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持久走 みんなで歩けば 怖くない

作者: 青木ユイ

「今日十二分間走だよ~! どうしよう美紗、うちめっちゃ走るの苦手なんやけどぉ~」

「私も嫌だよ。朝っぱらからそんなこと言わないでよ」


 私は、朝から嫌な事を言ってくる親友にそう言った。

 今日は、沖縄に雪が降るほど寒い日だった。そうなれば、こっちのあたりなんてもう、電車が止まるほどの大雪になるんじゃないか、とか、とにかく大雪警報とか出て学校が休みになるだろうと思っていた。それが、なんだこれは。

 晴天。青空。雲もほとんどない。

 ――――空は、私たちの希望を断ち切った。


「オーマイガッ!」

「うるさい」


 横でうるさい親友を黙らせ、私はため息をつく。太陽が出ているのはいいことだけど、風も吹いているからあまり意味がない。それだったら、雨でも雪でもなんでもいいからとりあえずグラウンドを汚してほしかった。

 今日の体育は三時間目。今は、朝休み。雪はまったく降っていない。プールの水の表面が少し凍っているくらいなものだ。三時間目までに大雪が降ることはまずないだろう。

 インフルエンザで学級閉鎖にでもなればいいかと思ったが、もうすでにほとんどの生徒が来ているようだった。

 走らないでいられる方法はもうない。

 まあ、しいて言えば私自身の体調が悪くなればいいのだろうが、あいにく私は元気である。私のバカ。腹痛でも起こしやがれ。



 そして、何事もなく三時間目がやってきた。寒い寒いと文句を言いながら着替え、今日持ってきた今年初めてのジャージを着る。この間の体育では忘れて痛い目に遭ったから、今日はちゃんとカバンに詰め込んできたのだ。

 首が寒くなるのが嫌だけど髪を一つ結びにして、靴を履き寒空の下へ。その瞬間冷たい風が吹いてきて、天気を呪いたくなった。


 太陽光パネルを付けたおかげで、発電量などが確認できるパネルの気温の部分を見ると、わずか1℃だった。いじめに等しい。

 先生は私たち生徒を殺す気か? 先生たちは長袖長ズボンのジャージにネックウォーマーまでつけているくせに、私たちには「走るときはジャージを脱げ」と言う。一度半袖になってみるがいい。私たちの気持ちが分かる。


「よろしくお願いします」

「お願いしまーす」


 ついに体育の時間が始まった。なにがお願いしますだ。なんのよろしくもありません。さあ今すぐに終わりましょう。

 空は相変わらず晴れていて太陽の光もあったからよかったが、風による寒さの方が明らかにまさっていた。風とか吹くんじゃない。寒いから。ほんと寒いから。少しも寒くないって何の冗談だよ。

 前の時間とは違ってジャージもあるから、準備体操の間はまだマシだ。昔は授業が始まったらジャージを着るなとか言われていたらしいから、まだいい方なのだと自分に言い聞かせる。女子でも萌え袖してたら竹刀で叩かれるんだよ。私たちはきっと幸せなんだよ。


「前半と後半どっちする?」


 親友はそう聞いてきた。ちなみに李緒りおって子だ。

 李緒と私は、記録をつけ合うペアだから、一緒には走れない。代わりに、相手の記録を付けるのだ。

 十二分とか、ありえないよ。ていうか、なんで走らせるの? 体力づくりだったら競歩とかでだってできるよ。そうだよ、みんなでウォーキングしようよ。そっちのが絶対いいよ。みんなで無言でザッザッて歩くんだよ。……見てる方からしたらかなりホラーだけどね。


「どっちでもいーよ。李緒が好きな方選んで」


 結局、私が前半になった。嫌なことはさっさと終わらせた方がいいから、前半でよかった。

 ちなみに、李緒が後半を選んだ理由は仲の良い友達が後半だったからだろう。私は親友と呼んでいるが、別に相手は友達程度にしか思っていない気がする。いや、ほんと、別にいいんだけどね。私気にしてないけどね。


「よーい、スタート」


 いやー、始まりましたね。とりあえず、ちんたら走っとけば何とかなる。別にたくさん距離走らなくたっていいんだから。ただ十二分間黙々と走り続ければそれでいいんだから。

 と、思っていたけど、早くもバテてきた。おいおい、しっかりしてよ私。まだ一周目だよ。少なくとも四周は走らないとさすがにあれだよ。

 ちなみに一周400mの、持久走用の拡大されたコースである。拡大せんでいい。道迷うわ。いや、さすがに白線引いてあるから迷わないけど。

 と、そんなことを考えているうちに男子がどんどん抜かしてくる。おいちょっと、すれすれを抜かしてくんのやめて。ぶつかる。

 あ、ちょっと、足引っかかりそうだっつの。だからこっちに寄ってくるなってっ!!


 階段を上がるところで手すりに寄り掛かってちょとだけ休息。ここが場所的には一番好きだ。

 それに、一年の時ここでしんどくてちょっと歩きかけてたら三年生っぽい人に「歩くな、走れ!」って言われたんだよね。なんか、ちょっと勇気づけられたというかなんというか……。とりあえず、ちょっと思い出の地的な感じなんです。


「あと3分!」


 体育の先生のでっかい声。早いな、結構。疲れてるけど、でも去年よりはつらくない気が……。

 あ、最初っからちんたら走ってたからか。いろいろ考えてたし。


 そんなわけで、十二分経ちました。終わりました。はいっ、おーわーり! はいおーわーり! っさあ帰りましょう!

 ……帰れないですよねー。まだ三時間目ですもんねー。



 つーわけで李緒たちの後半グループのところは割愛、と。別に何も面白いこともなく終わったしね。

 やっと授業が終わって、次は理科。着替えを済ませて教室に戻るとき、もう一度思った。


 ――――競歩でよくない?


 持久走 みんなで歩けば 怖くない


 次からはみんなで歩こうぜ! と思ったりした今日の話。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実にあるあるな話に私は思わず笑いました いや、学生の頃(一応今も学生ですが)の体育で長距離マラソンなんてあった日にはそんなこと考えますよね 私もよくクラスメイトと一緒に歩いていました。おかげ…
2016/01/31 13:16 退会済み
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