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フライング・バレンタインデーです、魔王様☆

「何であいつは、ああなんだ」


 魔王は愚痴をこぼすように呟いた。

 事の起こりは先日のこと。

 その日は東の方の風習だか何だかで、黒くて太い食べ物を勇者が食べていたのだが、


「……」

「何だ魔王、俺の方をじっと見て」

「勇者がそういう黒くて太いものを咥えているのもいいな」


 そう告げた途端魔王は勇者に押し倒された。

 それに魔王がむっとして、


「何で毎年毎年僕がチョコレートを贈らないといけないんだ」

「……俺が欲しいから」

「だ、だってまだ僕倒されていないのにこんな事まで……」

「そうだよな。魔王は勇者である俺が倒さないと、恋人にすらもなってくれないんだものな」

「だ、だって古くからの掟でっ……」

「しかも勝負の方法には決まりもあるらしいとか……そんなのがなければ、軍を率いて強襲して攫ってやったのに。親父も頭が固いし、止めやがって」

「だ、だからまだ、こんな……」

「こうやって会いに来てくれるんだから、少しくらいはいいだろう? それとも駄目か?」


 そう言って少し悲しそうに勇者は顔を伏せる。


「そ、そんな事無いよ」

「じゃあ、いいよな」

「や、やめっ、ぁああっ」


 そこで魔王は勇者にがばっと押し倒された。

 そもそも幼いころから魔王は、この勇者の悲しそうな顔が苦手だった。

 そんな風な顔をされると、いけないことをしてしまった罪悪感が凄いのである。

 しかも昔は今みたいに男っぽくなくて魔王よりもせが低くて可愛くて……。

 なのでそんな勇者に、チョコレートがほしいと言われてしまえば、魔王はうなずかざるおえない。

 本当に子供の頃の勇者は可愛かった。

 初めて見た時からこんな可愛い子がいるんだと知って、人間と魔族が中が悪い時期だったらそのまま攫っても良かったのにと悔やんだ。

 けれど仲良くこうやってあって遊べるのも平和な時代だからと喜んでいた魔王だった。

 そしてバレンタインデーには、工夫をこらした手作りチョコを魔王はプレゼントしていたのだが、


「美味しい!」

「本当!」


 初めはそれだけで嬉しかった魔王だ。

 けれど毎年毎年勇者は同じ美味しいとしか言わないのである。

 魔王がどれだけ工夫をこらしてもそうなのだ。なので、


「ゆ、勇者、今年は勇者がチョコレートをくれてもいいんじゃないかな?」

「嫌だ」

「だ、だっていいじゃん、たまには」

「俺は魔王のチョコが食べたい」

「うぐっ、だ、だいたいまだ義理チョコじゃないか」


 因みに魔王は、友チョコを言い間違えていた。

 そもそも恋人同士ではないのでそれだろうと思ったわけなのだがそこで勇者は、


「……そうか」

「そうなんだ! だからたまには勇者から……え?」


 そこで魔王は勇者にいつになく激しくされてしまう。

、魔王がもう、らめぇ~とお願いしても許してくれなかった。

 それに頭にきた魔王は、意地でも今年はチョコレートなんて作るものかと心に決めたのだった。






 が、数日後。


「やっぱり勇者にも喜んで欲しいし、チョコレートを作ろう」


 魔王はそう思って町にチョコレートを買いに行ったのだが。


「え? チョコレートが売り切れ?」

「はい、何でも王子様……勇者様がチョコレートを工場でストップさせているとか」

「な、何で……」

「さあ」


 もしかして、勇者が魔王にチョコを本当にプレゼントしてくれる気なのだろうかと思っていると、思っていた所で、


「そういえば勇者様、自分の姿の等身大のチョコレートを量産しているとか」

「……え」

「しかも魔王様に全部食べさせるつもりだとか」


 魔王は何も言えなかった。

 因みに今はお忍び中、そのためそれを聞いてありがとうございますと魔王はにこやかにお礼を言って、全力でその場を後にする。

 そして、すぐに魔王は勇者の居場所を突き止めたのだった。






 勇者がいないうちにそのチョコレート工場に入り込み、チョコレート全てを略奪した魔王達、

 成形されていないものは全て食料品店に流した魔王。


「くくく、勇者め、裏をかいてやったぞ」

「魔王様ー、この等身大勇者チョコレート13体、どうしましょうか」

「……僕の部屋に運んでおいて」


 肩を落としながら、部下に言われて魔王は目を背けたくなるような現実を思い出す。

 その工場にはすでに、勇者の形をしたチョコレートが13体も作られていた。

 しかも全て違う味のチョコレートのようなのだ。

 更に付け加えるなら、それを勇者一人で作り上げていたらしい。


「どれだけ器用なんだ、あいつ……」


 自分の作り上げたチョコレートすらも、実は勇者の作るチョコレートの足元にも及ばなかったのではないか、そんな不安が魔王の中をよぎる。

 だが、それでも美味しい、の一言だけじゃ満足できない。


「もっと違う答えが聞きたいんだ。欲張りになっているのかな、僕……早く勇者を倒して僕のものにしたい。でもって一度くらい僕がする側に回ってもいいよね……」


 ちょっと夢見がちになりながら呟いた魔王はすぐに回りを見回して、勇者がいないのを確認する。

 そしていないと分かってから、


「ふう、何となくこれを言うと勇者が何処からともなく現れるような気がするんだよね」


 そう魔王はもう一度呟いてから周りを見回す。

