異次元の旅行を提供します!
はいはい、皆さんこんにちは! こちらは平行時空旅行代理店のエミリア・ガダリーミナルですよ!
只今私、ぴーひょろろーっと頭上で虹色の鳥が旋回しているビルホラン断崖に来ております!
ほいっ、見えますかー? でっかいですよねー。あらあら、崖の上があんなに遠い……。
んん? あれにおっかけ回されて落っこちたんだろうって?
いやいや、お客様! そんな物騒なことはあり得ませんよ!
たまたま……そう! 偶々ワームホールの出口が、この崖の下に繋がってしまいました。もちろん、お客様にご提供する際には近隣の街に繋ぎ直させて頂きますよ! ご安心くださいませ!
何しろね、安心安全に説得力を持たせる為に、私がこうして現地に赴いているんですよ? この映像をお客様が見ていらっしゃるって事が、何よりも安全の証拠じゃないですか!
この映像、何せビデオテープですからね! このご時世にビデオテープ! 私このお仕事について初めて見ましたよ!
いつの時代の化石だよって、思わず三度見しちゃいましたもん。太古科学の歴史博物館の『昔懐かしいなんちゃら』コーナーにテキトーに置いてありますよね。これまだ使えるの? って、びっくらこきましたよ?
まあ……ワームホールくぐるとどうしても四次元データはクラッシュしてしまうので、映像をお客様お届けする為にこの化石使うのは、仕方ないっちゃ仕方ないんですけどねぇ……。
* * *
「あっちゃあ……」
べらべらと喋る小さな黒い画面を眺めながら、彼女はぺしりと自分の額を叩いた。
撮影した筈のビデオのテープをどれほど先に送ってみても、あるいは逆に戻してみても、映像の欠片もない。画面には何も映っておらず、ただ、彼女の楽し気な声がするばかりだ。
「参ったなあ。レンズキャップまた取り忘れたって言ったら、所長今度こそ怒るかなあ……?」
嫌だなあとぼやけども、黒い画面は変わらない。
「ううん、ぐずぐずしていても始まらない! ひとまず街までのルートを確保しなくっちゃ!」
ビデオの再生を早速諦めて腰に吊ったポーチにそれを戻すと、彼女は意を決して背にしていた岩陰から表を覗き込んだ。途端。
「PiGyyyyyyyyyy!!!」
「ひぅ?!」
虹色の羽毛に身を包んだ巨大な鳥が、こちらを睨みつけながら咆哮した。
眼下で見上げていた時はこちらを気にした様子すらなかった筈のその巨大な鳥は、好奇心のままに近づいて来た彼女には我慢ならなかったらしい。
「ああああもう、私のばかばかっ。多次元のモンスターに近づく際は地元の住民に生態を確認してから、あるいは住人に聞けなかった場合は速やかに撤退って何度も言われて来たじゃないっ。もーっ!」
どれだけ彼女が後悔したとしても、既に後の祭り。
彼女が断崖から移動出来たのは、とっぷりと日が暮れてからの事だった。
帰りが遅いと、所長に叱られたのも、また別の話だ。