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#3 艾(よもぎ)と爻(コウ)
「いらっしゃいませ」
女性はにっこりと微笑み、元気な声でお客様を迎えた。
開けっ放しの入り口をくぐり、男は客として店内に入った。
「あの、さっきは……ありがとう」
「い、いいえ……小さな古本屋ですが……どうぞ」
ふと、男は女性の名札に視線を落とす。
それに気付いた女性が一言。
「……艾……よもぎと読みます」
「よもぎ……さん。あっ! すみません。俺、コウといいます」
「……コウさん」
「漢字で書くと、カタカナの “メ” を縦に2つ重ねて……爻」
宙に書いて見せると、艾は笑顔で……。
「……なんだか、その……似てますね」
艾と爻──
憂鬱な雨の日に、2つの笑顔の花が咲いた。