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魔王の愛は届かない?

 勇者の下に子供がやってきたまではいい。


「うう、勇者、我輩、子供になってしまった」


 勇者はそんな魔王を見て剣をぽろっと地面に落とした。









 事の起こりは魔王の思い付きだった。


「そうか、勇者を子供にして、我輩好みに育てればいい!」


 ここの所、一応途中イベントなので手加減はしているのだが、負けるごとに何というか、常に襲われていたわけで。

 耳元で駄目か?、と囁かれた挙句首筋にキスされたりすると、魔王はもう拒めない。

 でも、もう少しこう、雰囲気とか雰囲気とか雰囲気とか、優しく甘く愛を囁いてしてくれてもいいのでは?


 そもそもなんでその時だってメイド服を着せられて……なわけで、こんなマニアックなプレイばっかりだとか、どう考えても成長過程で重大なミスがあったとしか思えない。

 なので、子供に戻して再教育すれば、もしかしたなら魔王好みの勇者に出来るかも、と気付いてしまった。

 それで薬を調合していたのだが、


「魔王、遊びに来たよー!」


 五つ年下の従兄弟に抱きつかれて、その拍子に足元にビンを落とした。魔王の足にかかる薬。

 ちなみにこの薬は、皮膚から吸収する。

 そんなわけで、魔王は子供になってしまったのだが……。


「じゃあ、今日から僕が魔王だね!」

「へ?」

「だって、魔王の血統で一番年上の子がなるんでしょう? 今は、僕のほうが年上だし」

「いや、では我輩は……?」

「とりあえず勇者のとこ行けば? あ、振られたら僕のお嫁さんにしてあげるね!」

「何でだ!」


 と、冗談なのか分からない従兄弟の言葉に脱力しつつ、勇者の元に向った元魔王だがふと気付いてしまった。

 これって下克上? 我輩もう魔王城に戻れない? これからどうしよう……。

 とりあえず勇者のところに行くのが一番よさそうだと魔王は思った。


「と、いうわけで、我輩しばらく勇者の所で厄介になるから」

「そうか、分かった」

「……子供である我輩に変な事をするなよ?」

「所で飴玉いるか?」

「いる!」


 そんなわけで、夜は勇者の腕の中で眠っていたりするわけなのだが。


「勇者が何もしてこないのだが」

「いや、当たり前でしょう」


 勇者の仲間の一人の魔法使いを捕まえて、魔王は相談していた。

 ちなみに勇者は、下の酒場で他の者達とお酒を飲んでいる。魔法使いは未成年なのでお酒が飲めない。

 そんなわけで話し相手になってもらっているわけだが、


「何故!、『どんなお前でも愛してやるよ』、とか前は言ってくれていたのに!」

「勇者は子供好きですからね。酷い事したくないのでは?」

「我輩とはやっていたではないか!」

「大人の貴方とね」

「……確かに抱きしめて寝てもらうのは安心できていい。でも、子供だから駄目とかいってお酒は飲ませてもらえないし、夜外を出歩こうとすると子供はもう寝る時間だって部屋に連れ戻されるし、やけに頭を撫ぜられるし、いい子だなってお菓子くれるし……扱いが違う」

