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勇者と魔王のすれ違い

 魔界の一角、魔王城にて。


「これで9勝0敗だな」


 床に倒れた魔王を見下ろしつつ勇者がにやりと笑った。

 若干衣服の所々が破けていたり、焼けていたりする魔王は悔しそうに勇者を見上げた。


「この前100くらいレベルアップしたのに勝てない……」

「今いくつなんだ?」

「Lv.573」


 これだけ上げるのだってすごく大変だった。お陰で魔族に相手が居なくなってしまった。が、


「俺はLv.976」


 ぎょっとして魔王は勇者に食って掛かる。


「この前は500前後だったはず……」

「頑張ったからな」

「頑張らなくていい!。そもそも、仲間はどうした!」

「仲間は、これ以上付いていけないと書置きを残して逃げた」

「……」

「……」

「さて、いつも通り、約束を果たしてもらおうか」


 そう笑って勇者は魔王に手を伸ばす。

 魔王は俊敏にかさかさと逃げ出そうとして、何故か部屋の角に追い詰められる。


「つ、次にまとめては駄目かなと」

「だめだ、三回それをやって反故にしたじゃないか」

「次は守るから!」

「駄目だ」


 そして勇者に襲いかかられた魔王は散々喘がされたあげく、


「次は最後までするからな」


 低く熱を帯びた声で、勇者は魔王に囁いたのだった。 









「どうしようどうしようどうしようどうしよう」

「どうなされたのですか、魔王様」


 勇者が帰った後、魔王は広間を行ったりきたりしていた。

 そこにお世話役の昔からいるじいがやってきたのである。

 年配者であるので何かよい意見は無いかと魔王は期待するが、、


「じい、どうやったら勇者に対して強く出られると思う?」

「あれですか。そうですな、ほぼ無理ではないかと」

「あんな強いものなのか勇者は……」

「文献にある中では一番強いかと」


 どうにもならないという事実を突きつけられただけだった。

 ゆるゆるとより過激になっていく行為は、真綿で首を絞めるように魔王を苛んでいた。

 それが嫌ではないのもまた困りものだった。ならば問題がなさそうに見えるが、一つ魔王には不安があった。


「このままでは、犯される。そのままボロ雑巾のように捨てられる!」

「……ええと、魔王様?」


 体目当ての奴は、一回やったらそれで終わりだという本の知識である。

 魔王は行為の最中一度も勇者に愛の言葉を囁かれていない。

 魔王が勇者の事を好きだとか関係なくて。


 そして犯ってしまえはもう二度と会ってももらえなくなる。

 それに、するのだって初めてだから魔王だって怖いのだ。

 本当にどうしよう、と魔王は考えて、はっと思いついた。


「そうだ、魔王っぽく人の国の姫を攫って人質にすればいいじゃないか! そうすれば勇者だって下手な手出しは出来ないはず!」

「魔王様……」


 じいがツッコミを入れるよりも早く。


「というわけでちょっと行ってくる」


 善は急げといわんばかりに呪文を唱えて魔王は消えてしまった。


「魔王様……行ってしまわれた」


 いなくなったのを見て、じいはふむと思案するが。


「……魔王様もお年頃ですし嫁に出したと思えばよろしいでしょう」


 と投げやりに呟いたのだった。









「ここが人間の城で、お姫様は多分あの部屋かな? 綺麗なレースのカーテンがかかっていて、窓から見える範囲では他とそこだけは違うようだし」


 人の姫の美しさについては魔王も聞き及んでいる。星降る姫君と呼ばれ、その美しさは天上に輝く数多の星々を一つに集めても足りないくらいだという。

 そんな綺麗な姫君を怖がらせるのは気が引けたし、手を出す気などさらさらないので多少罪悪感を感じはしたが背に腹は変えられない。

 全部勇者が悪いので仕方が無いと魔王は自分に言い聞かせた。

 そして呪文を唱えて、転移する。


「誰……?」

「私は魔王……」


 問いかける声に答えようとして魔王は固まった。

 確かに美しい姫君だった。

 流れるような長い髪にふくよかな胸、ベッドの上で首をかしげる様は子猫のように愛らしかった。

 しかし、この顔とこの瞳とこの髪の色に魔王は見覚えがある。


「……つかぬ事をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「?、はい」

