表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

XIII サーティーン

作者: 山本哲也

 タタン、タタン…。

 規則正しい音を立てながらホームにオレンジ色の電車が入ってくる。乗車位置にきちんと並んだ、暑苦しいスーツ姿のサラリーマンや、OLらしいのや、夏服姿の学生達が出来れば座ろうと、そうでなくとも少しでも楽な位置を取ろうと、心の内で身構えている。もうイヤになるほど見慣れた、いつもの朝の風景だ。

 「ふぁ…」

 あくびをかみ殺しながら、鳴瀬健二も他の人達と同じように、次第に近づいてくる先頭車両をぼんやりと眺めていた。

 暑い。

 とにかく暑い。

 流行の三つボタンのダークスーツの下のじっとりと汗ばんだ身体を、ツツ、と汗が伝っていく。それが健二にある事を思い出させ、憂鬱な気分をよりいっそう高めていた。健二はほっそりとして長身ではあるが、これから夏真っ盛りになろうというのに着ている物が冬用に作られたスーツではどうしようもない。だが、今の健二の部屋のタンスには、もうそのぐらいしかスーツと呼べる物は残っていなかったのだ。元々が無精な性格の健二が一念発起して部屋中に散らかっていたよれよれの夏物のスーツをクリーニングに出したのが四日前。そして、それらを回収する間もないままに、たった一着残していた夏物のスーツを、夕べ帰宅途中に自転車で転んで派手に破いてしまったのだ。自転車に乗りながら居眠りをしてしまったのが原因だった。

 その時の情景を思い出しながら、健二は額に貼った絆創膏にそっと手をやる。切る暇がなくて伸ばしっ放しになってしまっている髪が目にかかり、それが健二をより一層いらつかせた。

 (経費節約だか何だか知らないけど、結局こっちにしわ寄せが来るだけじゃないか…)

 そう心の中で愚痴りながら、健二は企画課課長、山科敏夫、通称ハゲ山課長のバーコード頭を思い出す。

 健二は、小さな、それこそ吹けば飛ぶようなゲーム会社の企画課に勤めている。そもそもこの業界は服装については寛大なはずなのだが、健二の勤めている会社は少々事情が異なっており、きちんとしたスーツ姿で出社することが決まりとなっていた。

 企画課とは言っても、小さな会社のことなのでゲームの開発が佳境に入れば開発の手伝いもするし、広報の真似事だってやる。今は一通り仕上がったゲームのデバック作業(おかしな動作をしないか、あるいはゲームとしてバランスがとれているか―簡単に言ってしまえば、ゲームをやってくれるお客さんが納得できて、楽しいか―のチェック)のためほとんど全社員総出でテレビ画面に向かってピコピコとやっていた。去年まではそういった事のために大量のバイトが雇われていたのだが、今年は開発費の削減のためにほとんどが自社社員だけで行われていたのだ。そのため何日も徹夜の日が続き、久しぶりに帰宅出来たと思ったらのこの始末だ。

 健二の会社ではかなり年功序列的な風習があり、通る企画はそんなに面白そうでなくても、どこかの作品のパクリであっても大抵は先輩の企画ばかり。就職した頃の理想はどこへやら、健二は最近では企画を出すこともなくなり、自分が何をしているのかさえ良く分からなくなっていた。

 (…いつになったら終わるんだろう…)

 近づいてくるオレンジ色の車体をぼんやりと見つめたまま、遅々として進まないデバック作業の事を思い浮かべ溜め息をつく。電車は、もう運転手の顔の作りがはっきりと分かるほどに近づいていた。いつも通り、電車は満員だろう。忙しくないときはもう少し時間をずらして空いてから行くことも出来るのだが、作業が詰まってしまうと会社に泊まり込むのが普通にすらなってしまう。たまに終電ぐらいで帰れたとしても、デバック時期は朝八時三〇分までに出社しなければならない、というのが暗黙の了解になっている。会社までの通勤時間が一時間三〇分もかかる健二ではたとえ帰れたとしてもほとんど何をする暇も無い。もっと会社の近くに引っ越そうにも、今の健二の月給ではそれは夢物語でしかない。

