ホワイトデーのとある魔王様の一日
今度のホワイトデーはどうしよう、そう魔王は悩んでいた。
何故悩んでいたかといえば、バレンタインデーに勇者にチョコレートを無理やり食べさせられたからだ。
およそひと月前、勇者と喧嘩した魔王。
周りからは痴話喧嘩だの何だのと言われてしまったが、そもそも途中でゆっくりして村の危機やら何やらしていて一向に勇者が魔王城に来ないのである。
なので魔王が自ら会いに行って実力を試すたびに倒されて、そのままベッドに引きずり込まれていた。
だがこんな風に手加減したとしても魔王を倒せる実力があるので、先に魔王の城に進むようにした方が良いんじゃないかと魔王本人が提案した所、
「魔王が自分で俺の所に来てくれるし、今のところ何の問題はないよな」
とほほ笑まれた。
勇者の笑顔に一瞬見惚れてしまった魔王だが(勇者は美形である)、そんな理由で来てくれないのかと怒った魔王は、この前のバレンタインデーに可愛い女の子の彼女を作ってやると怒ってその場を逃走した。
だが、魔王は見かけが可愛かったので女の子に玩具にされて女装をさせられたり色々するだけで、彼女は出来なかった。
そんなこんなでバレンタインデーがきて、何とかナンパをしようとふらふらしていたらすごい美人に出会った。
魔王よりも背が高くて、何処となく勇者に似ていたのでふらふらついていった魔王。
もちろんその女性は勇者だった。
そんなわけで、勇者に襲われた。
怒った魔王がもう勇者なんかに会わない、と言い出したのも当然だけれど……。
「なんでしている最中とはいえ、あいつのチョコレートを食べちゃったんだろう」
している最中に、一口サイズのチョコを差し出されて、何でこんな時にと思っていたのだけれど、
「これ、俺の手作りだから」」
その一言で魔王はそのチョコレートを口にした。
口にして、それがやけに美味しくてもう一つとねだったら、自分からキスしたらもうひとつくれるというので勇者に自分からキスをした。
「あのケダモノが。何処の盛りのついた雄だ……お土産のチョコは美味しかったけれど」
別れる時に手作りチョコをお土産にしてくれたので、それは良かった。
だがそこには紙が入っていて、
「『ホワイトデーのお返しは、チョコレートの三倍な』って、しかもすごくお値段が高いし、しかもホワイトデーから日が経つにつれて、利子がつくからなとか、体で支払ってもいいんだぞとか……うぐっ、これはもう、ホワイトデーにお返しするしか無いじゃないか」
そしてそのホワイトデー用のマシュマロとキャンディーと、クリームのいっぱい載ったパイを用意した魔王。
ホワイトデーは3/14→π→パイな感じで、勇者本人には会わずにお届けして、勇者に出会ったらそのパイをぶつけてやると計画した。
でもそんなに上手くいくかなとと魔王は不安を覚えたので、悩んでいるのである。が、
「考えるより行動した方がいいよね、よしっ、まずはパイを焼こう。リンゴ入りのアップルパイにしてその上にたっぷりクリームを載せてやる~」
といったように、お菓子を作り始めたのだった。
魔王の嫌な予感はあたっていた。
「うぎゃぁあああっ、お前、お前達、僕は魔王で……」
勇者にお菓子だけ渡すようお願いして逃走しようとした魔王。
勇者が泊まっている宿は村の外側と接している場所で、側に大きな木が立っていた。
なので丁度いいとそこから様子を伺っていたのだが、何故かそんな所に植物のツル系の魔物が!
ニュルンとした蔓が伸びてきて、気付いた時には魔王はエロい形に縛り上げられていて、じたばたしながら何で魔物が僕を襲うんだと怒ると、筆談で、
「『魔王より勇者のほうが怖いので従うことにしました。あと、魔王は可愛いので襲われるべきらしいです』意味がわからな……や、やだっ、服にツルが入って……」
そうやってもがきながら喘いでいれば、当然直ぐ側の宿の人間も気づくわけで、現れた人影に魔王は凍りついた。
「ゆ、勇者、どうしてここに」
「あれだけ可愛く啼いていれば気づくだろう。それに、どうせこっそりお菓子だけ届けて逃げようとしていたんだろうしな。だから罠を張っておいたわけだが……いい格好だな」
「く、このっ、ええっと……勇者、何をする気かなと」
「逃げる気がないんだったら部屋でしてやるし、逃げる気が有るんだったらここでするけれど、どうする?」
「! お菓子、持ってきたじゃん!」
「それは別だ。お菓子を返しに来たからと言ってしないとはいっていないだろう? それでどうする?」
そう鬼畜に嗤った勇者に魔王はブルリと震えたのだった。
散々襲われた魔王様。
もう許さない、絶対に許さないと魔王が思ってしばらく会いに行かなかったら、何故か魔王城で寝ている間に勇者の泊まっている宿に連れ込まれていたりと謎の展開が待ち受けていたが、そうしている内に魔王城に勇者はやってきた。
そして瞬殺されて、魔王は勇者にお持ち帰りされそうになったりしつつ、そこそこ平穏に日々は流れていったのだった。
「おしまい」




