♯109 存在証明
カウンター内に置かれた扇風機によって、はらりはらりとページがめくれていく──
「……これを伝えるために……残りわずかだった時間を」
だったら直接言えばよかったのに……とは、口が裂けても言えなかった。
ポタリポタリと零れ落ちる涙の意味は、爻にもよく分からなかったが、それでも胸の内がスッキリしていくことだけは理解出来た。
「……爻君。そういえばまだ、質問に答えていなかったね。なぜ私達だけが……あの子を忘れずにいられるのか」
涙を拭い、爻はお爺さんの言葉に耳を傾けた──
「実は私も、爻君と同じ…… “最初の者” なんだよ」
惑星の記憶に影響されない存在だからこそ、自分達は大切な存在を忘れることが無いのだという。
「……俺やお爺さんの他にも、艾のことを忘れていない存在が、この世界にはいるのでしょうか?」
「確率的には、とても低い話ではあるが……0ではないよ」
「そうですか」
爻の声は弾んでいた──
「お爺さん。俺……このままここで、働かせて頂けないでしょうか」
艾を忘れていない人と、艾の話が出来るかもしれない。
それは、いなくなってしまった艾が、確かにここにいたのだという存在証明になるのではないか。
爻の中に芽生えたのは、紛れもない……希望であった。