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二話:天に唾吐き馬に念仏





 リリィは(いきどお)りを感じていた。


 彼女が拾った『英雄の眼』は、この世界の仕組みを(あば)いて視せた。


 もともと、この世界はステータスやレベル、スキルなどが、広く一般に認知されている。

 つまりステータスを自分で確認することができるような世界だった。


 しかしそこに記述されている数値やスキルは、とくに実際の世界の事象と結びついていることもなく、なにか確かな法則や計算式があるわけでもない。

 神であるユタが適当に創ったものだった。


 ユタが健在であったころなら、彼が行く先々でその都度数値をいじればそれで十分世界は回っていられたが、失踪してしまった今となっては永久に変化することのない。

 意味のない記号の羅列(られつ)になってしまっている。


 もうこの世界には、経験値もレベルアップもスキル習得もなにもないということだ。






 そんな世界に生まれてしまったことをリリィはネモに愚痴(ぐち)っていたが、ピンク色の一角獣は鬱陶(うっとう)しげになだめるだけであった。



 リリィとて、この世界に生まれついてしまったこと自体はもうどうしようもないことはわかっていた。

 それでも世界が終わってしまうと知って、神に見捨てられたと知って、さぁ納得しろというのもまた難しい。



 なんどもなんども、リリィはネモに世界の矛盾点を指摘する。

 ステータスなんてそもそも必要だったのかと、システム自体に意味がなかったじゃないかと。

 だからこんな形で強制的に切り捨てられてしまうなど理不尽だと訴えた。



 それを角の折れたピンク一角獣はどうすることもできない。

 なぜなら、そうした世界のシステムの杜撰(ずさん)さと、神に見捨てられたこととは直接的な因果関係は薄いからだ。


 ——見捨てられた原因は、そこではないのだから。


 ただひたすらに、そこに不満を言っても意味がないことを(さと)そうと、ネモはリリィに語り続けた。


 一人と一頭は、討論しながら、泉の周りを歩いた。


 足元に生える水辺の草は踏みしめられても、折れるものかと反発する。

 それを、リリィはふと眺めた。

 青草は若く枯れるまいと、必死で地面に根を張り、彼女が足を退ければ再びピンとたちあがった。



 リリィもようやく、ネモの言うことを聞いて愚痴るのをやめたが、しかし不貞腐(ふてくさ)れてそっぽ向いて黙ってしまった。





 森の泉に、夕暮れの陽が差し込む。

 樹々の静寂を映す水鏡の瑞々しい虚像も、風に運ばれ透き通る水面に浮かぶ落ち葉の色鮮やかさも、今はただ終わっていく未来への焦燥感を煽るだけだった。

 夜が来れば、再び明日を迎えられる保証はどこにもない以上、少女の感傷も仕方がないとわかっていた。





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