狂気の魔術師、ベルガモット
まだ噂程度な話。
「狂気の魔術師・・・?」
「あぁ。最近・・・いや、コイツの場合は前からだな。この国の騎士に、一人おかしい奴がいたんだよ。
まぁこの話は俺よりラガルトの方が詳しいか。」
「そうだな、任せとけ。」
ラガルト、と呼ばれたのはまだ若そうな薄紫の髪をもった青年だった。
申し訳ないがとても騎士には見えない。なんで騎士の話を知っているんだろ?
『えっと、ラガルト・・・さん? 失礼ですが、あなたは一体?』
「俺は情報収集の専門家でね。
これでも義賊やってるんだぜ?」
『義賊!? そんなのが、なんだってこんなところに!?』
『・・・そんな叫ばなくてもいいでしょうカストール。さっきの話忘れたんですか?
賭博場には恐らく、アイツらだけでなく・・・頭の弱いバカ貴族が多く来ているのでしょう?』
「ご明察。意外と頭は回るみてぇだな、譲ちゃん?
俺たちはそんなやつらから金を取っては貧しい人々に分け与えてるんだ。」
ラガルトさんは、偉いだろう?と両手を広げて笑う。
・・・・・・・・・・・。
『・・・で、そのベルガモットとは?』
「おぉ、そうだったな。
ベルガモットってのはさっきも言ったが騎士の一人で、なんと珍しく青髪持ちだ。
こいつは武術・・・特に槍の扱いに長けていてな、そこに魔法でオプションつけて戦ってたらしい。」
『ふーん?
それで・・・そいつ、何か変なところがあるんだろう? それは?』
「性格だ。とにかくアイツは姫様に依存していた・・・気が狂っちまうほどにな。
そうだ、あんたらここの王族が暗殺されたのは知ってるか?」
「「--------ッ!?」」
ちょっと待って・・・王族が、殺された、だって!?
「・・・知らねぇみてぇだな?
まぁ、まだ一部の奴らしか知らないんだろうが。」
「そっ、それっていつの話!?」
「今から何ヶ月・・・いや、ひょっとしたら何年か前なのかもしれねぇな。
俺だって知ったのはつい最近で、それだって騎士達の噂話程度なんだ。
”ここしばらく、ずーっと姿を見せない王族たち。
・・・もしかしたら国王様方はすでにおられないのではないか?”ってな。」
死んだのは、もう何年も前かもしれない・・・?
いやでもそんなはずは・・・だってミッドガルドを襲ってきたのは、国の騎士たちなんだぞ!?
『そんなはず・・・だって騎士達は少し前からミッドガルドを襲っている、って聞きました!
指示しているのも国王だと・・・それなのに・・・!』
「・・・ミッドガルド・・・あの”化け物の街”か。
だがそいつは・・・・・・・ハッ!? いやまさか、あれは本当なのか・・・だとしたら・・・!?」
ラガルトさんは何か思うところがあるようで、驚きの顔を隠しもせずに考え始めた。
心なしか少し焦っているようにも見える。どうしたんだろう?
「・・・譲ちゃん。それはもしかしたら・・・フルーレティ一家のせいかもしれねぇな。」
「フルーレティ一家?」
「あぁ。現宰相、ベリアル=フルーレティの家系だ。
妻はバフォメット、娘はシュピーゲル。今はこの街にある神殿で、その三人で生活しているはずだぜ。」
「ッ! シュピーゲルの・・・家系か・・・ッ!」
「・・・ほぉ? お譲ちゃんもしかして、シュピーゲルに何か恨みでもあるのか? 一気に顔が怖くなったぞ?」
『・・・・・・・・えぇ、まぁ、少し。
それで・・・またソイツらが絡んでくる、とは?」
「・・・これも騎士のヤツラの噂なんだが・・・。
どうも国王たちは毒殺されたらしい。それも結構強力なもので。
そんなんが用意できるのはその一家くらい・・・しかも王が死んだことは隠されている・・・。」
『・・・それで・・・。』
「確かにありそうだろ?
・・・で、そのベルガモットなんだが・・・。
その姫様が殺された、って噂を聞いて・・・耐えられなかったらしい。」
『狂っちゃうほど愛してたんですもんね・・・。それで?』
「アイツは姫様を抱えてどこかへ飛び出して行ったんだと。
”このままでは私の姫様が殺されてしまう! 私が・・・私が守らないといけないんだ!” とかなんとか言って。
それでたまたま遠くの遠征から帰ってきたばかりの小隊から何人か連れて、そこからずっと行方不明だ。
最近、この街でそれらしい人影を見たとか言う話はちらほらあるけどな・・・。」
・・・・・・・・・・・・。
ふーん。なるほど、ねぇ・・・・・・・・・・・・・。
『で、結局姫様はどうなったんです?
連れ去ったってことは生きてるんですか?』
「さぁな。
だがアイツは護衛騎士でもなんでもない、ただの一介の騎士だ。王族と対面できることなんて式典のときくらいしかないはずだぜ?
・・・それにいくら守るためとはいえ、騎士が勝手に王族を連れ出したりなんてしたら大問題だ。そもそも部屋かなんかへの侵入だって断られそうなのに・・・。」
『えっ? じゃあなんで姫様を連れ去ることが出来たんだ?』
ニーソクは不思議そうに言うけど、彼らは全員答えが分からないというように黙りこくってしまった。
でも私には一つだけ心当たりがある。
彼女は青髪・・・魔力を持つ者・・・魔法かもしれない・・・? だったら!
「幻想魔法。」
「「「「えっ?」」」」
「それ、幻想魔法かも。発動者の幻想を映す魔法。
発動者の意志が強ければ強いほど鮮明に、現実味を帯びた姿となる・・・。
これは発動者の意思による魔法だから魔力の消費が少ないんだ。だから別に青い髪を持っていない者でも発動は可能だよ。あとはその人の意思次第。」
「そ、そんな魔法があるのか!?」
ラガルトさんは大きく目を見開いて叫んだ。
うーん、なるほど。意外と知られてないんだね。
ちなみに、ニーソクたちも目を丸くして驚いている。
「なるほど・・・確かにアイツなら姫様の幻を顕現させることなんて容易いだろうな。
それで、その魔法は解けるのか?」
「もちろん。『幻想』魔法なんだから、解除するには・・・」
「・・・まさか『現実』をつきつけてやればいいのかお?」
「うん。簡単でしょ?」
まぁ今回はかなり難しそうだけど・・・。
彼らもまた私と同じ考えのようで、腕を組んでうーんと唸る。
「現実、ねぇ・・・姫様の死体でも見せつければいいのか?」
『でも別に死んでるとは限りませんよ?』
『だけど、もう死んでる確立の方が高そうだよなぁ・・・。』
「んー・・・まっ、なんにせよアイツには気をつけろってことだ。
今はまだ『噂話』なんだし、あんまり深く考える必要もないだろ。」
男性のその言葉に私たちは頷いて、この話は終わった。
☆裏設定
男たちは全員義賊でした。本当にいい盗賊さんたちです。
もう彼らの出番を作る予定はないですが・・・一応名前としては、ラガルト、マシュー、ジャファルとか。
・・・考えてた、ってのは少し違うか。
2秒で思いついた名前です。烈火おもしろいよね。
なお使ったのは名前だけなので、性格や外見は違うのです。




