31/113
#29 Bitter Rain 6
爻が目にしたもの、それは──
(……なんで……お前は…………雨に濡れていない?!)
黒いレインコートを着た人物が、人に紛れるように立っていたのだが、降る雨はそれを貫通し、地面に飛沫と波紋を広げた。
(お前は誰だっ!)
周囲の人をすり抜け、一直線に駆け寄る爻。
しかし、瞬き程の時間と共に、それは姿を消し去った。
(どこに行った! 誰なんだ! これは……お前の再現現象なのか?!)
流れ続ける時間──
救急車はサイレンを鳴らし、どしゃ降りの中走り出す。
『爻? この続きはいずれまた……』
(はっ?! ちょっ、ちょっと待てよ! 何だよこれ! どういうことなんだよ?! お前か? さっきのやつはお前なのか?!)
『…………』
必死の問い掛けにも返事は無く、景色や音がピタリと止まり、気が付けば爻は、スマホを握りしめながらベッドに横たわっていた。
「……どうなってる」




