第一章 閻天拳王は村娘に憑依する 10
(くそ……何か落ち着かない)
ジェフはイライラと膝を叩いた。普段嫌な予感などは信じていない。しかし、それでも胸のざわめきを抑えられなかった。
横に座るバランも神妙な顔をしている。バランはどちらかというとジンクスなどを信じるほうで、感覚に従う場面が多い。相反するタイプの二人だが、不思議と相性は良かった。
するとその時だった。空を飛翔する燕。バランの使い魔が戻って来る。
「ジェフ。戻って来た様だ」
バランは燕を手に乗せた。すると燕が粒子となり、そこに映像が流れる。
「こいつは見て来たものを映し出せるんだよ」
バランの説明と共にクリスワード家の映像が映される。しかし、そこにはジェフが見た事が無い光景が映し出されていた。
「何だこれは! おいバラン!」
ジェフは思わず叫んでいた。映し出された物、それはクリスワード家が治める鉱石場を襲う魔物の軍勢だった。そしてそれは明らかに数人の人間によって統率されていた。
「嘘だろ……魔物がこんなに統制された動きを取るなんて……これは……」
バランが何かに気付き、そしてそれを口にする。
「この独自の剣……これはナイム共和国の部隊じゃねえか!」
「ナイム共和国だと」
(なぜだ! 国の位置としてもナイムがここまで進行するなど! ありえん! 他の騎士団は何をしているのだ!)
「なぜだ! なぜ他の騎士は動かない!?」
「わからねえ……が、魔獣専門の俺達がここに押しやられた理由は分かったぜ」
「! すぐに戻るぞバラン!」
「ああ、俺の団員もすぐに助けに回そうとしよう」
バランとジェフは慌ただしく準備を開始する。
(エリナ様! どうかご無事で!)
ジェフは団員への連絡をバランに任すと、単騎でクリスワード家の領土に向かった――。