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ハロウィンです、魔王様

 かぼちゃの明かりで街が満たされ、魔王城でも飾り付けが始まった頃。


「今年もハロウィンがやってきたぞ!」

「本当ですね、今度はどのようなコスプレになさいますか?」


 元気よく叫ぶ魔王(男)に、メイドがニコニコしながら問いかけた。

 ちなみに魔族のメイドは今年はどのような事になるのかな―、と楽しみにしていたのだが。


「いや、今年は勇者が、地方のある城まで来るのでそのお城を利用しようかと」

「ええ! では我々メイド軍団が作り上げた衣装が……」


 悲しそうな魔族のメイドに、魔王は言い方が悪かったなと思いながら、


「いや、その衣装は有効に利用させてもらう」

「では今年はミニスカの雪女の衣装でも!」

「着ません」

「ええ! どうしてですか?」

「……去年はネコ娘じゃないか! 可愛い可愛い言われて、調子にのってその格好でいったら去年はどうなったと思う!」


 そう魔王は涙目になりながら叫んだ。

 魔王とて、大好きな勇者相手とはいえ、あんな思いはあまりしたくないのである。

 去年、これまたミニスカネコミミニーソの格好で、メイドに勧められるまま勇者――あの時は人の国の王子だったのだが――は喜んでくれるかなーと、遊びに行った所、


「へー今日は戦闘はなしか」

「そ、その前に言うことがあるんだから! トリック・オア・トリート。お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ!」

「そうか、じゃあ悪戯させてやるから来いよ」

「え?」

「なんだ?」

「お菓子……」

「……きちんと悪戯できたら、ご褒美に後でお菓子をやるよ」


 笑った勇者に、むっとしていた魔王だが、色々されてしまった。

 まあ、その後美味しいケーキを勇者の手で食べさせてもらえたからいいのだが。

 けれどそれ以外にも、毎回魔王は勇者の手の平で転がされているのが許せない。

 なので今度こそは攻めに転じるのだ! という事で、魔王はメイドにある指示を出したのだった。








「面倒だから、やっぱり魔王を攫ってくるか」


 勇者は歩きながらぼやいた。

 魔王と初めて会ったのは、魔王が勇者……その時は人の国の王子、を攫おうとやって来たのだが、あまりにも可愛かったので倒してそのまま美味しく頂いてしまったのだ。


「や、やだぁ、こわいよぅ」

「こうなることも分かってここに来たんじゃないのか?」

「ち、ちがっ……」


 そんなわけで、男だとかそのへんがどうでも良くなるくらい見た目に惚れて、体の相性も良くて中身も勇者好みだったので、このまま嫁にしてしまおう、魔王の方も何回も俺をさらいに来ているし、と勇者は思っていたのだが……。


「魔王城に来て魔王に勝たないとそんなものは認めない!」


 という魔王の父と、勇者の父のおかげでこのような旅をする事になってしまった。

 とはいえ、城を離れれば親という監視のない場所でやりたい放題できるのでそれもまた勇者に都合が良かった。だが、


「一昨日から全然俺の所に魔王がやってこない。いつもなら毎日顔は見せてくれていたのに。最低でもおやすみのキスはしてくれていたのに……次に会ったらお仕置きしてやる」


 暗く笑いながら、勇者がどうお仕置きしてやろうか考えながら歩いて行くと、その先には不気味な城があった。

 灰色の石造りの城。その周りには白く透き通ったお化けがふよふよ浮かんでいる。

 これも何かのイベントかなと面倒そうに勇者が近づいていくと、そこに看板が立っていた。


『はっはっは、勇者よ! 魔王たる僕の、ハロウィンらしい攻撃を受けてみよ!


ルール:この館にいる幽霊の中に本物の僕が一人います。それに向かってこのぬいぐるみの斧を投げて下さい。失敗は10回までだぞ!』


「これを作っていたから会いに来なかったのか? あいつ。……いいだろう、相手をしてやろう。そしてお仕置きだ」


 そう、勇者はにやっと悪い笑みを浮かべたのだった。






 城の中に入ると、白くてフワフワしたシーツのようなお化けがいっぱい浮かんでいる。

 よぎっている姿は、一見どれも同じに見える。

 試しに間違えるとどうなるんだろうなと思って、適当なお化けにぬいぐるみの斧を勇者は投げた。

 当たると同時に、ポンと煙を立てて現れたのは……。


「魔王?」

「いいえ、僕は魔王様の分身の偽物のお化けです。ふふ……今日こそ、魔王様の方が主導権をとってやるという意味で僕達は作られ……」

「そうか、だが俺は魔王本体以外とはするつもりはないから、浄化」

「……いけず」


 ふてくされたようにお化けが浄化されていく。

 そして再び勇者は周りに浮かんでいる数十のお化けを見渡して、その内の一体におもいっきりぬいぐるみの斧を投げた。


「ふぎゃぁああ! 痛いよぅううう」


 煙を上げて現れたのは、本物の魔王。

 しかも頭にぬいぐるみの斧が当たって涙目である。

 だがそんなふうに涙目になっている魔王に背後から勇者はゆっくりと近づいていき、


「久しぶりだな、魔王。元気にしていたか?」

「ぎくっ、えっ、えっと僕は偽物……」

「そうなのか。偽物ならもっと容赦なくいやらしい事しても良いよな? ん?」


 今まで以上に容赦なくって、何をされるんですか! と思った魔王はガクガク震えて、


「に、偽物じゃないです。本物なんです!」

「そうかそうか、じゃあお仕置きだな」

「え! な、何で」

「ここ何日か一度も俺に顔を見せなかったな?」

「う、で、でもこの仕掛が……」

「へぇ、俺よりもこんなものを作る方が大切なのか」

「う、うえっ……うう……いやぁあああ」


 逃げ出そうとした魔王は勇者に襟首を掴まれた。

 そのまま必死でじたばたして逃げ出そうとするも、魔王は逃げられなかったのだった。





 その後、こんなよくある出来事が続いてお互いが妙な嫉妬えお起こしたりすることもあったのだが、結局は勇者は魔王を倒して、魔王をお嫁さんにしたのでした。まる。






「おしまい」

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