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無欲の死霊使い  作者: ビスケット
かわいい幽霊
5/5

音楽室の幽霊

 『霊能者』...一般人がその言葉を聞いて想像するのは、よく夏の怪談番組などにでている怪しげなおばちゃんだったり、なにか超能力じみた力を使う人たちだろう。

 そしてその怪談番組にでてくる自称霊能者たちは、幽霊が見えたり、話しかけたり、お経を唱えたりして最終的には除霊をする。だが結局一般人には見えないのだから、本物か偽物かわからないのだ。判別のしようがない。

 この自称霊能者たちがほかの人と大きく違う点は『幽霊』が見えるというところにある。

 よく『霊感』があるという人は周りに一人はいるだろう。墓地の前を通ったり。それらしいスポットで、「ここに何か見える・・・。」などと言ったりする。いままでそんなそぶりを見せなかった奴が、いきなりそんなことを言ったとしても信じる人は少ない。

 だが、まえから知り合いなどから「あいつ、霊感あるらしいよ」などと聞いていたりすると、少し怖くなってくるかもしれない。それは心の奥底で『幽霊』という存在を信じているからだ。

 

 冴島氷河には『霊感』がある。小さいころからたまに幽霊が見えることがあった。

 見えるといっても正確にくっきり見える場合もあれば、人っぽい影が白くぼやけて見えることもあり、恐らく見えない事のほうが多いだろう。だからこそ祖母の話がこわかったのだ。幽霊自体が怖かったわけじゃない、幽霊が日常的に見えていた自分にとってその存在に慣れていたからだろう。祖母の話で怖いのはその内容だった。

 祖母の話にでてくる幽霊は人に害を与える。恨みのある人間を追い回したり、親しい者を殺して一緒にあの世へ連れて行こうとしたりする。たしか祖母は『死霊』と呼んでいた。

 怖い話ばかりしてくる祖母は苦手だったが、親が信じてくれなかった幽霊の話を信じてくれた。(だからこそ死霊の話をしてきたのかもしれないが。)そのことがなによりうれしかった。

 

 だが氷河は理解していなかった。祖母がなぜ『死霊』についてしつこく話したのか、本当の意味を・・・



 うまく校舎内に侵入した氷河たちは、3階の音楽室を目指していた。

「そういやさ、れいの美少女幽霊って誰にでも見えるのかな?」

 先頭を歩きながら健吾が言った。


「ある程度うわさになってますし、霊感がなくても見えるんじゃないですかね?」


「まさか幽霊を見れたのは氷河だけだとかいうオチにならないよな?」


「霊感がある人って冴島君だでしたっけ?」


「他に霊感がある人いる?」

健吾が全員にに言った。


「実はわたしも・・・」


「え?西条さんも霊感あるんだすげ~じゃん」

健吾の反応が自分の時と違う気がするがいつものことだ。


「ええ少しだけですけど。」


なんか納得だった。だから、さっき自分が霊感があるという話に反応したのだろう。


「じゃあ、もし幽霊が見れたらこんど詳しく教えてくれよ~」


「ふふ。健吾君てすごい幽霊が好きなんですね」


「ちがうよ西条さん!あいつただ西条さんとお話ししたいだけだから気おつけてね。」

日和が西条さんに忠告している。

 

どうやら健吾はかわいければ幽霊でも人間でもいいらしい。


 そうこうしている間に音楽室が見えてきた。


 ヒナ校の音楽室は扇状になっていて、黒板の斜め前にピアノがあり、扇のカーブに沿って椅子が並べられている。机はない開放的な作りになっている。よくあるようなベートーベンやモーツァルトの肖像画はない。変わりにあるのは吹奏楽部がコンクールで入賞した時の写真だ。一見幽霊はでなそうであるが、今は夜の音楽室。今にも中からピアノの音が聞こえてきそうだ。


「もちろん、健吾くんからはいってくれるんだよね?」

音楽室のドアの前で笑顔で日和が言った。

 

「なんだよ日和怖がってんのか?」

健吾が自信ありげにかえす。


「まあ俺が一人で見てきてやるよ。お前らはそこでまってな。」

そう言って一人で音楽室に入っていった。


 それから10分ほどたったがなかなか戻ってこない。時刻は11時50分、そろそろ墓地に行かないと12時になってしまう。

 

「まったく、脅かすつもりなんでしょうけどこれじゃ校舎内まわる前に12時になっちゃうじゃない。」


「ほんとですよね。健吾くんドッキリとか好きそうだからなー。」


 二人とも呆れているらしいが、少し声がうわずっている。

 健吾が脅かすためにでてこないのだと思っているが、心の奥底では少し不安なのだ。夜の学校の雰囲気がそうさせるのかだろう。


「冴島くん何か感じる?」

西条さんが小声で聞いてきた。


「いや特に感じないけど。西条さんは何か感じるの?」

 嘘だ。実は健吾が入ってから何かネットリとした嫌な雰囲気を感じる。

 それもここだけじゃない、方角的に恐らく墓地のほうだ。

 もしかして、本当にでるのか?ちょうどそんなことを考え始めていたところだった。


「私も特に感じないかな」

 西条さんが微笑みながら言った。


「そうだよ。どうせ中に入ったらライト顔に当ててバアッ!とかやってくるよきっと」

不安を振り払うように明るく言った。


「じゃあ入ろうか」

言いながらドアノブに手をかけた。


 中に入ると真っ暗でよく見えない。


「あれ?スイッチはどこだっけ?」

 メガネがスイッチを探している。夜の学校で電気をつけてしまうのはまずいかもしれないが、警備員に見つかったらメガネが何とかしてくれるだろう。


 そのままみんなで部屋の中央に進んでみる。脅かす気ならそろそろでてくるはずだが。



 ドュン!

