ハロウィンvs魔王様☆
人間側がハロウィンだと祝っているのは、全て魔王側の陰謀だった。
「くくく、人間どもめ。ハロウィンと称して楽しみおって。我々魔族が紛れ込んでいるとも知らず、いい気なものだ」
「あ、魔王様、頭にかぶるかぼちゃが出来ましたよ」
部下の一人の黒髪に赤い瞳をした黒ずくめの吸血鬼が、ようやく出来上がったぞと紙で作ったハリボテのかぼちゃを魔王に渡してくる。
本当は本物がいいと魔王は騒いだのだが、被れるくらいの大きいカボチャは魔王の細腕では持ちあげるのは無理だった。
なので現在、ハリボテのカボチャと黒いマントを身にまとい、ジャック・オー・ランタンな感じに魔王は変装し、
「うむ、これで後は|お菓子をくれないと、悪戯しちゃうぞ《 トリック・オア・トリート》って言って、お菓子をもらってくるぞ~」
「今日は大手を振るって、人間の町に我々も遊びに行けますからね。それに堂々と勇者様に自分から会いに行けますし」
「……会いたくない」
魔王がポツリと小さく呟いた。
どうしたのかなと吸血鬼が思って見ていると、
「あいつ、去年のハロウィンに僕に何をしたと思う?」
「さあ、いつもどおりいイチャイチャしていた気がしましたが」
「違う! 僕は、僕は……たまたまお菓子を用意していなかったがために、仮装した勇者に悪戯されてしまったのだ! それも朝まで!」
「……いつもの事では?」
「! 違う! 『お菓子をくれなかったから、今日はたっぷりと悪戯してやろうな』って勇者が笑って……止めて、許してって言ったのに、そんな顔も可愛いよなって言いやがって」
「……はあ」
「なので今日は、全力で勇者から逃げてやることにした。でもって沢山の美味しくて甘いおやつを手に入れるのだ! あ、そうだカボチャの提灯は?」
そこで吸血鬼はすっと中をくりぬいた小さなカボチャの提灯ランタンを差し出した。
笑うような顔をしたオレンジ色のかぼちゃだが、中には小さな青白い火が浮かんでいる。
魔族の一種族、鬼火だ。
だがその小さな青白い炎を見て魔王は、
「……もっと鬼火は集まらなかったの?」
「今彼らは、山に入った人間や方向音痴の魔族の道案内で忙しいんですよ。ここの所、気候の変化がおかしくて、体調をくずす人間や魔族が多くて……」
「そうだったのか、鬼火も大変だな」
「僕たちがいないと人間は駄目なのだから、と嬉しそうに使命感を感じながら仕事をしているそうです」
「……魔族だから少しは人間を脅かすとかしなよ。何をやっているんだ」
「いえ、鬼火達が現れると人間が驚くので、魔族として心地いいそうです」
どこから突っ込めばいいのか分からなかったが、まあ人間を驚かせているならいいかと魔王はそれ以上考えないことにした。
ただそのカボチャの小さな明かりでは心もとない気がして、
「もう少し鬼火を増やせないかな。せめて後一匹」
「最近人間達の町で、そういった火の不始末が危険だということになってあまり火が使えないんですよ。鬼火も、昔は『トリックだよ』で終わらせられたのですが、最近では条例がどうのこうのと言われて消さないといけなくなるのですが……鬼火の場合、消したら死んじゃいますしね」
「……確かにそれでは仕方がない。では、この小さいカボチャの提灯ランタンで行ってお菓子を一杯もらってくるぞ~!」
そう元気よく魔王城を後にする魔王を見送りながら、吸血鬼もまたハロウィンの仮装に紛れ込もうかなと思ったのだった。
「やっぱり来ると思っていたんだ」
「ゆ、勇者、何故ここに!」
魔王は、お菓子を配っているいい場所があるよ~、と聞いて、その子供達について行ったらそこに勇者がいた。
即座に身の危険を感じた魔王はその場からこそこそと逃げ出そうと思った。だが、
「どうぞ、そこの人」
勇者が優しそうに微笑みながら魔王に向かって言ったのである!