 もうほとほと、うんざりだった。

 (…終わりに、しようかな…)

 電車を見つめていた健二の頭に、ふとそんな考えが浮かび、急速に広がっていく。

 (そうだ、終わりにしてしまえ。そうすれば楽になるぞ…)

 不意に、頭の中で何かがそう囁く。

 タタ、ン、タタン…。

 スピードを落としたためか、車輪がレールの継ぎ目を渡る音が少し間延びしたようになる。だが、これでも十分だろう。あの運転席の前に降りてさえしまえば、ブレーキをかけたとしても間に合うまい。そして、全てを終わりに出来るのだ。そう、あとほんの二、三歩、足を踏み出せばそれでいい…。

 (ほら、終わりにしてしまえ…)

 その声に操られるかのように、健二はホームの端と自分の立っている場所との距離を測るように足許に視線を落とす。それから、再び電車の方に視線を向けた。ガラス越しに見える運転席では運転手が難しい顔をして進路を見つめている。だが、仮に今、気がついたとしても結局は間に合わないだろう。

 (さぁ今だ…)

 その声に促されるように、すいっと健二は足を踏み出した。

 「止めなよ」

 不意に、すぐ側で女性にそう囁かれ、踏み出しかけていた健二の足が止まった。オレンジ色の車体が、風を纏いながら健二の前を過ぎていく。

 おそるおそる振り返ると、健二のすぐ隣り、乗車待ちの列からは少し外れた所に、白い夏服のセーラー服姿の女の子が立っていた。電車が巻き起こした風が彼女の腰に届きそうなほど長い黒髪をなびかせる。

 「死ぬのは勝手だけどね、こんな朝のラッシュ時間に飛び込むのは止めてくれる?」

 その女の子はまるで幽霊でも見ているような顔で見つめている健二を物怖じすることなく見返し、何気ない表情でもう一度そう言った。

 健二が何も言い返せずにただ呆然と見つめているうちに、停車した電車のドアが開き、降りる人や乗る人達が迷惑そうに健二を押しのけていく。やがて、プシュー、という音と共にドアが閉まり、電車は入ってきた時と同じようにゆっくりとホームを離れていく。

 「…あ…」

 ようやくそれに気が付いた健二は、声にならない声を上げながらまるでロボットのようにゆっくりと首を振り、去っていく電車のテールライトを見送っていた。

 「…あーあ…」

 暫く呆然とたたずんでいた健二はやっとそれだけ呟くと、ふらふらと力無くベンチに歩み寄り、どさりと腰を下ろした。なんだか頭がぼんやりとしている。一体、自分は今、何を考えていたのだろうか…。

 …自殺?

 その言葉が頭に浮かぶと、ざらついた感触がした。どうしてそんなことをしようなどと考えたのか、自分でも分からない。ただ、その時は頭の中がそれだけになってしまったのだ。

 「よいしょ」

 その声に顔を上げると、隣の席に先ほどの女の子がちょこんと座ってこちらを見つめている。格好からはどう見ても女子高生なのだが、どうもそんな様子でもない。最近は『ナンチャッテ女子高生』というのもあるそうなので格好だけでは判断しかねるのだ。

 健二と視線が合い、その女の子はにこりと微笑んだ。

 (…何だぁ…? 新手のナンパか?)

