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四十七話:人類の再建





 リリィは聖都の中央にあるソリスアウラ宮殿の一番大きな寝室のベッドで目覚めた。


 装飾華美過ぎてある種グロテスクなその部屋に、彼女は未だ慣れなかった。


 「おはよう、女皇帝。ご機嫌麗しゅう。

 寝る場所が逆位置なっていないかい? 」


 ネモが両眼を覆う黒帯を整えるリリィに向かって茶化した。


 「……やめてよ。

 洒落(シャレ)になってないから」


 新ティダス国元首。皇帝リリウミア。

 人類の絶対君主。それが今の彼女の肩書きである。





 経緯をかい(つま)んで説明すると。

 被災者の葬いが済んだころには、リリィの名と功績を知らない者は人類文化圏において居ないほどの知名度が高まった。

 普及したスマホモドキの影響もあり、各地からリリィこそ(まつりごと)を任せるに相応(ふさわ)しいという声があがった。

 DSSは継続して被災地の支援や聖都の水道復旧を続け、そしてその過程において元老院や貴族の腐敗を結果的に暴いてしまったので、ニュースの拡散が即座に行われる現在において民衆の行政に対する不信は極まっていた。


 これに対し、当時の元老院議長パエトーンはリリィを養子として迎え、皇帝継承権を与えると同時に、元老院は聖都民に共和制から再び君主制へ戻すかどうか問う投票を行うことを採決し可決されたのだった。

 しかしそこで異を唱えたのが元老院副議長のノビリタスであった。

 彼は皇帝継承権なら自分のほうが血筋としては大ティダス帝国の直系であるとして、自分が皇帝に相応しいと主張した。

 そうしてどちらが皇帝になるか、聖都において選挙が行われることになったのだ。


 だがすでに知名度において圧倒していたリリィに対し、ノビリタス議員はアッフィルモの事件から続く暗い噂が絶えない人物であったため、大衆に向けて彼はあらためて自分の理想である自由と平和で平等な悪魔とも共存する社会を語り、そのためにしてきた功績をあげて、裕福層や他の貴族、著名な作家やアーティストに自分を支持していることを公表させた。

 リリィは自身のアピールの場において、民衆からあがる現政権への不満や悪魔排斥(はいせき)の声を否定せず、むしろ積極的に口汚く煽っていき偉大な国の再建を掲げる姿勢をとったため、知識人などはこれに疑問を投げかけ彼女には政治観や倫理的に問題があると批判し、情勢は政治家としてのキャリアもあり信用されているためノビリタス議員の方が圧倒的に優位だと予想した。

 都民のなかにおいても良識派を語る多数の人々は、街頭調査でリリィ自身の人気は認めつつ、皇帝には支持しないと表明するものが多かった。

 リリィを大々的に支持する人々は社会的に見下されている者が多く、大っぴらに彼女を支持すると周囲から馬鹿にされる風潮があったからだ。


 選挙に出馬するに当たって、別にリリィはなにか彼女の信条が変わったわけではなかったが、大衆の中間層や地方の不満を煽る選挙の戦略についてはストルオ兄弟と対魔ギルドの入知恵であり、彼らの活躍がなければ避難所村の完成と聖都水道橋再建の着手はできず、民衆の支持集めに多大な貢献(こうけん)をしたことは記述しておくべきだろう。


 そして運命の投票日。

 そこでも様々な悶着(もんちゃく)がありながらも、結果はリリィの辛勝であった。

 街頭調査と多くの自称識者の予見を(くつがえ)し、彼女は選ばれたのだ。


 その後聖都で行われた共和制領主を集めた代表公開(・・)決議は、各領地から大量の観光客が会議を観ようと聖都に押し寄せ、誰もが皇帝リリウミアの誕生を確信し大歓声をあげ、メンツ丸潰れの知識人も苦言混じりに手のひらを返しリリィを支持していた。

