バレンタインデーで、魔王が魔法的なお薬を仕込むけれど失敗するお話
今年も、好きな相手にチョコレートを贈る季節がやってきた。
なので今日も今日とて、魔王はせっせと魔法の薬を作っていた。そして、
「やったー、出来だぞ! その名もずばり“女体化+α”! これを少しでも口にすればあっという間に女体化してしまう、伝説の薬!」
「やりましたね魔王様! われわれも、あの伝説の地下書庫に向かったかいがありました!」
「うむ、部下達にも随分と手伝ってもらった、まさかあんなに本があるとはな……」
そう魔王は、猫耳と犬耳の部下の頭を撫ぜた。
ちなみにこの二人は男で恋人同士だ。
魔王はこの二人に手伝ってもらう代わりに薬を少量、分ける約束をしていた。
そして小さな小瓶にその女体化の薬を入れて二人に渡し、
「じゃあ、頑張ってね」
「「はーい!」」
受け取った二人はすぐさま戦闘モードに突入した。
なんでも、猫耳部下の方が、何時もされるばかりで嫌だと言いだして、犬耳部下を女体化させたいと言いだし、犬耳部下も猫耳部下を女体化させたくなったらしく、こうなった。
勝った方が攻めらしいので、二人とも本気で攻撃を加えているが、そのあたりは魔王にはどうでもよかった。
「くくく、これさえあれば、あの勇者を女体化だ! チョコレートケーキに混ぜて、絶対に食べさせてやる!」
そう一人笑いながら、女体化薬入りのチョコレートケーキを作る魔王。
だが、せっかくなので日頃のお礼も兼ねて、部下達にもふるまおうと思い、普通のケーキも作ったのが全ての間違いの始まりだったのかもしれない。
勇者用にと魔王は幸せそうにケーキをラッピングする。
このケーキが実は、間違えて普通のケーキを魔王は飾ってしまい酷い目にあったり、その女体化ケーキを食べた部下達があれやそれな事になってしまうのは、もう少し後のことだったのだった。
実は勇者はモテる。
それはもう、人当たりも良く優しく見た目もいいとなれば当然なのである。
なのでこのバレンタインデーともなれば、大量のチョコレートが勇者の元に届けられる。
とはいえ、それらを笑顔で受け取った後は、勇者なりに大変な作業があった。
「これは媚薬入り。これも媚薬入り。こちらも媚薬入り。これはただの酒。これは呪いがかかっている。これは……」
もらったチョコレートをより分けていく勇者。
危険な物は浄化も含めて処理が必要になるからだ。
なので毎年食べられるチョコレートは、このように勇者の身長の二倍ほどあろうとも、10箱あればいい程度である。
ただこういったチョコよりも勇者には、悩みがあって。
それは、恋人の魔王がまた、チョコレートに何か仕込んでくるだろう件だった。
「去年は兎の耳が生えるチョコレートで、口移しで食べさせたら二人揃って兎の耳が生えて大変だった。しかも兎は年中発情中だから、魔王は発情して動けなくなるし、俺は俺で、いつも以上に襲ってしまったし」
しかもその時はチョコレートに使うその薬を調合する為に魔王はしばらく会いに来てくれなかったので、魔王成分が足りなかったので襲いかかってしまった。
そもそも随分長く戦闘という名のお付き合いをしているのだから、そろそろ自分の物になってくれてもいいと勇者は思わなくはない。
特に周りの仲間がイチャイチャしているのを見る度にそう思う。
そう心のなかでため息を付きながら、背後を見ると、魔法使いと細身の戦士がイチャイチャしていた。
剣の腕が確かなこの細身の戦士が、魔法使い相手にアレな光景を目撃した時は、特に違和感を感じなかった勇者だが、世間では戦士というとごついムキムキマッチョをイメージするらしく、驚かれた。
さて、そのあたりの話はいいのだが、
「……いっそ魔王を城から連れさらってやろうか」
「! 駄目ですよ勇者様! また魔族との戦争になります!」
「魔法使い……俺、そろそろ我慢できなくなってもしかたがないと思うんだよな。いつもいつもあんな風に誘惑しているとしか思えないような戦闘ばかり、魔王の奴は仕掛けていて……」