 訝しげに思っていると、

 「違うわよ」

 とその女の子がまるで健二の考えが読めているかのように答える。

 「な!?」

 「そんなに驚かなくてもいいじゃない。ちゃんと顔に書いてあるわよ、『何なんだろうこの女は、俺をナンパしようってのか』って」

 そう言って、彼女は絶句している健二をあきれたような目つきで見る。これもまた図星だったので健二は恥ずかしくなって俯いた。

 「…ゴメン」

 「いいケド。それより、こんな所で油売ってて平気なの?」

 ホームには次から次へと電車がやってきては人を吐き出し、そしてまた人を飲み込んで出発していく。ホームにたたずむ人達も先ほどに比べれば多少は少なくなってきていた。

 「…うん…。どうせ、あれに乗れなかったら遅刻には違いないから」

 呟くようにそう言いながら健二は先ほどの情景を思い返していた。

 まるで、全てがコマ送りの映像のようにスローモーションだった一瞬。あの時、声をかけてもらっていなければ今頃は…。

 「マグロのぶつ切りみたいになっていたでしょうね」

 「え!?」

 「飛び込むつもりだったんでしょ、さっき」

 ぎょっとして顔を上げた健二の瞳をのぞき込むようにしながら、彼女が続ける。

 「馬鹿ね、飛び込みなんかしたら後が大変よ。あたしだって迷惑だしね」

 そう言うと、彼女はウインクしてにっこりと微笑んだ。

 「…君は一体何者なんだ?」

 その何気ない調子に何か尋常ならざるものを感じ、険しい目つきで警戒しつつ健二は尋ねる。

 「別に。ちょっとお節介なただの女子高生よ」

 別段ひるんだ様子もなく健二の視線をしっかりと受け止め、彼女はそう言いながら鞄から一枚の名刺を取り出す。

 「もし、今度死にたくなったらそこへどうぞ。その道のエキスパートが丁寧に指導してくれるわよ」

 そう言いながら彼女が渡してくれた名刺には、中央に少し大きめの飾った書体で『石田千香』と印刷されている他は、下の方に『http://www.death.co.jp/』というURL(ホームページの住所のようなもの)があるだけだ。裏返すと、大きな柄の長い三日月のような鎌を持った、ボロボロの赤い布きれを纏った骸骨の絵と、『XIII Death』という文字が印刷されている。タロットカードの『死神』のカードの絵のようだ。

 仕事柄、健二もタロットカードの絵柄ぐらいは一通り知っている。

 (…?)

 何度かひっくり返したりして見ているうちに、健二はふと、ちょっとした違和感を感じたような気がした。

 「そこのホームページは『自殺互助会』って言ってね、あなたのように死にたい人達や、確実な成功のためのアドバイスや手助けをしてくれる人達の集まる所よ」

 キョトンとした顔で名刺を何度もひっくり返したりしている健二に、彼女がそう説明した。

 「…確実な成功…」

 その『成功』の意味するところのおぞましさにそう呟いた健二がふと気が付くと、彼女はもうどこにも見あたらない。だが、再び視線を手元に戻すと、そこには確かに、あまり趣味のいいとは言えない名刺が、しっかりと存在していた。


 「鳴瀬君、お早いお着きだねぇ」

 健二が会社に着くと、思っていた通り、自分のデスクで書類を整理していたハゲ山課長が皮肉たっぷりの口調で言い、ちらりと視線を向ける。全社員総出に近い状態でデバック作業をしている中、課長は何かかやと理由を付けてその作業には加わっていない。

 「すいません」

 本来はフレックスタイム制を採用しているはずなので別にイヤミを言われる覚えはないのだが、そこはぐっと堪えて熱のこもらない調子で謝ると、健二は机に鞄と上着を置き、そそくさとデバックルームに向かった。

 デバックルームといっても普段は会議室と呼ばれている大部屋で、デバックの時期になるとそこに大量のゲーム機やテレビを持ち込んで臨時のデバックルームになるという代物だ。しかも、予算不足から持ち込まれているテレビやゲーム機は半数以上が社員の私物だった。もちろん、健二が使っている物も例外ではなく、ゲーム機は自宅から持ち寄ったものだ。

 薄暗いデバックルームでは、既に先輩や同僚たちがそれぞれの席で作業をしている。健二が入ってくるとちらりとこちらを見た者もいたが、大半は何の関心も示さずに黙々と作業を続けていた。

 自分の席に着くと、健二も早速テレビとゲーム機の電源を入れる。この仕事に就いてからは、仕事として無理矢理興味もないようなゲームをやる以外にはゲームをやることもまるでなくなってしまっていた。

