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第一章 閻天拳王は村娘に憑依する 2

「悲鳴ですよ! 悲鳴!」

 アイルが慌てた様に両腕を振る。

「うむ」

 しかし閻天拳王はまるで小鳥の鳴き声でも聞いたかの様に無反応だった。それにたらっとアイルが汗を流す。

「うむ……ってもしかして、何もしないつもりですか?」

「何のことだ? 我はこれから魔王の所に向かうのだぞ?」

「いや! 普通悲鳴が聞こえたら見にいくなり助けに行くなりするでしょう! 尋常じゃない悲鳴でしたよ!」

「フハハハ! 我と相対した者は皆、悲鳴すら出ぬ」

「いや、何を張り合ってるんですか! とにかく行きますよ! ほら! それとも何があるのか分からなくて怖いんですか!」

 アイルが何気なく言った言葉。しかし、それは閻天拳王の表情を一変させた。

「我が恐れる……だと?」

 肉体は無い。しかし、閻天拳王の圧力が膨れ上がるのをアイルは感じた。だからアイルはそれに慌てて首を振る。

「い、いや~そうじゃなくて……恐れないですよね……はは、でもほら! 興味沸きませんか! ひょっとしたら、貴方が見たことも無い魔獣とかが出たのかも!」

 アイルの苦し紛れの言葉に、閻天拳王が少し眉を上げる。

「ほう……魔獣か……それは強いのか?」

「ええ、それはもう……もう凄いですよ! きっと!」

「うむ」

 一つ重くうなずくと閻天拳王は歩き出した。何が起こってるのか分からないアイルはその背をぼ~と眺める。

「何をしておる! 早くついて来るが良い!」

「あれ! 行くんですか!? いや、ちょっと待ってください!」

 慌ててその背をアイルは追いかけた。とうの本人である閻天拳王は高らかに笑う。

「フハハハ! 魔獣か! どれほどの猛獣か、我が確かめてやろう!」

「や、やっぱり人の話聞いてない!」

 アイルは半泣きでそう言った――。



「ふひひ……あまり大きな声を出すなよお嬢ちゃん。可愛い顔に傷がつくぜ?」

 頭にバンダナを巻いた小柄な男が、寝間着を来た少女の顔をナイフでなぞる。その冷たい感触に少女は小さな悲鳴を上げた。

「おいおい。俺達は村の様子を見に来ただけだぜ。先に手を出したら、お頭に叱られるぞ」

 その傍らに立っていた。こちらも同じ柄のバンダナを巻いた長身の男が半笑いの表情で茶化すようにそういった。それに小柄の男がひひひっと笑う。

「いいんだよ。どうせ村には爺と餓鬼しかいねえ。周囲は囲んだし、女はやって、他は殺すんだ。それなら、先に来た俺達が犯した方が得だろうが」

「カカ! そうかもな」

 その時、少女の悲鳴を聞きつけたのか、叩きつける様な勢いで、少女の寝室であろう扉が開く。

「何をやってるの! あんた達!」

 現れたのは少し背の高い女だった。こちらも寝間着姿で慌てて来たのか髪が乱れている。素朴な顔立ちだが、整った美しい顔をしていた。

「ひひひ、ラッキーだな。女が二人か、お前どっちが良い?」

「俺はこの餓鬼かな。小さい方が何かと具合が良い」

「ひひ、変態め」

 しかし、女の剣幕など、どうという事も無いのか男達はどちらを襲うかを相談していた。

「ラ、ラルお姉ちゃん……」

「イリム。今助けてあげるからね」

 震える少女、イリムに優しいく頷くと、ラルは近くにあった花瓶を手に取った。それに男達は笑う。

「いひひ、いいぜ。抵抗してくれた方が何かと興奮する」

「イリムを離しなさい。今なら見逃してあげる」

 強い言葉をラルは吐いた。しかし、その足は震えている。どうみてもこの男達が盗賊で、人を躊躇なく殺す事をラルは理解していた。

「見逃す! ふひひ! 見逃すだとよ」

「ははは! 見逃す……ねぇ」

 長身の男は笑いながら、瞬時に消えた。ラルがその様にぎょっとしていると、男はラルの目の前に現れる。

「立場を考えろよ」

 男はラルの頬を叩いた。軽い調子だったが、ラルは壁際まで吹き飛ぶ。

「お姉ちゃん!」

 イリムの悲鳴を背景に男はラルに近づいた。そしてその髪の毛を掴み、自らの顔に近づける。

「お前に出来る事はせいぜい。無様に足掻く事だけなんだよ。俺達を楽しませる。それだけがお前に出来る事だ」

「……誰があんた達に――」

 ラルが言葉を発しきる前に男の拳がラルの腹に突き刺さる。衝撃で呼吸の出来なくなったラルは苦しそうに地面を這いずった。

「ふひひ、あんまり傷つけてももったいねえ。さっさとやろうぜ!」

 小柄な男はそういうと、イリムの服を切り裂いた。少女の白い肌が月明かりに映し出される。

「や、やめて……やめてください」

 涙を流し悲鳴すら出ないイリムを見てラルが懇願する。それはしかし、男達を喜ばせただけだった。

「ははは! やめる訳がないだろう! 俺達は最強の盗賊、黒鷲だ。弱いお前らは俺達に搾取されるしかないんだよ!」

 男はそう言ってラルの服を乱暴にはいだ。

「いや……」

(私はいい……でもイリムだけは……)

 切なる願い。ラルはそれだけを思っていた。イリムは幼い。そんな少女がこんな男達の慰み者になるのが我慢出来なかった。

「誰か……誰か助けて!」

 力の限り叫んだ。しかし、それに応える声は無い。

「はは!」

 長身の男が笑いながらズボンを脱いだ。それにラルはぎゅっと手を握る。

(殺して……殺してやる!)

 強くそう願った時だった――。





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