魔王様とマシュマロプレイ☆
魔王はベットから飛び起きた。
いつもの豪奢な天蓋付きのベッドに朝の日差しが降り注ぐ。良い天気だ。
「今日で一週間連続じゃないか」
そう夢を思い出した魔王は溜息を付く。
昨日は今日と同じ地下牢で、いきなり勇者に服を紙のように破かれて、以下略。
確かにここ一ヶ月近く魔王は勇者に会っていない。
理由はホワイトデーに、魔王が勇者に会いに行くのが恥ずかしいというか、悔しいのもあって悩んでいたからだ。
それまでは勇者がどの程度強くなったか見てくるという名目上、2~3日毎に襲い掛かり、いつもいつも勇者に美味しく頂かれていたわけだが……。
「一ヶ月も会わないなって初めてかも知れない。でも、あんなこと言われて……会いたい、でも、そんなの……」
と、ここ一ヶ月間し続けた悩みを反芻する。
しかもホワイトデーは今日だ。
うーと魔王は小さなうめき声を上げて、フリルで飾り立てられて毛布に潜り込む。
寝よう。
寝てしまえばそんな事考えたりしなくてすむし、気が付けば明日になっているかも。
そう魔王は現実逃避しようとした。そこで、勢いよく部屋の扉が開かれて部下が駆け込んでくる。
「魔王様! 大変です! 勇者が攻めてきました!」
魔王は慌てたように支度を始めたのだった。
「ははは! よく来たな勇者よ……何で勇者一人しかいないんだ?」
髪が乱れていないかとか一生懸命鏡を見て確認して、勇者と戦う用の正装に着替えて、魔王が二人も座れるような大きく豪奢な玉座に座りつつ、傲慢で尊大な偉大なる魔王陛下っぽく見えるかなーと思う仕草で座ってみたりする。
実はこの体勢でいるのは結構辛いのだが、一応ラスボスなのでそれっぽくしないと駄目だよなーと魔王はがんばっていたのだが。
なのに来たのは勇者一人で何故か、凄く、否、もの凄く不機嫌だった。
魔王の問いに不機嫌そうな勇者は、ぶっきらぼうに答える。
「……他の仲間は戦利品を楽しむのに忙しい」
「戦利品? でもそんな楽しむようなものあったかな?」
首をかしげながら、魔王は参謀役の部屋に音声だけを繋げた。のだが……すぐさま魔王は音声を切った。
まさか部下の濡れ場を聞くことになるとはいやはや……ちょっと待て。
「今の無理矢理なんじゃ……助けに行かないと」
「……行かせると思うか? 後あの二人は恋人同士だ。維持を張って抵抗しているだけで」
「で、でも心配だし……」
そもそも勇者って悪いことしないほうの人だよね、人助けとかする優しい方の人だよねと魔王は思うわけなのだが、そこで勇者がポツリと呟いた。
「逃げるのか?」
「え?」
勇者が冷たい声音と暗い顔で魔王へ近づく。
「おかしいと思っていたんだ。ここ一ヶ月全然、魔王は俺の所に来ないし」
「あの、勇者さん、もしもーし」
更に着々と勇者は魔王に近づいてくる。魔王は何か身の危険を感じる。
「ま、待て、話し合おう」
「……他に男が出来たんだろうって皆言うんだ。俺は、捨てられたんだって」
「だ、誰がそんな……」
距離がずいぶん縮まっているが、魔王はそれどころではない。
「そうだよな、魔王はこんなに綺麗で可愛いものな。幾らでも男をくわえ込むことが出来るよな」
「ひ、酷い、僕はそんな尻軽じゃない!」
けれど勇者は近づきながら続ける。
「……嘘つきが。もしかしたなら病気かもと心配していたのに、こんなに元気で。ああ、そういうことなのかって俺は思ったんだ」
「あの、話聞いているのでしょうか、勇者さん……」
気が付くと、魔王の目前に勇者が立っていた。
「……誰かに奪われるくらいなら、いっそ……」
「待つんだ勇者。まずは、そう、全ては僕に勝利してからの話ではないのですかと思うわけなのです」
そうなのだ。
一応勇者と魔王はそういうもので、えっと、勇者の笑みがとても怖いのですが。
「ああ、なるほど。完膚なきまでに叩きのめして逃げられないようにして、監禁して欲しいとそういうことだな? そうか、そうすれば一生魔王は俺から逃げられないよな」
「ち、違う……」
「誇り高い魔族の長である魔王陛下様には、下等な人間なんかに喘がされる屈辱を、たっぷりと味あわせてやるよ……」
更に危険な方向に走ろうとする勇者の発言に、魔王は本気で身の危険を感じたので、年長者らしく冷静にものを考えてみて、
「というか、何で他の男に走ったって言うんだ!」
「だったらなんで俺の所に来なかった、一ヶ月も!」
「それはチョコレートを渡した時に、ホワイトデーは自分からようがなくても愛にこいって勇者が言うから、僕はずっと悩んでたんだ!」