 「よう、重役出勤とはいいご身分だな」

 コントローラーを手にゲームを始めた健二に、隣の席に座っていた同期の内藤良隆が囁くように声をかけてくる。内藤は普段は広報の方に所属していたのだが、やはり現在は臨時のデバック要員となっているのだ。短い髪を少し脱色し、体格のよく、百八十センチはあろうかという身長と黒く日焼けした外観の良隆はとてもゲーム会社に勤務しているようには見えないだろう。本来は広告関係の業界に行きたかったらしいのだがかなわず、結局この会社に就職したらしい。だが、少なくとも表面上はいつも生き生きとしていて、入りたくてこの業界に入った健二などよりよほど楽しそうに見える。

 「ハゲ山みたいな事言うなよ」

 ゲームが起動するのを待ちながら、健二はちらりと良隆の方に視線を送った。連日の作業のため彼もかなり疲れてはいるようで、目の下にはくっきりとクマができている。だが、その表情にはイヤそうな様子はまるでなかった。

 「…お前、ホント楽しそうだな」

 「何だよ、いきなり」

 ぼそりと呟いた健二に、良隆がキョトンとした顔を向ける。

 「羨ましいよ、お前が。いつもいつも楽しそうで」

 無表情に画面を見つめたまま、感情のこもらない声で健二は言う。その声の調子が馬鹿にしているように聞こえたのだろうか、良隆はちょっと困ったような表情をした。

 「…まさか喧嘩売ってるんじゃないだろうな?」

 「ゴメン。そんな風に聞こえたんなら謝るよ。ただ、いつも楽しそうだから…」

 コントローラーを置いて良隆の方を向いた健二はそう言って溜め息をついた。ほとんど何も作業をしていないのにひどく疲れているような気がする。そんな健二を見て、良隆はふっと微笑んだ。

 「確かに」

 これは良隆の口癖だ。そのことを指摘されると自分では『言ってない』と言うのだが、いつも何か言う前にそういって軽く頷く癖がある。案の定、良隆は軽く頷いて続けた。

 「俺にも経験があるよ。就職活動していた頃だ。何もかもうまく行かないような気がして、もう生きているのさえイヤだった。でもな、考えたんだ。どうせやらなきゃならないんなら、どんな状況であっても嫌々やるのは止めようって」

 そこで良隆は少し照れたような、昔を懐かしんでいるような表情をした。

 「…とにかくちょっとずつでも楽しむように努力した。そしたら、ここに就職が決まって、それから少しずつ状況が好転するようになっていったんだ。それからは額にしわを寄せるのは止めたのさ」

 そう言うと、良隆は両手の平を上に向けて大げさな仕草で肩をすくめてみせる。

 「でも、希望の業界じゃなかったんだろ?」

 「確かに。でも、広報に配属されたから。こんな会社だからこそ、ポスターやら広告なんかのデザインもさせてもらえるし、イベントの企画も出来るしね。正直、あっちの業界に就職できていたら下っ端ぺーぺーにはそんな仕事は回ってこなかったと思うよ」

 そう言いながら、良隆はにっこりと微笑んだ。

 「こんな会社に勤めている身分としては、仕事の方もやっていただきたいのだがね」

 不意に、後ろから嫌味な声が聞こえ、二人は思わず姿勢を正した。ハゲ山だ。二人は慌てて画面に向かうと、それぞれの仕事を再開した。


 健二が作業にようやく一段落をつけ、コントローラーを置いたのは午前一時を回ってからだった。既に終電も終わってしまっている。

 溜め息をつき、健二は目頭を押さえた。両目がしみて、痛い。ほとんど目を開けていられない程だ。座り心地の悪いパイプ椅子の背もたれにもたれかかって溜め息を付きながら、ぼんやりとした頭で考えた。昼飯は食べただろうか? 夕食は? 

