105/113
♯103 残されたもの
可能性の分岐点を無事に護った爻だったが、誰からも称えられることはない。
さらに、艾を失ったショックだけが、爻の心に大きな穴を開ける結果となった──
「……でも、どうして俺は、艾のことを忘れないんだろう」
(爻に出逢えたこと……私も忘れないから)
「あの時……艾は “私は” じゃなく “私も” と言っていたな。俺に “可能性を託した” とも……」
2人でいたはずの夜の公園に、今は爻がひとり──
「それに……」
思い返すのは、消えゆく瞬間に艾が口にした言葉。
正確には、言葉は聞き取れなかった為、口の動きなのだが……。
「……どうかされましたか?」
声を駆けてきたのは、パトロール中の警察官だった。
「はい……大丈夫です。少し疲れたので休んでいただけです」
そういうと、近くに転がっていたペットボトルの水を2つ拾い、爻は歩き出した──
「2つ……これは……艾がいた証だな」