「……そんな話で騙されると思うのか?」
嘘をつくなよという目で見られた魔王は、ムカッと来る。
そして、それにある思いを魔王に抱かせる。
「ぐっ、本当の事なのに! そもそも、勇者だってまるで、僕の体目当てみたいじゃないか!」
「! そんな事は無い!」
今度は珍しく勇者が焦りだした。だから、魔王は続けてやる。
「だったら僕の体以外で好きなところを言ってみろ!」
ふふんと、調子に乗る魔王に、勇者は黙った。
黙って何処が好きかを考えて見る。
まず、声が好きだ。それにこの性格も好き。自分は賢いと思っているのに間抜けで、どこか大事なところが抜けている、そんな所も可愛い。それに魔王がすぐ傍まで来ると良い匂いがする。くらくらしてすぐに食べてしまいたくなるのに、無防備に近づいてきて。そう、今だって自分は敵なのに魔王は調子に乗ってこんな可愛い質問なんかして、自分が勝った気になっている。可愛い可愛い可愛い可愛い。どうしてこんなに可愛いんだろう。いや、何故とかいわれても可愛いしおいしそうだし綺麗だし、襲いたい。自分だけのものにしたい。可愛い可愛い。そういえばずっとご無沙汰で、ああ触りたい。触れたい。可愛い、襲いたい。(以下、無限ループ)
そんな黙っている勇者の様子に魔王は勝ち誇ったように、
「ほら、言えないではないか。やっぱり体目当てなのだな!」
と魔王はいってみて、自分でダメージを受けた。
そうか、勇者は魔王の体目当てだったのか。
そこで、魔王は勇者にガッと両肩を掴まれた。勇者の目はぎらぎらとした劣情が垣間見える。
「ゆ、勇者、えっと、あの……」
「犯らせろ」
「だ、駄目だ。そもそも、戦ってもいないのに!」
「ああ、いいぞ。戦っても。伝説の装備プラス特殊能力で、瞬殺してやるよ」
「! な、何の特殊能力。というかどんな……」
「『主人公補正』という特殊能力だ。これを使うと相手は弱体化して絶対に勝てない。しかも、能力値も上昇する! 魔王が他に男をくわえ込んだと聞いて神殿で呪っていたら、人間のほうの神様が『なにそれ、薄い本のネタにするから、全面協力してあげる☆。ついでに夢の中で魔王をひたすら好きなように弄ばせてあげるねっ☆』って」
「……おい。まさかあの夢って……」
「頭に来て色々……何で魔王が知っているんだ?」
「いや、だって、初めはメイドプレイ、次は花嫁プレイ、次は……」
勇者があさっての方向を向いた。
「……全部魔王が悪いんだ」
「人のせいにするな! 勇者が勘違いしただけじゃないか! というか、我が魔族の神はどうしてそんな話を僕にしてくれない。あまつさえ勇者ばっかりそんな強くして!」
「あー、なんか魔族の神も、イベントが近くて、素敵なネタを頼む、魔王を歪んだ男の欲望の餌食にしてしまえって言ってた」
「ちょ、そんな、酷い!」
そう答えながら、勇者は魔王の服に手をかけるけれど、魔王は必死で拒む。
「ゆ、夢の中であったみたいのは嫌だぁああ」
「……いや、あれは魔王が浮気したと思ったから」
「うう、僕の事が好き?」
「ああ、好きだよ」
そう答える勇者に、魔王はにやりと笑った。
「だったらチョコレートのお返し、持ってきているよな。なければ町までいって買ってくるんだな!」
そう答えつつ、魔王は逃げようと思った。
だって、このまま突入したら勇者の欲求不満約一か月分を受け止めることになりそう。
そういうのは魔王だってさすがにきついだろうと思う。そもそもあの劣情を含んだ視線からして、物凄く啼かされそうなのだ。が、
「一応持ってきたんだが」
「え?」
予想外の答えにあたふたする魔王の様子に、勇者は目を細める。
「……やっぱり他に男が……」
「違います、全然違います!」
「じゃあ、食べさせてやるよ、せっかくだから」
「え、で、でも」
「ちなみに嫌だと言ったら……」
「ぜひ、食べさせて頂きます!」
魔王は真っ青になって頷いたのだった。
その日は気絶するまでされてしまったのは言うまでも無く。
後から聞いた話では、勇者の仲間は全員魔王の部下達と隠れながらの恋人達であったらしく、しかも、魔王が男をくわえ込んだという噂は、勇者が魔王が来ないとあんまりにもいじけていたので、やる気を出させる方便だったらしい。
はた迷惑な話だが全てが丸く収まって。
その後、全員が幸せに暮らしたという。
「ちょ、勇者、もうやだ、むりぃいぃぃぃぃ、ぁああああ」
めでたしめでたし。
はっぴーえんど?