第一章 閻天拳王は村娘に憑依する 7
(隙だらけだ!)
ジェフがラルに対して抱いた印象だった。しかし、同時に感じる事がある。
(しかし……この闘気)
だがそれに反してラルから漏れ出る殺気や、雰囲気は歴戦の戦士をも凌いでいた。
「単独型の魔法使いか?」
ジェフはグルグルとラルの周囲を回りながら様子を伺う。魔法使いには複数通りある。まずはそれを調べる必要がある。
通常、魔法使いには、大別して三種類いる。
一つは遠距離型、これは離れた場所から大規模な破壊魔法を放つ種類で、戦争などの勝敗はこの遠距離型によって決められるといっても過言では無い。警戒すべき脅威だが、しかし、近接戦では力を発揮しない。
二つ目は、支援型。味方の能力向上や、回復などを務める。こちらも戦いにおいては重要な役割だが、主に、医療や、研究などで王国に囲われている為、こちらも近接戦向きではない。
三つ目、これをジェフは警戒していた。単独型、これは魔法使いの中でも異質で、自らに魔法をかける事により、身体能力の向上や、寿命のコントロール。状態異常の解除など、単独で戦闘力を持つタイプ。こちらは近接戦においては力を発揮するが、しかし、自らに魔法をかけれる者はまれで、そして魔法の効果も他の二つに比べると汎用性に劣る。だが数は希少で国が把握しているのもごく僅かだ。
「こんな辺鄙な村にいるとも思えんが……しかし!」
ジェフはラルの背後にまるは地面を跳んで切りかかる。
「身体能力の向上もたかが知れている!」
ジェフの剣がラルに迫る。それは普通の人間なら意識出来ないほどの速度。
『ギョロ……』
しかし、それをラルの目は完全に見ていた。ジェフは視線が交わると反射的にその場から跳んだ。
「はぁ……はぁ……」
(馬鹿な……)
額から無自覚に流れる汗。ジェフの胸中に宿ったのは恐怖だった。
(あのまま切りかかっていたら……俺は死んでいた?)
そう思えるほどにジェフは不思議な圧をラルから感じていた。
「ほう……中々感は良いな、己と相手の力量差くらいはわかるか」
ラルの挑発にジェフははっと視線を上げる。しかし、それでも恐怖は拭えない。
「俺の方が剣の分、間合いは遠いはず。だが……何故だ」
ジェフは剣の達人だった。しかし、丸腰のはずのラルの制空権がすっぽり自分を収めていたのを感じた。
「魔法……といったな、この世界は魔法が存在するのか?」
ラルが尋ねるとジェフは唾を飲んだ。
(馬鹿な……そんな馬鹿な……奴からはさっきから魔力を感じない……もしかして……本当に……単純に強いのか? この俺よりも! この小娘が!)
「お前は違うのか? どうして女の身でこれだけの拳気を纏える!」
「フハハハ! 決まっておる!」
ラルは拳を握りしめた。それは大気すら圧縮する様なそんな力強さを感じさせる。
「己が拳こそが最強であると! その意思よ! 我に挑んだ男達はみなその気概を持っていたわ! 貴様の様に、自らの剣に疑いを持っていては我が拳の高みには到底たどり着けぬわ!」
「俺が……疑っている?」
ジェフは自らの剣を見つめた。かつて……騎士として賜った宝剣。その宝剣が錆び付いていると言われているのだった。
「そんなはずが……そんなはずがない!」
「ならば試してみるが良い。その命を懸けて、自らの剣をふるうがよい」
「そんなはずがぁあああああああああ! 無い!」
ジェフは何かに急かされる様にラルに再び切りかかった――。