余裕綽々
貴族たちは元々こんな出すつもりはなかったんだよなぁ・・・とっとと死んでいただこう。
途中から書き方変わります。ちょっと怖い描写があるよ。
正直今回いらなかったかもしれないけど、書いてて楽しかった。
「ニーソク、そろそろ魔法が解ける! かわす用意を!」
「わ、わかったお!
う、うおおおおおおおっ!!!(ゴスッ)」
ニーソクがよろめきながらも飛び退く。
あれ、今なんかゴスッて音が・・・あぁ、顔から着地してる・・・。
少しニーソクに呆れていると魔法が解ける。
黒服たちは、一斉にさっきまで私たちの居た場所に武器を突き刺した!
うわ怖っ!? これ使えなかったら死んでたわ!!
顔は見えないけど黒服たちは一瞬驚いたようにギョロッと周りを見渡した。
アイツらからしたら私たちは瞬間移動したようなもんだしね。そりゃ驚くだろうさ。
・・・今ならすぐにでも殺してやれるけど・・・その前にほら、キメ台詞というか戦闘前の会話とかさ。とにかくお決まりイベントはこなしておきたいよね!
「なっ・・・コイツら今、なにしやがった・・・!?
一瞬であそこまで移動しやがったぞ!?」
「化け物か!?
・・・いや、女の方は青がかった髪してる・・・くっ! アイツ、魔法使えたのか!」
「クソッ! おいお前ら気をつけろ!!
だが次は外すな、必ず殺せ!」
「ガクガクブルブル(ニーソクは頭を抱えてうずくまったまま震えている)」
『へぇ、私が化け物ですか。・・・化け物なのはどっちでしょうね?
・・・それより聞かせて下さいよ? ねぇ、』
ニヤニヤと狂気を含んだような笑みを相手に見せつけながら告げる。
キミタケと話しただけなんだけど・・・うーん、すごく余裕が出来たな。もういつも通りにいけそうだ。
「ねぇ死ぬのは怖い?
これから君たちが行くのは・・・そうだね、言うなれば地獄の入り口、かなぁ。」
瞬間、私たちを狙っていた黒服たちが消え去った。
それを見て、貴族たちはみんな腰が抜けたようにへたり込む。
「ひっ・・・ひぃっ!?」
「いやだ・・・お前、何をした・・・!?」
「ひっ!? 助けて・・・許してくれぇっ!!」
泣いて喚いて許しを乞う三人は、何故かとても弱く、小さな存在に思えた。
そんな彼らに私はニコッと微笑んで、彼らの終焉を告げる。
「・・・・・・今まで君たちがしてきたこと・・・その身をもって後悔するがいいよ!」
そして、誰もいなくなった。
☆
・・・・・ここは、どこだ?
さっきまで爛々と輝く賭博場の前に居たはずだ。
なのに、こんな寂れた人の気配がまるでしないような場所なんて・・・・・・・・いや、そもそもあの街にはこんな場所なかったぞ!?
黒服たちは全員戸惑っていた。
いきなり見たことの無いような場所に連れてこられた上、人の気配がしないのだ。焦らない方がどうかしている。
慌てるな、落ち着いて考えろ・・・。
必死で自分に言い聞かせて、半ば無理矢理に心を落ち着かせる。
そうしてやっと、なんとか物事が考えられるようになってきた。
そうだ、さっきのあの女は微妙に青い髪だった・・・恐らく魔法で飛ばされたのだ。
だが黒髪に隠れてよく見れば青色があると分かる程度。故にそこまで魔力は強くないはずだ。
・・・だとすれば、ここはあまり遠くではないのだろう。急いで戻らねば、あの依頼主から何をされるか分かったものではない。
一人の黒服がギョロッと目を配らせると、全員頷いたのを確認して走り始めた。
出口がどこにあるかは分からない。だが、このままずっと何もしないわけにもいくまい。
とりあえず走っていればいつかは出口が見つかるはず・・・・・・・・・ッ!?
