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#62 Heavy Rain 7
横たわる茉莉は動くことなく、まぶたを閉じたままだった。
(……俺はあの日。お前が『もう長く生きられない』といったあの日を……ずっと後悔しているんだ)
茉莉に反応などもちろんない。
存在しない存在として、この時間にいる爻は、涙を流しても床を濡らすことはなかった。
(……茉莉……ずっと一緒にいてくれて……ありがとう)
(それから……気付いてあげられなくて……本当にごめん)
(……これからの人生、茉莉の分まで……なんて言わない。ただ、悔いのない時間を過ごすよ。約束する)
茉莉に手を伸ばす爻──
触れることは出来ず、何度も空を切る手──
(……? 茉莉……)
爻の想いが届いたかのように、茉莉の閉じられたまぶたから、涙がひとすじ流れる。
直後、茉莉はこの世界に別れを告げた──
室内に無機質な電子音が響く。
ピイイイイイイ────