 誰もいない。

 そこでようやく安心して、等身大勇者のチョコレートに視線を映す。

 その内の一体に魔王は歩み寄り、左右を見回して周りに人がいないのを確認して、魔王はそのチョコレートに抱きついた。

 次いで、チョコレートの唇の部分に自分の唇を重ねる。

 冷たいチョコレートは、魔王の唇の温かさでほんの少し溶ける。

 なのですぐに魔王は唇を放して……。


「やっぱり、本物の方がいいな」


 そう呟いて、唇についたチョコレートを舐め取り……そこで魔王は、このチョコレートがお酒がはいっているのに気づいたのだった。






「早く勇者を倒して僕のものにしたい。でもって一度くらい僕がする側に回ってもいいよね……」

「……まだ諦めていなかったのか、魔王は」


 勇者はチョコレートにつけておいた盗聴器で、魔王の発言を聞いていた。

 現在勇者はとても怒っていた。

 何しろ魔王がチョコレートをすべて奪ってしまったから。


「そんなに他にチョコレートをあげたい相手がいるのか」


 勇者には、お願いしないとチョコレートをくれるつもりもなかったくせに。

 そもそもこの前だって……。

 鬱々と考えながら、魔王の城に忍びこみ魔王お部屋までやってきた勇者。

 因みに途中で側近らしき魔王の部下に会ったが、魔王様はこちらですよと案内された。

 この城のセキュリティに不安を覚えた勇者だが、そこでノックもせずにドアを開ける勇者。と、


「勇者ぁ~、好きっ、好き~」


 服が半脱ぎ状態で、等身大チョコレートに絡みつく魔王の姿がそこにあった。

 白い肌がピンク色に染まり、明らかに酔っているようだ。

 そういえば酒入りのチョコを混ぜておいたなと、ついでに魔王は酒に弱かったと思い出す。

 これは非常に都合がいいと勇者が魔王に近づいていくと、


「はれ? ゆうひゃがふやり?」

「俺が本物だ」

「本当に、勇者ぁあ、好きっ」


 そう言って魔王が勇者に抱きついてくる。

 相変わらず何処と無くいい匂いのする魔王を抱きしめながら勇者は、


「何で俺からチョコレートを奪ったんだ?」


 誘導して質問していくことで、この考える力を失って愚かにもとろとろに可愛くなっている魔王から、本命を聞き出そうと考えた勇者だが、そこで魔王は、


「だってぇ、僕に等身大勇者チョコレートを幾つも食べさせるってぇ……そんなに沢山食べられないよぅ」

「……それだけか?」

「あとぅ、勇者にチョコレートを作りたいからぁ」

「他には?」

「それだけだよぅ、あ、あと僕のおやつぅ」


 甘えながら魔王は勇者にくっついて顔を擦り付ける。

 その可愛らしい仕草に、勇者はもう疑うよりも抱きたいと欲情する。

 そして、魔王の顎に手を添えてそのまま唇を重ねる。

 酔っているためか普段よりも温かい。

 そのまま軽く吸うと、魔王は小さく唇を開ける。

 勇者の舌が来るのを待っているように思えて、勇者はちょっとだけ機嫌が良くなる。

 魔王の下を軽く噛み、絡めとる。

 唾液の絡まる淫猥な音に、魔王の顔が更に赤くなっている。

 未だに恥ずかしがり屋な部分があるのが、勇者の欲望を煽る。

 更に深く舌を絡めて、抱きしめた魔王の体から力が抜けるのを確認してから勇者は唇を離す。


「それで、俺以外に一体誰に魔王はチョコレートをあげようと思っていたんだ?」


 勇者は執念深かった。

 それに魔王はぼんやりとして首を傾げて、


「勇者以外にチョコレートはあげないよ?」

「でも義理チョコだって……」

「だって恋人じゃなくてまだ友達だったし。魔王の掟で」

「……義理は、他に本命がいるような気がする」

「? そうかな? あ、でも勇者、チョコのお菓子を作るの上手いよね」

「そうか?」

「だってあんな勇者の形のチョコレートいっぱい……あれ、勇者がいっぱい?」

「……そこにあるのは皆俺が作ったチョコレートだ。気のせいだ。それで俺に何か言いたいことがあるんじゃないのか?」


 そう勇者に問いかけられて、魔王はそこで悲しげに俯いた。


「勇者は、本当は僕の作ったチョコレート、不味かったんじゃ……」

「! そんなことはない! すごく美味しかった!」

「でも、勇者のチョコレート、僕のより美味しくて……」

「魔王の作ってくれたものが不味いわけ無いだろう! 誰が作ったものよりも美味しい! だって魔王が俺のためだけに作ってくれたものだから!」

「勇者……愛してる!」

「俺もだよ!」


 誤解も嫉妬も、全部が二人の間で消え去った。

 因みにこれが、バカップルとして有名な二人の標準装備であったのだった。







 そしていちゃいちゃした後。


「早く僕の城まできてね」

「もう来ているじゃないか」

「そういえばそうだった。じゃあ後で戦闘して……」

「俺が勝つんだろう?」


 自信満々にいう勇者がちょっと悔しくて魔王は、


「僕が勝つ、そして勇者にする側に周るんだ!」


 目を輝かせる魔王だが、そこで勇者に機嫌が悪くなる。

 それに気づいた魔王がしまったという顔をするが、


「そうか、まだこの身体はオレ専用じゃ無いらしいな。そうかそうか……ゆるさない」

「ちょ、まっ、ぁあああああああっ」


 魔王の悲鳴がひびく。



 その後結局勇者が勝利して魔王を手に入れ、幸せに暮らしたという。





「おしまい」

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