 もはやその空気に逆らえる領主貴族などおらず、決議は全会一致でリリィを皇帝と認めたのだった。





 「——人類はもう信じきっているんだな。

 君が英雄の後継者であると」


 そう言ってネモは窓の外、聖都を見渡す。


 「はぁ。

 なんか大変なことになったね。

 本当に皇帝になるとは……。

 全然実感わかないよ。

 別に、やることはDSSの延長線なんだけど、規模が違い過ぎる。

 私、今とんでもない権限を持ってるんだよね」


 リリィはいつもの純白のドレスに着替え、()みじみとボヤいた。


 「まぁ以前はあくせく駆けずりまわった行政へのお膳立てが公然と省略できるようになったんだからいいんじゃないの」


 「私が駈けずりまわらせる立場になっただけだけどね」


 そんな会話をしながらリリィはネモの隣に立ち、一緒に聖都を眺める。


 「……遠いなぁ」


 リリィの呟きに、ネモは同意する。


 「そうだな。

 かつての大ティダス帝国が滅亡したのは、悪魔との戦争だけが原因じゃない。


 当時の人類文化圏を武力によってほとんど掌握していた大国は、隅々までその権威を行き渡らせることが困難になっていた。

 領土を拡大し続けた結果、国防やインフラの経費が大きな負担になっていたし、地方との文化の違いを無視した画一的な統治は例え先進的でも良く思わない奴だっていた。


 そこに悪魔との戦争が起こり、広がり過ぎた戦線の維持ができなくなった結果、首都を墜とされるなんて末路を辿ったんだ」


 だがな。とネモは話し続ける。


 「現在はそう悲観的になる要素でもないかもしれない。

 当時とは飛び交う情報の量と速さが違い過ぎる。

 君が打ち出した方針は即座に全領地に共有されるし、迷ったらいつでも現地と相談できる。

 そしてその領地も、武力で制圧したわけでなく大勢の人が望んだ結果一つにまとまったわけだ。

 つまりやり方さえ間違えなければ最善の選択を即決できる環境が整ったとも言える」


 ニヤけて語るネモに、リリィは仕方なく付き合う。


 「その誰にとっても最善の選択なんてどこにもないのが問題なんでしょうが、この駄馬が」


 ウヒヒと(わら)うネモを無視して、支度を終えたリリィは仕事に(おもむ)く。


 宮殿西側にある皇帝執務室に向かうと、執務管理秘書がリリィを呼び止め伝えた。


 「週明けに、ホスティリス魔王が会談を希望されています」


 リリィは特に驚くことなく了承し、スケジュール調整をお願いした。


 「そりゃあの子は来るよねー」


 執務室の椅子に座りながら、リリィはどうしたものかと思案する。

 会うこと自体に問題はないだろう。

 リリィの支持者は悪魔排斥を叫んでいたし、彼女も悪魔に負けない国造りを公約に掲げていたが、実際戦争を肯定したわけではないし、悪魔を滅ぼすなんてことも言っていない。

 黒涙によって人も悪魔も疲弊した状態で誰もそんな不毛な戦争を望んでいるわけじゃないのはわかりきっていたから。

 だが悪魔側が人類の君主制回帰にどう反応するかが未知数ではある。

 魔王は会談でなにを話すつもりなのか、リリィには読めなかった。

 その時、彼女のスマホモドキが鳴った。


 発信者不明の通話だった。


 リリィは嫌な予感がしながらそれに出る。


 「やぁ、ボクだよ。久しぶり——」


 それはリリィの頭を悩ませていた当の本人。

 魔王ホスティリスことサニーの声であった。





 人々は熱狂した。

 新しい時代の幕開けだと。

 これで人類を覆っていた閉塞感が打破されるのだと。


 しかし時代の移り変わりとはスイッチのようにいっぺんに切り替えられるものではない。

 無理やり変革を起こせばそれもまた強い反動を生むだろう。

 冷めた人々はわかったような顔で、どうせなにも変わらないと皮肉を言い続ける。

 その変わらない世界が、どうして維持されているのか、考えようともせずに。






本来は3、4話かけて詳しく書くつもりだったんですけど、結果的に1話に圧縮されました。

誰か選挙を面白く書く方法を教えてください……。

さて、ついに物語はクライマックスを迎えます。

よければ最後までお付き合いくださいませ。

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