第一章 閻天拳王は村娘に憑依する 9
ジェフが騎士となり配属されたのは、王国の脅威となる魔獣を狩る。白鷲騎士団だった。その名の通り、何処にでも飛んでいき。魔獣を倒す。魔獣は未知の性質を持つ物が多い、それだけの脅威を持つ相手と戦う故、この団は武闘派揃いの最強の騎士団といえた。
その白鷲騎士団に配属されて二年、ジェフは現在、王国周囲を徘徊しているといわれる、四本角の魔獣を探索に来ていた。情報は少ないが、人を簡単に踏みつけるほどでかいとジェフは聞いていた。
「よおジェフ」
「おう。バラン」
そんなジェフの背後から男が酒を持って現れた。ジェフの同期にあたる男バラン。体格は長身で痩せているが、腕に広がる夥しい傷が男が只者ではない事を示していた。
「どうだ? 一杯」
「馬鹿、任務中だぞ」
「いいって、いいって。滅茶苦茶でかいんだろ? その魔獣は。それなら気づくに決まってる」
「まあ、そうだが……」
(確かにそうだ……だがこの任務何かおかしい……)
「ジェフ。お前も何かおかしいと思ってるんだろ?」
「……ああ、場所が気になるのだ。こんな辺鄙な山奥にいる魔獣討伐。本来ならば警戒調査の段階だろ。しかし、俺達、戦闘部隊が配備されている。しかも、シュロクハイス連合国から直接の命令だそうだ。なぜだ」
「ああ、俺もどこか政治的な意図を感じている。最近、我がグランデ王国と、シュロクハイス連合国とは鉱石の件で揉めているらしいからな」
「うむ……」
ジェフの表情が曇る。鉱石の採掘権、これはクリスワード家が全体の一割ほどを取りまとめているからだ。当然クリスワード家が発掘した場所であるが、生活にかかせない鉱石、その供給バランスは常に一定の緊張を保っている。
「シュロクハイス連合国は隣国のナイム共産国と緊張状態だ。武器の開発の為に鉱石は喉から手が出るほど欲しいはずだ」
「わかってはいる。しかし、クリスワード家は誠意をもって対応している。荒事になるとは到底思えん」
「ああそうだな。気を悪くしたら悪かった。だがまあちょっと気にかかる。王国の様子を見てこよう」
「見てくる?」
バランの言葉にジェフは戸惑った表情をした。この山奥から王国まで馬で走ったって一日はかかるだろう。
「ああ、おっとこれは内緒にしてくれよ。俺の切り札なんでな」
そういうとバランは懐から一枚の紙を取り出した。それには何か複雑な文字が書いてある。
「何だそれは?」
「へへ、昔知り合った東洋人から貰ったのよ。これに俺の血を付けて……念じる」
バランが紙に血をつけ、額にそれをあてると紙は一羽の燕となった。
「何だ? 魔法か?」
「いや違う。魔力とは別な力らしい。まあともかく、こいつなら状況を三時間もあれば知らせてくれるだろう」
バランは宙に燕を投げた。燕は光を纏い空を飛んだ。
「切り札の一つはもっとかないとな」
「全くお前は食えない男だよ」
底の見えないバランにジェフは困ったように笑った――




