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三十七話:異世界の沙汰も……






 リリィはちょっと(あせ)っていた。


 いくらユタと旅をしていたときの貯蓄が莫大とは言え、DSSを立ち上げ運用し続け、その活動を円滑にするために根回しをしていけば、組織の規模が大きくなるにつれ出費は比例して上がっていく。

 DSSの目的は当初災害対処支援を掲げていたため、営利目的の活動はしていない。

 幸いなことに、彼女は最初から聖女として名が知れ渡っていたため、繋がりを持つための寄付や献金はほぼ最小限で済んでいたが、それでも政治経済が絡む世界で無茶をするにはやはりお金がものを言うことに違いはなく、また怪しげなお金の融資の話は常に彼女の周りに付きまとったが、見返りになにを要求されるかわかったものではないため、基本的に彼女は全部断っていた。


 つまり、お金は出ていくばかりで、収入はほぼない状態が続いていたということだ。


 「まずい。まずいよこれは」


 DSSの所長室でリリィが呟いた。


 ネモが欠伸(あくび)をしながら尋ねた。


 「なにがだ? 

 今のところ全て順調だろう。

 DSSの評判はうなぎのぼりだし、ちゃんと成果は出てる。

 そりゃ不安要素は限りなくあるが」


 リリィは、ちょっと目に涙を浮かべて言った。


 「貯金が、貯金が尽きる……」


 なんだって。とネモは聞き返した。






 そんな会話がされたあと、DSS所長室にオルサとストルオが呼ばれた。


 二人は急な呼び出しにも慣れた様子で、リリィに要件を聞いた。


 「これから二人には、通信会社を立ち上げて貰います」


 リリィの宣言に、さすがに二人も惚けて聞き直した。


 「二人ともいつまでも私の資産のゆりかごで留まるような器ではないことはよくわかっています。

 なので、これからは自分で飯の種を稼ぎましょう。


 幸いなことに、私達には豊富な人材と技術と人脈があります。

 しかも、私にはDSSの活動と連動した素晴らしい企画があります。


 乗るよね? 乗れよ? 」


 リリィは二人の返事を待ったが、帰ってきたのは意外な答えだった。


 「ようやくセレブりやがったお前の財布も音を上げたか。

 いや、いつまで持つのかその焦り顔を(たの)しめたぞ」


 オルサの話に、ストルオが続く。


 「僕はずっとヒヤヒヤして楽しむなんてできなかったけどね。

 リリィもやっと僕らを頼ってくれるようになったんだね」


 今度はリリィのほうが、理解が追いつかないような表情をした。

 オルサは(さと)すように彼女に説明する。


 「あのなぁ。

 俺たちがお前の世界に対する自分を(かえり)みない異常な献身に気付かないわけがないだろう。

 絶対いつか破産するとわかっていたんだから、天才である俺が対応策を考えてやったんだよ」


 僕も手伝ったからね。とストルオが補足する。

 そしてオルサは一つの資料をリリィに渡した。


 そこにはスマホモドキを生産販売する流通ルートや宣伝方法まで具体的に詰められた企画が書かれていた。

 それはリリィが(おぼろ)げに考えていたものをさらに細部を見積もり先読みされたものだった。


 呆気にとられて、リリィは二人を見つめた。

 そんな彼女にストルオはちょっと誇らしげに話した。


 「僕たちはもう、いくつもの危機を一緒に乗り越えてきたんだし、リリィが考えそうなことは大体わかるようになってきたよ」


 未だとんでもない発想についていけないこともあるがな。とオルサは茶化した。


 「ふたりとも……。うう——」


 リリィは机に突っ伏し、湧き上がる感情を(こら)えるように息を吐く。


 オルサとストルオは顔を見合わせ、やれやれ、と言った表情で彼女に声をかけようとすると、リリィはパッと顔を上げ両拳を振り上げた。


 「ぅういいやったぁー‼︎ 

 さっすが私が見込んだ人材、仕事が早い! 


 ギリギリちょっぷで私の首が飛ぶところだったよ。

 これでなんとか前に進める。

 大丈夫! 

 二人ならできるよ! 」


 イヤッハァ‼︎ とシャウトするリリィに、二人はあらためてこいつが上司で本当に良かったのだろうか、と自問するのだった。




 それでも、前に行くしかないのは確かであり、そしてDSSから派生した子会社クィンクェウヌス(通称:ゴヒト)が設立され、まずは聖都でスマホモドキの先行販売を開始した。


 すでに聖都ではアッフィルモの騒動によってその技術は知れ渡っていたこと、販売元がDSSの系列ということもあり一般都民の間でスマホモドキは爆発的に売上を伸ばした。

 聖都に住む裕福層や知識人、貴族は、その流行に疑問を(てい)したが、実はそうした者達の間でも購入者は多数存在していることはゴヒトに丸わかりであった。


 その後、あらかじめオルサとストルオが鍛冶屋ギルドなどと協力し各地にスマホモドキ生産工房を作っていたため、他の領地でも販売を始めると、聖都は流行文化の発信源であったこともあり、他の領地でも飛ぶようにスマホモドキは売れに売れた。


 つまりそれが意味することは、人類の文化圏に置いて、社会の情報伝達の速度が数段飛ばしで早まるということであった。


 こうして安定した収入源を得たDSSとリリィだったが、しかし万事がうまく運ばれるようには、やはり世界は出来ていなかった。


 通信技術の拡散によって、文化のステージが一段上がったかのように、人々の暮らしは激変した。

 スマホモドキを利用したあらたなビジネスが次々産まれ、それによって時代の変化についていけず失業するものもいれば、成功し大金を手にするものもいた。


 硬直しつつあった裕福層と貧困層が、いつ入れ替わってもおかしくない時代に突入したのである。


 だが、スマホモドキが完全無欠の利器であったかというとそんなことは全くない。

 まず、どれほど生産工程をマニュアル化しようにも、需要に生産が追いつかず、さらに現状の技術レベルでは商品のできにムラが出てしまうこと。

 これは商品の価格高騰と購入者に不満をもたらし、良品を(うた)い転売する者や偽物を売る者が相次いだ。

 突然の失業や成金の誕生は社会を不安定にし治安を悪化させ、DSS支持者の中からもその成果を問い直す声も出てきていた。


 ただ、情報伝達の高速化と効率化は被災地への支援をさらに早め、またDSSからも無償で現地にスマホモドキを配ったので、粛々と過ごすしかなかった被災者に他の地域から娯楽を提供しやすくなったことは、良い影響もあったとすべき事柄のひとつだろう。


 しかしこれらはほんの可愛い一例であり、リリィにとってなにが一番の問題であったかと言えば、サルボ教会と対立してしまったことであった。





ギリギリ〜♪

書いてるときのBGMにテンション引きずられてリリィのキャラがブレたような。

最初からこんなもんだったような。

大丈夫!彼女の場合は♪

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