 確か、昼食も夕食も作業を行いながら、近くのコンビニで買ってきたカップ麺やパンを食べたはずだ。だが、その時の事を思い返そうとしてもぼんやりとしか思い出せなかった。ここにいる間、そういったことは全て夢の中の出来事のようになってしまう。ここでの現実とは、目の前にあるゲーム、ただそれだけだった。

 周りを見渡すと、同じようにデバック作業を行っていた社員達がパイプ椅子を並べた上で仮眠を取っていたり、床に敷いた寝袋で寝ていたり、あるいはコントローラーを握ったまま机に突っ伏して眠っている。隣の席は空席だった。良隆は今日は何とか帰る事が出来たのだろう。

 (…確か、帰る時に何か話したような気もするけど…)

 そんなことすらも思い出せない自分が情けなかった。

 一体、自分はどうしてこんな事をしているのだろう。どうせ、残業代など出ないと言うのに…。

 「止め止め」

 そんなことを考えてもただ疲れるだけだ。

 健二は首を振ってその考えを振り払った。その時、ふとテレビの横に置いてある使い込まれたノートパソコンが目に入った。ここでの作業が始まった時に自宅から持ってきた物で、学生だった頃から使っている物だ。企画課にも自分用のパソコンはあるのだが、そこまで移動するのも億劫だったのだ。

 (…メールチェックでもしとくかな…)

 気晴らしにインターネットに接続しようと、健二はノートパソコンを立ち上げる。本来ならもうモニターなど見たくもないのだが、こんな時ほど誰かからのメールが欲しくなったりするものなのだ。

 もっとも、会社仲間の他には学生時代からの友人程度しかメールをやりとりするような仲間はおらず、そのメールも滅多に来ることはなかったのだが。

 そして予想通り、メールは来ていなかった。軽く溜め息をつき、視線を机の上に戻したとき、ふと机の上に放り出した財布からはみ出している名刺が目に入った。今朝、あの『自称』女子高生からもらった例の名刺だ。

 「…」

 しばらく考えた後、健二はパソコンにURLを入力する。

 「http://www.death.co.jp…変なURLだな…」

 液晶モニターに顔を近づけて一字一字確認しながら、健二はブラウザ(インターネットに接続するためのソフト)のアドレスバーにURLを入力し終わり、リターンキーを押す。暫く経つと、真っ黒い背景に例の死神のイラストが浮かび上がる。

 その死神のイラストをクリックして、『自殺互助会』の中に入った。

 中は予想通りというかありがちなと言うべきか、真っ黒な背景に赤い文字で構成されている。内容は『確実な成功のために』、『FAQ(良くある質問と答え)』、『掲示板』、『チャットルーム』で構成されていた。健二は取りあえず、『掲示板』に入ってみる。

 掲示板とは不特定多数の人々が様々な意見などを書き込めるようにしたもので、多くの場合、そこを訪れた人が感想などを書いたり、また常連たちの意見交換、情報交換などに使われている。掲示板の書き込みの内容や量を見れば、そのホームページの盛況の度合いが分かり、またどのような人が集まっているのかを知ることが出来るのだ。

 『死にたい』

 『苦しい』

 そこは、その手の文字のオンパレードだった。大抵の書き込みがたった一言、『死にたい』などと書いてあるものばかりなのだが、ほかに自分の今の心境を切々と語ったものや、どこどこの病院では簡単に睡眠薬が手に入る、とか、なかには青酸カリをいくらでお分けします、などというものまである。

 (…おいおい、アブねーなぁ、そんな事生IPのまま書き込んでるなよ…)

 健二は『青酸カリお分けします』というタイトルの脇に表示されたIPアドレスを読んで思わず苦笑した。この掲示板には書き込んだ人間のIPアドレスが表示されるようになっていたのだ。

 IPアドレスというのはインターネットに接続した際にプロバイダ(インターネットへの接続のサービスを行っている会社)が接続してきたコンピューターに対して割り当てる識別番号で、このIPアドレスを見れば、その書き込みを行った人がどのプロバイダを利用していてどこのアクセスポイントを利用したかがある程度分かってしまう。

 また、接続するアクセスポイントは自宅などから最も近い場所にするのが普通だ。そこで、これらを総合すればアクセスポイントの情報からその人がどのプロバイダを使っているか、どの辺りに住んでいるのかまで、おおよそ推測できてしまうのだ。

 健二などはそれを防ぐためにプロキシーサーバという中継点を使用して、自分がどこのアクセスポイントを使用しているか簡単には分からないようにしているのだが、この『青酸カリお分けします』という書き込みをした人はそういう事には疎いらしい。