「親戚の方で、勇者をやっている方はいらっしゃいますでしょうか」


 何故か敬語になってしまう魔王であった。

 その質問に、うーんと姫君は考えて、


「兄がそうですが」

「あ、そうですか。では私はここで失礼させていただきます。出来れば今回の事は内密にしていただけないかなと思ったりするわけでして」

「はあ、そうですか」


 それだけ言って呪文を唱えて逃げようとする魔王。だが魔法が発動しない。

 そんな、魔王に姫君が申し訳なさそうに、


「あの、この部屋は魔法が使えないようになっておりまして」

「そうなのですか……えっと、帰り道を教えていただけないかなと思うわけでして」

「そうですね、普通にドアから出て行くしかないのですが……」


 何やら人の集まる気配がする。


「お兄様が過保護でして、この部屋で何かあると集まってくるのです」


 そこで部屋のドアが乱暴に開いた。

 立っていたのは勇者と人の兵。

 勇者の顔がいつにも増して凄みのある笑顔で魔王は怖かった。


「魔王、大事な妹に何か用か?」


 じりじりと窓際に後ずさりつつ、魔王は焦って言い訳をする。


「い、いやなに、一応私も魔王なので、お姫様を攫ったりしようかなと。決して勇者に対する強力なカードにしようとかそんな事は一切ありませんので、ええ、本当に酷いことをしとうとか思っていませんので見逃してくれると嬉しいかなと」

「妹を攫おうとした、と?」

「あ、いえ、ちょっと魔王城に旅行のお誘いとか……」

「……他に何か言いたい事があるか?」

「ごめんなさい、許して。ちょっとした出来心だったんです!」

「謝って済むわけが無いだろう?」

「……どうすれば許してもらえるかな、と」


 びくびくと上目ずかいで魔王は勇者にお願いするが。


「そうだな、体で償ってもらおうか」

「……」

「……」


 魔王はとっさに逃げようとした。しかし逃げるよりも早く、勇者が魔王を捕らえて抱きしめる。


「このまま素直に言う事を聞くなら優しくしてやるぞ?」


 魔王が腕の中で戸惑うように俯きそして一言。


「……嫌だ……」

「そうか」


 魔王の首に手刀を加えた。

 ぐらりと魔王の体が揺れて勇者の腕の中で気絶する。

 気を失った魔王のあどけない表情に、勇者は欲望を感じた。


「予定よりは早いが、楽しませてもらおうか」


 そう囁いて、勇者は魔王を抱き上げたのだった。









 そして、とうとう勇者に襲われてしまった魔王だったが、悲しそうな魔王の様子に勇者がつまらなそうに、


「そんなに俺の事が嫌だったのか?」


 その言葉に、魔王は首を横に振る。


「だって、体の関係になったら、私の事など興味が無くなる。本に体目当ての男はそうだって……」


 ひっくひっくと嗚咽をもらしながら泣く魔王。 

 勇者はそれを見て、天井を見て、再び魔王に視線を戻した。


「どうしてそうなった?」

「だって、一言も好きって言ってくれないし、エロい事ばかりするし。だから体目当てだと」

「……体目当てだったら一番初めに犯ってる」

「……」

「……」


 魔王は言われてみればそうだと気付いた。

 そんな様子の魔王に勇者は溜息をついて、


「怖がらせないように大事にしたいから少しづつしていったのに、嫌だというから見逃してやったのに、そういうことを言うのか」

「だって……初めてだし、怖いし……」

「本当は嫌われていたのかとぞっとした。許せなくて酷くした。本当はもっと優しくするつもりだったのに……お前もいい加減にしろ」

「だって、勇者が……」

「愛してる」

「!」

「これでいいか?。言葉が足りないだけで、俺の想いを疑われるとは思わなかった」

「それは……悪かった」

「その件も含めて、これから体で償ってもらう」

「!、待て、今ので……ちょっと、え」

「気持ちよくしてやるから諦めろ」

「やめ、さわ……ふあ」


 そのまま一晩中離して貰えなかったことも、その魔王が魔王城にしばらく帰してもらえなかったのもまた別の話。

 腕の中で魔王を好き勝手に乱れさせている勇者は、初めて魔王に会った時の事を思い出す。

 玉座に座るこの美しい生き物に目を奪われて欲しいと思った。

 あの時から勇者の心はずっとこの美しい生き物に囚われたままだった。





「おしまい」


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