かって叫んだ。

しかし……


「えっ……何アイツ、キモ」

「あんなヤツの事好きだなんて思ってたんだ……オエ……」

「ヤダ、こっち向いてんだけど。顔合わせないでくんないかな。」

「ってか顔ヤバくない?まんま豚じゃん」


返ってきたのは、冗談などではない本気の罵倒だった。


「そんな……ウソだ……こんなのウソだ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――!」


しまいには、伊木利は大声で泣き叫びだしてしまった。

しかし、それに同情するものはいなかった。

むしろ、自分がああならなくてよかったと安堵しているほどであった。


その叫び声が響くなかで―――――


『あ、時間押してるんでさっさと準備入ってもらっていっすか?』


主催者は貼り付けたような笑みをうかべながらそう言った。

基本はギャグです


次回からは主催者の一人称からとなります


こいつとこいつ戦わせてみたい……ってのがあったらリクエストはいつでも受け付けてますんでどんどん送ってください

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