いつもは不敵な笑みを浮かべて、欲望をたぎらせた笑顔で魔王を見ているのに、今は、そう今はまるで優しげな、それこそ慈愛に満ちた頬お笑みで魔王を呼ぶのである。
しかもあんな笑顔、魔王は今まで見た事がない。
なのでもう少し近くで見たいな、という欲望にかられた魔王がふらふらと近づいてしまうのも当然だった。
だって魔王は勇者の事が好きだし、ここの所、魔族側の業務が忙しくて会っていなかったのである。
なので勇者分が無意識のうちに欠乏していた魔王は、危険よりも傍に行きたいなという欲望に勝てなかったのだ。
しかもいつもは見た事がないような優しげな頬笑みを浮かべて、手招きをするのである。
なので明かりに無視が惹かれるが如くふらふらと近づき、そして、魔王が勇者の配っていたお菓子に手を伸ばし、受け取ろうとしたその時、
「え?」
魔王は勇者に腕を掴まれた。
何故と思って見上げると、勇者が意地悪く笑っていた。
「そんな仮装で俺が騙されると思ったのか?」
「な、何のことでしょうか」
「黙ってこっちに来い」
そう告げて勇者は魔王を近くの宿部屋に連れ込む。
もともと、そろそろ休憩時間だったのと、部屋を予約してあったのでそれはそれはあっさりと魔王は連れ込まれて、ベッドに転がされた。
「う、えっ、あ、あの人違いですっ、ってうわっ」
「へぇ、それで誰が人違いだって? そもそもお前は人間じゃないだろう? 魔王」
そこでカボチャのかぶりものを魔王は奪われてしまう。
そうすれば先ほどよりも、いつもの様に意地悪く笑う勇者が魔王の目の前にいた。なので、
「さ、詐欺だ、さっきまであんなに優しそうな笑顔だったのに……」
「なんだ、作り笑いがそんなふうに見えたのか。案外魔王はちょろいな」
「ちょろ……ひ、酷い。というか僕はもうこのまま帰ってやるぅううう」
そう言って魔王は逃げ出そうとした。
けれどすぐに両手を捕まれ勇者にベッドに押し倒されてしまう。
見下ろす勇者が更に意地悪く笑いながら、
「……で、この俺から逃げられると思っているのか?」
「う、うう……僕はただお菓子を貰いに来ただけなのに何で……」
「恋人にいやらしいことをするのは当然じゃないか」
「! 何だそれ! おかしいよ!」
「じゃあ、エロい事をしてやろうな」
「同じ意味だし! ぼ、僕だって男だし、い、一度くらい勇者が襲わせてくれるかもって夢見てもいいじゃん!」
「……その希望は儚く砕け散るのであった」
勇者が人事のようにナレーションを入れて、魔王はむっとしていたのだが、そこで両手を頭の上辺りに移動させられる。
しかも一まとめにされ、動けないようにされて、
「さて、暫く俺から逃げまわっていた罰を与えてやろうか」
「べ、別に逃げ回ってないし。魔王だってすることがあるんだし」
「……やっぱり今すぐ、軍を率いて、魔王城を攻めて連れ去ってやろうか」
「そ、そんなに簡単に僕の部下がやられるわけないし」
「……何が古の掟だ。そんなくだらないもの無視して、連れ帰ってやろうか」
「……つまり、勇者は僕に負けるのが怖いんだな!」
そういえば何時もいつもぎりぎりの所で、勇者が勝ってるし、と魔王が思っていると、
「……やっぱり魔王はちょろいな」
「な、何だと! んんっ」
そこで魔王は勇者にキスされる。
温かい唇がふれあい、それだけで魔王はとろんとしてしまう。
何時もキスされるとそれだけで幸せな気持ちになって満足してしまうのだ。
だがそこで唇を放されて勇者が、
「……暫く会えなかった分、今日はたっぷりと堪能させてもらおうか」
「!」
真っ青になっている魔王に、勇者は魔王が今まで見たことのないような鮮やかな笑みを浮かべて襲いかかったのだった。
そしてなんやかんやで魔王城に辿り着いた勇者が、魔王を瞬殺して手に入れたのは別の話。
何でこんなに勇者は強いんだと怒る魔王だが、そこで油断させるためにわざとそれほど実力差がないように勇者が演じていたのが発覚した。
けれど、その後も勇者と魔王はイチャイチャして、時に喧嘩しながら穏やかに日々を過ごしていくのだった。
「おしまい」