 プロキシーサーバを使用すると、Aというページにアクセスする際に直接アクセスせず、一旦Bを経由させ、見かけ上Bからのアクセスがあったようにする事が出来る。回り道をすることになるので表示が遅くなることもあるが、多少なりとも匿名性を高めることが出来るし、『生IP』(プロキシーサーバを経由しないIP情報のことを俗に『生IP』と言う)が悪意ある人物に利用されると自分のコンピューターに外部からアクセスされかねないからだ。

 「厨房め」

 ちょっとした優越感に浸りながらインターネット上で技術関連に無知な人の事を罵る時に使う悪態をつく。これは何でも『中坊(中学生のこと)』との語呂合わせらしい。

 それから健二は今度は『確実な成功のために』という所をクリックしてみる。ページが表示されると、マウスを握っていた健二の手が一瞬凍り付いた。

 『確実な成功のため』のHow Toでも載っているのかと思っていたが、そこには簡単な申込用のフォームがあるだけだったのだ。

 『確実な成功のため』の。

 つまり、ここで登録すれば自殺が確実に成功するように手助けをします、という事らしい。健二は先ほど感じていた優越感も吹き飛び、背筋の凍る思いがした。

 申し込み内容をじっくりと見ていくと、自殺の方法や場所、時間帯についても色々好みでオーダーできるらしい。パソコンなどの通信販売で、ホームページ上の注文フォームから色々好みのパーツを選んで自分だけの一台を作る事をBTO(Build To Order)と言うが、これはさながら自殺のBTOだ。

 「やれやれ、どうかしてるね、こりゃ」

 そう呟きながらも、健二は『FAQ(良くある質問と答え)』へも行ってみることにする。今度は先ほど健二が想像していたような、How Toのようなページだった。ここではご丁寧な事にどの死に方が一番楽か、また実行の難易度などでランク付けされている。そこまでなら一時期話題になったマニュアル本と似たり寄ったりの内容なのだが、ここはさらに一歩進んで死に至るまでの経過が詳細なレポートになっていた。たとえば、飛び降り自殺についてはこう書いてある。

 『フェンスを乗り越え、一番端に立つと、ビル風が猛烈な勢いで吹き上げてきた。腕で風をよけながら目を細めて下を見下ろした時にはさすがに足がすくみ、

 『やっぱり止めようか』

とも思った。でも、ふと会社のことを思った時、窓際の席でやることもなくただ一日中ぼーっとしている自分の姿を、そしてあからさまに嫌がらせをする上司の顔を思い出した。そして、私にはもう居る場所はないのだという事を再確認した。すると、もう今度は下を見ても怖くはなかった。空を見ると、ちょうど太陽が上がってこようとしている。私は朝焼けの眩しい光の中へ、一歩踏み出した。ものすごい風の音と浮遊感、風圧が私を襲ったがそれも一瞬のことだった。』

 一体、誰がこんな事を書いているのだろう。

 死んだ人間が?

 まさか。

 ふとわき起こる考えを、健二は即座に否定する。どうやらゲーム業界などにいると考え方まで非現実的になってしまうらしい。

 自嘲気味にそう思いながら健二は詳細なレポートが延々と続いているページを半ば呆れつつスクロールさせて斜め読みしていく。

 それが終わりまで来ると、今度はついでとばかりに『チャットルーム』へと行った。

 『チャットルーム』というのは、簡単に言ってしまうと同時に同じチャットルームを表示している人同士、文字で会話をする場所のことだ。どうやって会話をするのかというと、チャットルームでは掲示板と同じようにそこを訪れた人が自由に書き込めるようになっていて、自分が文字を書き込むとそれが他の人のコンピューターの画面にも反映され、他の人がそれに応える…その繰り返しによって会話をするのだ。

 チャットルームの方はさすがにIPアドレスは表示されておらず、表示されているのは名前と、内容と、書き込まれた時間だけというとてもシンプルなものだった。現在使用中かどうかは多分、最後に書き込まれた文章の時間から判断しろ、という事なのだろう。

