手作り腕輪は、いかがですか?
ヒント:アルは赤い髪
注文は出来ても貨幣価値が相変わらず分からなくて、会計のときに僕はとりあえず金貨を3枚出してみる。
そしたらメイドさんに青ざめた顔で「こ、こんなに受け取れませんよ!?」って返されてしまった・・・あっ、そういえば半額にしてくれるんだっけ?
じゃあ、と改めて僕は金貨を2枚差し出した。
それでもメイドさんは焦ったように「こんなに受け取れません!?」って返そうとしてくる。
うぅ、困ったなぁ・・・どうしよう。
僕としてはどうにかコレで終わらせたいんだけど・・・あっ、そうだ!
今こそ人生で誰もが一度は言ってみたいであろう、あの台詞を言うときッ!
「大丈夫です。お釣りはいりませんから。」
「・・・へぇっ?」
「・・・くッ!」
そしてメイドさんが呆然としている間に急いで外に出る。
少しすると、店の中から「えええええぇぇぇぇっ!?」って悲鳴が響いた。
え、原因? さぁ、なんでだろうね? 僕らは知りません(すっとぼけ)。
・・・でもちょっと悪かったかな。あれで足りないって事はないんだろうけど。
店に向かって「ごめん」と小さく呟くと、後ろにいたテュールが突然笑い出した。
「くはっ! も、もう限界・・・くッ! 」
「なっ、テュール! そこまで笑わなくてもいいじゃないか!」
「だってあんなキメ顔で・・・くくッ!」
う、うぅ・・・! しっ仕方ないじゃないか、せっかくアレが言えたんだもん!
ドヤ顔じゃないだけマシだったでしょ!? そう思っても、なんだか恥ずかしくなってきて顔が熱くなる。
「うああああああああ! テュールの馬鹿、もう知らない!」
そう叫んで、僕はどこかに向かって走り出した!
☆
「・・・・・あ、アル。あそこ何かやってるみたいだよ?」
「えっ? あぁ、あれは・・・道具屋さん?」
適当に街を歩いていると、テュールが少し先にある店を指差して言い出した。
・・・えぇ、あのあとすぐに捕まりましたとも。意外と足速いんだねテュール。
それにしても「何かしてるみたい」って、何してるんだろう?
なんとなく気になったから、とりあえず立ち寄ってみることにした。
近くに寄って見てみると、どうやらその店は魔法が掛けられた道具を売っているみたいだった。
それで今はワークショップをしていたみたい。・・・へぇー、面白そうだね!
「どうテュール、やってみる?」
「え? うーん、面白そうではあるけど・・・。」
「じゃあやってみようよ。すみませーん!」
僕が奥に向かって声を掛けると、店主の人が一瞬驚いたような顔をして来てくれた。
むぅ、メイドさんといいなんでなんだろう。僕ら何かおかしいのかな?
ちょっと気になるけど・・・んー、まぁ今は置いておこう。
店主さんにお金を払って道具を貰い、詳しい説明をしてもらう。・・・説明はちょっと長かった。
今回作るのは少し太めの金の腕輪。要するにこの腕輪にデザインとか文字とかを彫ればオーケーで、あとは勝手に魔法が宿るんだって。
うーん、確かにすごいけど・・・フォルなら多分もっとすごいことするんだろうなぁ。
そんな事を思いながら近くにある椅子に座って早速作業開始。
・・・さて、何を彫ろうか?
☆
「うーん・・・・・・よしっ、まぁこんなもんかな。」
「あ、アルできた?」
「うん。テュールも?」
「一応ね。でもなかなか難しいね。」
テュールは照れたように頬をかいた。
あれから少し考えたけど結局いいのが思いつかなくて、とりあえず適当な模様とAの文字を彫った。
なんでかっていうと、Aは『アル』の頭文字だったのと、僕が知ってる数少ない文字だったから。
・・・あー、もう少し文字知ってればよかったなぁ。
少しだけ後悔しちゃうけど、まぁ仕方ないよね。
軽く落ち込んだ僕を見て、にこっと笑いながらテュールは自分が作った腕輪を差し出してきた。
「はい、コレあげる。」
「えっ? ・・・うわっ、何コレすごい綺麗だね!?
・・・あっ、じゃあ代わりに僕が作ったのあげる。コレみたいに綺麗じゃないけど。」
「そんなことないよ。
・・・ふふっ、ありがとう。」
僕が作ったお世辞にも綺麗とは言えない腕輪を手にして、テュールは嬉しそうに笑った。
そんなに嬉しそうにされるとなんだか僕まで嬉しくなるけど・・・うーん。い、いいのかな?
僕は後悔にもよく似た感情に襲われるけど、まぁいいかと気持ちを切り替える。
喜んでもらえたんだ、いいじゃないか!
そして、そのあと僕らは借りてた道具を返して店を後にした。
さて、これからどうしようか?
そう考える僕の腕には、テュールから貰った腕輪が輝いていた。




