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♯108 想い届く
棚の上にあった1冊の本と、残りの数字 “9” と “23” ──
「……何だか、オッテンドルフの数列みたいじゃな」
オッテンドルフの数列──
爻には耳馴染みがあった。
記憶の糸を辿った先、茉莉と観に行った映画の中に、そんな名前の暗号が出てきたのだ。
シャラシャラと辞書特有の薄い紙をめくりながら、爻は探す。
「……9ページ……23節」
分厚い辞書の9ページは、まだまだ “あ行” が始まったばかりで……。
「…………これは」
とある言葉が丸く囲まれていた。
「………………」
無言で眺める爻を見て、お爺さんも一緒に辞書を覗き込む。
「……そうか。艾は爻君のことを好いていたのじゃな。そして、伝えられぬ想いを、この辞書に残したのか」
「…………………………愛」
赤い色のペンで “愛” の意味の最後に、“爻” と付け加えられていた──