勇者組
ちょっとしんみりする話。
次はまたフォル視点です。
僕がまた呼び出してしまった男の人に手を引かれ、走って出たのはどこかの地区。
なんだかさっきの場所と比べると建物が豪華なのが気になるなぁ。周りに人がいないけど、今はある意味丁度いいかもしれない。
彼は僕の手を離すと、改めて僕に向き合った。
「えっと・・・大丈夫だった?」
「あ、うん。ありがとう、助かったよ。」
女の子相手にちょっとやりすぎな気もするけど。
でもまぁ仕方ないか。突然襲い掛かられたら、多分僕でもそうしてしまうし。
「そっか、よかった。
あと、その・・・君はここがどこだか分かるかな? 僕、さっきまで森に居たと思うんだけど・・・。」
「あっ。ご、ごめん・・・それ僕のせいなんだ。えっとね・・・。」
僕は彼に本の魔法について、あと僕についての説明をした。
もちろん僕が勇者だということは伏せておく。だって、それで『どうか戻ってきてください』なんて言われたら・・・うぅ、考えるだけで不安になる。
彼はそんな僕の話を聞いて信じられないような顔をする。あー、僕も最初はそうだったなぁ。
フォルみたいに何か証拠を出せばいいんだけど・・・僕はこの本に書かれてる文字が読めないんだよね。世界が違うのも大きいんだろうけど、そもそも僕は文字の読み書きが得意な方ではなかったし・・・。
バルだったら読めるのかな? って、そういえばバル置いてきちゃったよ!?
・・・まぁうん、大丈夫なんだろうけど・・・むしろ女の子たちが心配になるなこれ。
僕が頭の中でどうしようと考えていると、彼は「うん。」と何か納得したように話し始めた。
「・・・・・とても信じられないけど・・・この状況じゃ今は信じてみるしかない、か。
それで君はアルでいいのかな?」
「うん。・・・あ。そういえば君も名前がないんだよね。
・・・うーん、ないと不便だし・・・とりあえず、テュールって呼んでいいかな?」
「テュール? ・・・・・うん、いい名前だね。」
とりあえず、と名前を提案してみるとテュールは顔を綻ばせた。あっ、気に入ってくれたのかな?
ちなみにこの名前は前にみんなから『似合わない』と一蹴されたもの。だから気に入ってくれて嬉しい。
それに僕の話も一先ずは信じてみてくれたみたいだし、今度は僕がテュールのことについて聞いてみようかな。
「テュールは森に居たって言ってたけど、何してたの?」
そう聞くや否やテュールは悲しそうな、辛そうな顔になった。
やばっ、これ聞いたらまずかったのかな!?
慌てて何か言おうと思ったら、テュールは悲しそうな顔のままポツポツと話し始めた。
「・・・君は僕らの世界が今、魔物に支配されているってことは知ってるかな?」
「うん。魔王がお姫様を攫ったあたりからだよね・・・でも、そこまで酷くなってたの?」
「・・・うん。それで父上は国中から勇者を集め始めたんだけど、本当の勇者はいつまで経っても現れなかった・・・数だけは多い偽勇者じゃ魔物たちは倒せなかったんだよ。」
うっ、やばい心が痛い。
でも魔物が倒せなかった? どういうことだろう。
テュールは一層悲しそうな顔をして話続ける。
「あまり知られてないけど、魔物たちは倒したって何度でも復活するんだ。
復活できないようにするには勇者の剣で斬るしかなくて・・・」
「・・・だから、本当の勇者が必要だった? だけど、」
「そう。でもその人は現れなくて・・・魔物たちは世界中で好き勝手に暴れ始めたんだ。
本当の勇者を探そうと思っても、その人は今どこに居るのかも分からないし、そもそも誰なのかも・・・。」
テュールはとうとう俯いてしまった。
・・・ごめんその勇者は、君の目の前にいるんだ・・・。
そんなことは知らずに、テュールは「だから、」と顔を上げてまた話し始める。
その目はさっきまでの悲しそうなものではなく、強い意志を持っていた。
「僕がその勇者の代わりに魔王を倒すことにした。」
「えぇっ!?」
「危険だって分かってるけど、僕はもうみんなが苦しむのは見ていられないんだ!
それに、姉上だって助けないと! もう攫われてから何年も経ってしまっているのだし・・・たとえ無事ではないとしても・・・」
「・・・・・テュール・・・。」
・・・実はその魔王もさっきまで僕の近くに居たんだ。
なんてそんなどうでもいいことは置いといて。
・・・どうしよう。僕、テュールにとんでもない苦労をかけてしまっている・・・。
心が痛くてたまらない。・・・でも僕はフォルたちを助けるって決めたんだ。
だからごめん。今は戻れないけど、いつかこれが終わったら必ず助けに行くから。
だから、どうかそれまで耐えていて・・・。
僕は新たな決意を胸に、早くこの事件を解決すると誓った。