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♯105 変わらぬもの
ドアの取っ手に手を掛ける寸前、爻はその手を止めた──
(……艾が消えた世界で、この店は誰がやっているんだ?)
当たり前のように入ろうとしたが、ひとつ間違えば不法侵入になりかねない。
(……一応、鍵は持っているんだ。俺がここで働いていることは、変わっていないだろう……)
認めたくはない現実を受け止め、爻は店の扉を開けた──
入って一番奥のカウンター。
いつも艾が座っていた場所には……。
「……ん?」
この店の主なのか、ひとりのお爺さんが爻に顔を向けた。
「……君は……爻君だね? はじめまして……艾の祖父です」
「艾のお爺さん? ……はっ! どうして艾のことをっ!?」
静かに微笑むお爺さんは、艾が残した “可能性” の話をし始めた──