 


 ピアノの音が聞こえた。多少驚いたが想定の範囲内だ。健吾が鳴らした可能性が高いだろう。

 そして、ピアノが曲を奏で始めた。

 

 だが・・・「プッ」と思わず吹き出してしまった。

 なんと聞こえてきたのは「ねこふんじゃった」だ。しかもあんまりうまくない。

 これはもう笑わせにきてるだろっ。日和も同じように笑いをかみ殺している。

 頑張って演奏しているので終わるまでまってやろうと思った矢先、部屋の電気がついた。


 部屋の電気が着いたのとほぼ同時に音が途切れた。メガネがスイッチを探し当てたのだろう。

 そこに現れたのは・・・やっぱり健吾だった。ピアノの前で一人たたずんでいる。


 「健吾ー。いくらなんでもお粗末すぎだよ。音楽室のピアノってのはベターだけど、もっと練習しなきゃ。それにナニあの曲選!いくらなんでも「ねこふんじゃったは無いでしょ。」


 日和が笑いながら話しかける。しかし、なぜか健吾は俯いている。

 

 「まあ、そう落ち込まないで下さいよ。頑張ってねこふんじゃったひいてるの最高でしたよ。」

 メガネがフォローする。


 「お前らじゃないんだよな?ピアノ弾いてたの。」


 「何言っているの?あたりまえじゃない。電気着いたときにここにいたんだから、すぐピアノから移動できるわけ・・」


 そう移動できるわけないのだ。電気がついた瞬間に、部屋の真ん中にいどうするなんて。

 だがそれは健吾も同じはずなのだ。部屋の電気がついたのと同時にピアノの前に立つなんて不可能なはずだ。


 一瞬で部屋中の空気が張り詰める。


 「そうだよ、俺じゃないんだよ。俺はピアノの近くにお前らが近づいてきたら、スマホのライトで脅かすはずだったんだ。」


 「じゃあ一体だれ・・」

 日和が言い切る前に部屋の電気が消えた。


 「おいっメガネ!悪ふざけしてるんじゃねえよ!」

 健吾がどなる。


 「ちっ違うよ俺じゃない」

 メガネが必死に否定する。



 「うわー。いいなあー。男女5人で肝試しかー。羨ましー」

 


 ピアノがある場所の真上から女の声が聞こえてきた。

 なんと言ったかはみんなよくわかっていないだろう。それほどまでに衝撃的だった。宙に浮きながら女が話しかけてきたのだから。

 その女は真っ暗なはずの音楽室でもなぜかしっかりとその姿がかくにんできる。制服姿だが、この学校のものではない。

 見た目は普通の女子高生だが、普通ではない。生きた人間ではないと肌で感じた。理屈では言えないがその女からは生きた人間の気配が感じ取れなかった。


しばらくみんな動けないでいる。金縛りにあったわけではないが驚きでうごけない。すると幽霊が近づいてきた。

 驚きと戸惑いの中でつい顔を確認してしまう自分がいる。その幽霊はすこし茶色がかったロング、整った眉毛、きりっとした目やさしい口元。端的に言えば美人だった。

 だが嬉しさと同時に恐怖が生まれる。そして思い出すこの学校の噂。「美人の幽霊が学校の裏の墓地で死体を食っている。」

 つまりこいつが人喰いの幽霊なのだと理解する。そして後悔も生まれる。「人に害を及ぼす幽霊。」こいつが祖母の言っていた『死霊』なのだと。

 

 一瞬でこいつが噂の幽霊だとみんなも気づいたようだった。


 「おい!逃げるぞ。」


 健吾が叫ぶ。まずドアの近くにいたメガネがドアを開け走り出す。続いて日和も後に続く。そして健吾が西条さんの手をひき外に出る。(こんな時も抜け目ない奴だ。)

 

 「お前も早くこい!」

 健吾が叫ぶ!


 「ちょっと待ってよ何もしないから。」

 幽霊に呼び掛けられるがそんなの信じられるわけがない。なんせ墓地で死体を食べているという噂の幽霊なのだ。


 みんなに続こうとドアに向かう。

 だが、

 

 「だから、何もしないってば!」


 ドアまで後1メートルの所で、幽霊に行く手を阻まれる。

 そこで幽霊はニッコリ笑いながら言った。

 「あんまり無視すると、お姉さん怒っちゃうぞ。」



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