「それは子供だからでしょう」

「いや、だってあんなに意地悪だったのに、優しいし」

「勇者は子供に優しいですよ?」

「いや、それは知っているけれど……」


 何というかこう、非常に可愛がってもらえるのはいい。いいのだが、


「……年の離れた弟を可愛がっているような、そんな可愛がり方なのだ」

「ようは恋人扱いして欲しいと」

「うむ、そういう事になる」


 その言葉にしばし魔法使いは考えて、


「無理ですね」

「何故!」

「勇者にそういう趣味は無いですし、それをやると犯罪ですよ」

「い、一応、この姿でも我輩50歳を超えているのだが……」

「見かけが六歳位だから駄目ですよね」

「そんな……じゃあ、このままずっと勇者には……」

「下手すると、他の人に持っていかれますね」

「勇者!、捨てたら嫌だ――!」


 と、小さい魔王はとてとて部屋から出て行ってしまった。

 恐らくは下の酒場の勇者の所に行ったとは思うが、


「からかい過ぎましたかね?」


 魔法使いは、ポツリとそう呟いたのだった。








 時間は少し遡り、下の酒場にて勇者と戦士が話していた。


「それで、あの魔王に手を出さないのか?」

「あれは無理だ」

「前は、『子供の時から恋人を自分好みに育てるっていいよな』とか、『下は六歳からok』とか言っていたのに」

「あれはその場のノリだ。下ネタだ。変態的な事を言ったりすると何というか、今俺は輝いているっていう気持ちになるから言っていただけだ。それが、まさかあいつが子供になるなんて」

