#3.学校潜入
11時前には家を出た。もちろん学校に行くためだが、いざ学校までの坂に到達すると、なんで休みの前日にまでこの苦痛を感じなければいけないんだと、少し後悔する。まあでも氷河も正直可愛い幽霊とやらに興味があった。
もしほんとにいるとしたら、おそらくこの学校の元生徒あたりであろう。幽霊の事を話す祖母は怖かったが、幽霊自体にあまり恐怖はなかった。
――もしほんとにいたら話しかけてみよう。
そんなことを考えているうちに校門についた。時間ピッタリについたはずだが全員そろっていた。みんな内心夜の学校というものにわくわくしているのだろうか?美少女幽霊が楽しみな自分もその一人だが。
「おい!氷河遅いぞっ。12時になっちまうだろ!早くしないと人食い美少女幽霊が見れないだろうがっ」
「ああ、わるいわるい。」と言おうとして一瞬思考がフリーズした。
人食い美少女だって?いったいどういうことだ。
氷河がポカンとしていると、メガネが補足した。
「金曜の午前0時(正確に言うと土曜)にこの学校の裏の墓地で、死体をあさって食べているという。かわいいと噂の幽霊の事ですよ!」
「ちょっと待ってくれ!俺が聞いたのは可愛い幽霊が0時に学校にでるってとこだけだ!」
「あれ?言ってなかったっけ?」
とぼける健吾
「だってお前ほんとの事言ったらこなそうじゃん?」
「ちょっとまってよ私もそんなこと聞いてないわよ!」
とここで日和も反論する。
「彩香さんも聞いてないよね?」
「いや、私はもともとこの噂知っていたから。」
と西条さん。
「おいおいお前ら騒ぐなって!西条さんだって、知っててここにきたんだぞ?それにな良く考えてもみろ、いまどき普通火葬だろ?まず墓場あさって死体食べてるって所からありえねえって!」
「じゃあなんで、こようと思ったのよ!」
もっともな疑問だ。まあだいたい予想はつくが。
「そりゃ勿論。可愛い幽霊が見たいからに決まってるだろう?」
「はあ~~。」
とあきれる日和。
「まあ、大丈夫だって!もしなんかあっても俺たちには幽霊博士がついてるからな」
「な~にが幽霊博士だよ・・」
おもわず気が抜けた声が出てしまう。
自分が持っているのは祖母から聞いた知識と、あるような気がする霊感だけだ。
「え?冴島君て幽霊くわしいの?」
「ああ、まあ少しね。」
「霊感もあるの?」
「まあ普通の人よりはね。」
なぜか西条さんは幽霊の話に興味津々だ。
側ではまだ日和と健吾が言い争っている。メガネは誰かと電話していた。
「ねえ。冴島君は幽霊と死霊の違いってなんだかわかる?」
さっきより下げたトーンで西条さんは言った。
「え~とたしか『幽霊』が人間に干渉する死んだ人間の魂で、『死霊』が人に害を与える幽霊だとかそんな感じだった気がする」
祖母から聞いた言葉をそのまま記憶から引っ張り出す。
そもそもこの問いに明確な正解はあるのだろうか?
僕の言葉に西条さんは少し驚いたようだった。今一瞬目が丸くなったような気がした。
「へ~~。くわしいんだね冴島くんて。」
少し棒読みに聞こえたのは気のせいだろうか。
「なんかばあちゃんが詳しくてさ、小さいときいつも聞かされてたんだよね。」
「じゃあさ。冴島君、ちょっとこっち来て。」
氷河をみんなから少し離れた場所に連れていき、その場で、うしろで手を組み少し前かがみになって、冷めた笑みを浮かべながら言った。
「今何が見える?」
こんどはすごい質問がきた。これはどういう意味なのか?氷河はすごい勢いで考えを巡らせる。西条さんは今日かわいいワンピース姿なのだが、今の西条さんの体制は前かがみになったことで、胸の部分が開き下着が見えそうなのだ。おそらく自分の頭を少しずらせば下着が見えてしまうだろう。そこへ今の質問。
もし自分に正直に「ブラジャー」(正確には見えそうなだけだが)などと答えてもみろ、下手したら卒業までの後2年半気まずい雰囲気になりかねない。どうしたものかと悩んでいると。
「ちょっと!西条さんにちょっかい出してないで早くきなよ!」
そこへ救世主日和の声が聞こえてきた。
「あっごめん西条さん怒られそうだから、もう行こっか!」
そのまま返答を待たずにみんなの所へ戻った。
「お前西条さんを物陰に連れて行って、何しようとしてたんだよ?」
戻るなり、やはり健吾に追及された。
「違うの岡田君。私が学校の事で聞くことがあったから、冴島君に聞いてもらってたの。」
「そっか、ならしょうがないな。」
西条さんに言われたら健吾もこれ以上追及はできないだろう。一応納得した様子だった。なにか西条さんの発言に違和感を覚えたが今考えるのはやめておいた。
「じゃあなんだかんだもう35分ですし、そろそろ校舎に入りますか!」
スマホ片手にメガネが言った。
「あれ?てか幽霊が墓地にでるんだったら学校に入る必要なくない?」
日和がもっともなことを言った。
「あのなあせっかく学校に来たのに、墓地に行くだけだとつまんないだろ。それに墓地に絶対にいるとも限らないわけだし、せっかくだから校舎内の幽霊出そうなところも探索しようぜ。」
結局校舎内を探索してから墓地に行くことになった。
「そういえば、警備員の対策ってのは大丈夫なの?」
「心配すんな氷河、メガネの親父はなヒナ校が雇ってる警備会社の社長なんだぜ。」
「あ~なんか納得。丸山君の家おっきいもんね。」
「でも社長だって言ってもさすがに高校生を夜の学校に入れてくれないんじゃないの?」
「ああそれは大丈夫。うちの会社そんな大きいわけじゃないからさ、前に親父も自分でこの学校担当していたらしいんだよね。それで最初はシフトと巡回ルート教えてもらおうと思ってたんだけどさ。11時半から12時半て夜食の時間らしいんだよね。だからその時間は誰もいないんだってさ。」
「なるほど、入れてもらうんじゃなくてちゃんと忍び込むわけね。」
「夜勤だからお腹も空いてしまうんでしょうね。」
1時間でもいないのはまずいんじゃないか?とも思ったが、大手より小規模の警備会社だし、学校も安いから使っているんだろう。金はあるはずなのになうちの学校。
「一応これが巡回ルート書いた地図で、ここが警備手薄そうなところ」
地図を出しながらメガネが言った。
「まあ最悪見つかっても僕がいれば問題にはなんないよ。」
ムネを張りながら自信ありげにメガネが言った。
「じゃあさっそく、美少女幽霊に会いに行きますか!」
と嬉しそうに健吾がいった。
「わかってると思うけど、私たちをダマしたんだからあんた先頭で行きなさいよね。」
「もっもちろん...。」
こうして僕たちは、死体を食いあさっていると言われる美少女の幽霊を探しに校舎に入っていった。
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追記:なぜ墓地に幽霊が出るのに、校舎内に入るのかのくだりを追加しました。