『おや? なんだ、随分早かったな。
しかし・・・・・・・・ふむ。フォルセティ殿は無茶をするから、てっきり既にバラバラになっているかと思っていたが・・・まさかそのままとは。これはまた随分殺りがいのある・・・。』
走っているとだんだん気持ちが落ち着いてきて、そして突然何者かの気配を感じた。
しまった・・・! 焦っていたせいか? それにしても、今まで気づかなかったなんて! なんたる不覚ッ!
黒服たちは全員、慌てて立ち止まって周りを見る。
そこには爛々と輝く・・・狂気に満ちた赤い光と白い影。
心なしかそれらは嬉しそうに輝いているようにも見えた。
まるで生を実感できないその光たちに黒服たちは震えだす。
なんでだろう、体が上手く動かないのだ。まさか恐怖ですくんでしまったのかーーーーッ!?
『うわー、珍しいお客さんだねぇ。いきなり現れるなんてビックリだよ!』
『でも普通の人間ではなさそうだよー? 街を襲いに来た人たちなのかなぁ?』
『キミタケさーん、どうしますー?』
『あぁ、彼らはフォルセティ殿が送ってきた者たちだ。
我らの好きにしていいらしい。勿論我らの敵ではないだろうが、油断はするなよ?』
『『『『うええぇぇぇぇぇいっ!!!』』』』
声が聞こえた途端、頭上・・・屋根の上から、目の前から、黒服たちを囲むように赤い目の者たちが襲ってきた!
月明かりに照らされ、目の前まで詰め寄られてやっと彼らの姿が完全に確認できる。
その姿は・・・まるで人とは思えない、狼のような人間のような・・・。
『む? もしや・・・彼らが言っていた”黒服”とやらか? 貴族らしい者はいない・・・。
ならば、あと3人ほど送られてくるな。お前達、焦らなくてもまだ来るぞ?』
『えっ、あと三人も?
珍しいですね、あの人ならそれくらい倒しちゃいそうなもんですけど。』
『まったくだ・・・。
既にバラバラになってるモノを送ってくるかもしれんが、そのままの状態で送ってくる可能性もなくはないだろうな。
だがそう数が多いわけでもない、今回は小腹が空いてる者たちに譲ってやれ。
前回のがあるからな、まだ腹が満たされている者の方が多いだろう。』
『了解ッス! じゃあ俺も行かせて貰いますよ、っと!』
どこからか聞こえてきた会話に、いよいよ体がピクリとも動かなくなる。
ま・・・さか・・・・・ッ、コイツらは・・・俺達を食うつもり、なのかッ!?
『いやー、俺久しぶりに生きてる奴を喰えるぜ。
死んでるのでもいいけど、やっぱり活きがいいのがいいよなー!』
『まぁそれが俺達、屍人の本能だからな!』
『お前らも前線に来ればそういうの食い放題なんだがな?』
『はっはっは!! 冗談うめぇぜ、俺が上手く戦えないの知ってんだろ?』
目の前でニヤニヤと嬉しそうに笑う化け物に怯えていると、腕に、足に、全身に激痛を感じた。
あまりの痛みに黒服たちは悲鳴を上げ、許しを乞うた・・・だがそれもすぐに途絶えてしまい、街にはグチャグチャという気持ちの悪い音だけが響くことになった。
『おーい、お前さんたち!
なんかあっちにまた人が来たぞー!』
『アイツら、みーんな揃って酷い悪人面してたのよ。
今までずっと碌なことしてなかったんだろうね。私には分かるよ?』
『悪人面か・・・それは貴族とやらで間違いなさそうだな。
あちらにも同胞たちは居るから、正直放っておいてもいいのだが・・・一応説明はせねばな。』
”キミタケ”と呼ばれた化け物は小さく呟くと、そのままどこかへ飛んで行った。
そして程なくして、同じように悲鳴が響く。
その悲鳴を上げた彼らもまた、やはり彼女に送られてきた新たなお客人だったのだろう。
彼らが死ぬ前に何を思ったのか・・・それはもう、今となっては分からないことだ。