「それで全然そういう気持ちにならないのか?」

「全然ならないから怖いんだ。むしろ、可愛い弟分が出来た感覚で、心配で仕方が無いんだ」

「あれか、このまま魔王が子供だとそういう関係に戻れなさそうか?」

「そうだな。それも……」


 そこで勇者は言葉を止めた。

 魔王がすぐ傍に顔を真っ青にして立っていた。


「わ、我輩を捨てるのか?」

「捨てないさ。ただこれまでのような関係にはなれない、てことさ」

「そうか……」


 悲痛な面持ちで、魔王はとぼとぼと戻っていく。


「おい、いいのかあれ」

「仕方が無いさ。早く元に戻ってもらわないと俺もきつい。元のあいつをとことん可愛がりたいんだ」

「なるほど。そう言って元に戻るよう追い詰めるわけか。だが勇者よ、一つお前は忘れていることがある」

「何だ?」

「魔王が元に戻る方法を知らない可能性だ」

「それについても既に手は打ってある。昔の友人が明日ここに薬を持って来る」

「用意周到だね。まったく」

「それだけ俺はあいつにぞっこんだってことさ」


 さりげなく惚気る勇者に、戦士はやれやれと肩をすくめたのだった。







 捨てられるのは嫌だ、ならば。


「……魔王、一体何をやっているんだ?」


 床一面に、魔方陣を描いている魔王に勇者は問いかけた。

 顔を上げた魔王は、目が真っ赤になっていた。


「この魔方陣は才能ある子供の才能を食い潰してムキムキの大人になる力があるのだ」

「分かった、お前はもう寝ろ」

「わあ、抱きかかえるな。まだ終わっては……」

「いい子はもう寝る時間だ」

「子ども扱いするな!」


 そんなこんなで、ベッドに引きづり込まれた魔王であったが、勇者の腕の温かさに気持ちが良くなり眠ってしまったのだった。







 なんかやけに綺麗な人と勇者が一緒に居る。


「あ、あの人間は一体勇者とどのような関係なのだ!」


 魔法使いに、焦ったように聞く魔王。が、


[元恋人……」

「ええ!」

「……かもしれない」

「そうか、そうだよな、そうって!」


 その友人がちらりとこちらを見ながら、勇者の頬にキスをした。


「あ、あれ……!」

「わー、もしかしてよりを戻すとか?」

「やだ、勇者は我輩のもの――!」


 魔王は勇者の元に走っていってしがみついたのだった。








 ちなみに、この時勇者と友人は何を話していたかというと、


「へえ、可愛い子だね。きっと大人に戻ったら相当綺麗な子になるんじゃないか?」

「あれは俺のものだ」


 そう睨みつけてくる勇者に友人は面白そうに笑って、


「はいはい。とりあえずこれが薬ね」


 緑色の液体の入ったビンを渡す。


「ついでに頬にキスしてくれないか?。あいつ、嫉妬のまなざしでこっちを見ている」

「はは、壁の角が手の力で崩れているじゃん。可愛いね」

「やらないからな」

「はいはい、報酬上乗せだよ?」

「分かっている」


 と、楽しそうに頬にキスをする友人。

 それを見て、慌てて走りよる魔王。

 ひしっと勇者の足に引っ付いて友人を睨みつける。


「あはは、それじゃあね」


 と、今度は魔王の頬に軽くキスをして、友人は去る。

 魔王は目を白黒させている。


「相変わらず油断なら無い奴」


 勇者はそう呟いたのだった。









 勇者と魔王はベッドに腰掛けていた。


「それで、大人に戻る方法は?」

「昨日の魔法陣の……」

「それ以外で。解呪の魔法薬とか」

「考えていなかった」


 俯いて、悲しそうな表情をする魔王。勇者は何となく苛めてはいけない気分になる。


「このまま、ずっと元に戻れなかったら、勇者は我輩の事を捨てるか?」

「捨てないよ。大人になるまで待てば……」

「その頃には勇者は寿命で死んでいる」


 悲痛な面持ちの魔王に、勇者は頭を撫でた。


「そんな事だろうと思って、大人に戻る薬を友人に作ってもらっておいた」

「!」

「ただ、その代わりどうして子供になろうなんて思ったのか教えてくれないか?」


 魔王はどうしようかと悩むも、もう子供のままなのは嫌だったので、愛想をつかされてもいいから話すことにした。


「勇者が、色々なプレイをするから子供にして、自分好みに育てれば良いと思ったのだ。けれど誤ってその薬が我輩にかかってしまって……」

「なるほど」

「ごめん、勇者は子供になった我輩にこんなに優しくしてくれるのに、酷い事をしようとした」

「そうだな、それは許せないな」


 許せないと言われて、魔王はびくっと肩を震わせた。嫌われてしまったらどうしよう。

 そんな不安そうな魔王の頭を、勇者は再び優しく撫でた。

 そして、優しく問いかける。


「魔王は、このままの俺は嫌いか?」


 その言葉に、はっとしたように魔王は顔を上げた。


「!、そんな事は無い!。だって我輩の愛した勇者は、今のお前なのだから!」

「でも子供にされたらそんな今の、お前を好きな俺も、無かった事になってしまうんだぞ?」


 そこまで考えが至らなかった。その事に魔王は愕然とする。

 好きで好きでたまらない勇者が自分の事を忘れてしまうなど、とてもではないが耐えられない。


「それに、体を小さくしても記憶まで操作できないのなら、自分好みに育てるのは無理だぞ?」

「……そうだな」


 自分の考えの浅はかさに、魔王は恥ずかしくなる。

 そして、前よりももっと勇者の事を好きになる。


「ごめん、もうこんな事はしない」

「約束だ」

「ああ、分かっている」


 酷く反省して、魔王は頷いた。

 そこで、魔王の手のひらに薬のビンが渡される。


「飲み薬だから」


 と勇者が言うや否や、がばっと魔王は一気に飲み干した。

 ふわりと光が体にまとわりついたかと思うと、次の瞬間には大人に戻った魔王がそこに居た。

 もちろん裸だ。

 魔王の周辺には、魔王が子供の時に着ていた服が引き裂かれた布のように転がっていた。

「ふう、何とか元に戻れた……て、え?」


 間抜けな声を上げて、ベッドにそのまま魔王は勇者に押し倒された。

 上から見下ろす勇者が不敵に笑った。


「さて、お仕置きの時間だ」


 子供状態の時には見せなかった、獲物を見つめる熱い眼差しに魔王は逃げ出したい衝動に駆られる。


「あ、あの、勇者よ、我輩、そろそろ城に帰ろうかなと」

「ここずっとお預けだったんだ。しかも悪さをしようとしているし」

「で、でも……」


 子供状態時の優しさをまだ覚えている魔王は、必死にお願いしようとしてみる。

 けれど、結局、魔王は許してもらえず襲われてしまう。




 それから本気で魔王が勇者を一から教育しなおそうとして失敗するのは、また別の話である。





おしまい


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