「その後でいつもいつも美味しく頂いているんだからいいじゃないですか」
「……アレじゃ足りない」
「それはまあ……わかりますけれどね。戦士としていても私もそう思いますし」
魔法使いがチラリと戦士を見て同意した。
だが戦士の方はというと顔を真赤にして、
「あ、アレだけやってもまだ足りないのか!」
「当たり前です」
「……即答?」
「もちろんです」
「あ、当たり前だ! この絶倫が! ……やっぱりこう、精力を下げるような何かが必要なのかもしれないな。……やはりチョコレートにそんな薬をまぜておいたんは正解かもしれない」
「戦士、ぶつぶつと先ほどから何を呟いているのですか?」
「い、いや、今日渡すチョコレートについてちょっと」
「……今年はもちろん普通のチョコレートですね?」
「う、うん」
「もし違っていたら……分かっていますね?」
微笑む魔法使いに戦士がブルブル震える。
けれどあのチョコを食べれば発情しにくくなるはずなので大丈夫だと戦士は思っていた。
だが、危機は思いもよらぬところから迫っていたのである。
勇者たちの部屋のドアが開いた。
「久しぶりだな! 今日はチョコレートケーキを持ってきたぞ、そして戦士には友チョコケーキ」
「わー、魔王ちゃん、ありがとう」
喜んで受け取る戦士。
実はこの戦士と魔王は、お互いの恋人の絶倫さに対する愚痴で仲良くなっていた。
しかも性格も似ていたので、とても仲良しだった。
そして丁度お腹が空いているからと、早速そのケーキを食べたのだけれど……。
その戦士は女体化した。
何故! と悲鳴を上げる戦士と魔王。
そんな二人は逃げ出そうと思う前にどちらも恋人に捕まり、
「では、私達は用事が」
「は、放せ、魔法使い、放せぇええええ」
「折角こんな可愛い女の子になったのでそういうプレイでも」
「いやぁあああああ」
戦士が連れて行かれてしまう。
そして、その諸悪の根源である魔王はといえば、勇者に捕まっていて、魔王はしどろもどろになりながら、
「あ、あの……」
「いいぞ? 言い訳を聞いていやる」
「じ、実はいつもあんあん言わされるのが悔しくて、勇者を女体化しようかなって」
「そうすれば俺を襲えると?」
「う、うん」
「……それでこのケーキね。そしてこれにはそういった薬は入っていないようだな」
「! 分かるのか?」
「もちろん。それに毎年バレンタインデーになると、こんなに沢山のチョコももらうしな」
その勇者の視線の先には山になったチョコレートが。
それを見た魔王はわなわなと震えて、
「ず、狡い! 僕だってこんな風に沢山のチョコレートがほしいのに!」
「ん? 浮気する気か?」
「そ、それを言うなら勇者はどうなんだ! こんなに沢山もらって……」
「魔王の一番は俺だろう? 俺の一番だって魔王だし。だったら魔王は俺だけにチョコを作っていればいいんだ」
「う、うぐ……だ、だったらせめてそれを食べてよ。もしかしたら女体化するかもしれないし」
「ほう?」
「あ、あの、何でそんなふうに勇者は僕を後ろから抱きしめるのかな?」
「美味しそうな獲物が逃げないようにかな」
「ひ、ひぃいいい……って、え?」
そこで勇者は、魔王の持ってきたチョコレートケーキを取り出し、口に含む。
もしかして女体化しないかなと思って目を輝かせる魔王だけれど、何も起こらずに勇者はそれを食べ終えてしまう。
それに魔王はしょんぼりとした。
だが、そんな風にしていられたのもその時までで、そんな魔王の耳元で勇者が囁いた。
「それで、とても美味しかったわけだが……女体化させようなんて考えていた魔王には、お仕置きが必要だよな」
魔王は全力で勇者の腕から逃げようとしたが、結局はベッドに押し倒されてしまったのだった。
それから、魔王が城に戻ると女体化した部下たちが大変なことになっていたり、いい加減勇者が魔王と離れているのが嫌だと切れて魔王城に殴りこみに行くなどの様々な出来事があったが……概ね平穏にイチャイチャすることとなる。
「おしまい」