 「誰かいますか」

 それが最後に書き込まれている文章だ。時間は今日の午前一時五十七分三十六秒。名前は『みき』となっている。

 健二が見ている前で、ページが自動的にリロード(再読込)された。一定時間毎にリロードされることによって自動的に新しい書き込みが表示されるようになるのだ。

 「誰かいませんか?」

 再び、みきの書き込みがあった。

 「…」

 黙って健二は画面を見つめている。再び、ページがリロードされる。

 「どなたかいらっしゃいませんか」

 まだ、みきは待っているようだ。

 「こんばんは」

 健二は唐突にそう入力すると、名前の欄にいつも他のページで書き込みに使っているハンドルネーム、『バロン』と入力してリターンキーを押す。ページをリロードする数秒間の後に、健二の書き込みが追加されたページが表示された。ちなみにハンドルネームというのは、掲示板やチャットルームなどで書き込みをする際、各人が適当に付けるあだ名の事だ。

 「こんばんわ>バロンさん」

 次のリロードでみさからの返事が返ってくる。健二は『こんばんは』と書いたが、チャットなどでは『こんばんわ』と書く人も多い。『こんばんわ』の後の『>』というのは誰宛のメッセージかをハッキリさせるための矢印だ。

 「私は今日初めてここに来たんですが、みきさんは長いんですか?」

 「ええ。もう一ヶ月くらい前から。ついさっき、申し込みをすませたら急にその事を誰かに話したくなっちゃって」

 「申し込み? それって…」

 健二の脳裏を先ほどの『確実な成功のために』というページのイメージがよぎる。

 「そうです、その申し込みです。来週の今頃はきっと、もうこの世にいないでしょうね」

 何ら躊躇う様子もなく、まるで『来週の今頃はハワイにいます』とでもいうような様子だ。『それは良かったですね』と言う気にもならないし、『頑張ってください』と言うのも変だ。だが、こんな楽しんでいる様子の相手に『止めろ』と言うのも何だか気が引けてしまい、一体どう答えていいのか健二には分からなかった。

 暫く、お互いに何の書き込みもないまま自動的にページがリロードされていく。

 「バロンさん?」

 やがて、みきがそう書き込んできた。暫く何も書き込まなかったので、チャットルームを出ていってしまったのかもしれないと思ったのだろう。

 「あ、す、すいません、このページに慣れてないので一体どう答えていいものか…」

 慌てて健二はそう書き込んだ。

 「おめでとう、でいいんですよ」

 画面の向こうでみきがクスリと悪戯っぽく笑ったような気がした。

 「しかし…」

 「変な女だとお思いでしょうね。でも、後何日と決まってしまったら、何だか急に元気が出てきて。思い残す事がないように、あれをしよう、これをしようなんて考えてると、すっごくわくわくして来るんです」

 「…そんなもんなんですか。じゃあ、まだちょっと抵抗あるけど、おめでとうございます」

 そう入力してからリターンキーを押そうとして、健二はちょっと躊躇った。

 果たして、こんな事を書いてしまっていいのだろうか。

 思いとどまらせるべきでは?

 だが、結局リターンキーを押した。リロードが開始され、数秒後、画面に健二が書いた文字が表示される。それは、消せぬ事の出来ない罪の証であるような気がするのだった。

 「ありがとう。あ、明日から忙しくなりそうなのでこの辺で失礼しますね。バロンさんも、千香ちゃんと色々話してみたら、きっと考えが変わりますよ」

 健二の頭にはすぐにあの、名刺をくれた女子高生の姿が浮かぶ。

 「千香ちゃんって…あの…?」

 「ええ、年齢不詳の女子高生だそうですよ(笑)。私の時は名刺をくれました。それを見て、ここに来たんです」

 「ああ…私もです」

 「私が色々悩み事を掲示板に書いたら、彼女が相談にのってくれたんです。私も初めは自殺なんて、って思ってたんですけど、彼女と話しているうちに考えが変わって」

 その『相談』には自殺方法の相談も含まれていたのだろうか。ふとそう尋ねてみたい衝動に駆られたが、結局は止めておいた。

 「何かちょっと怖いですね」

 「千香ちゃんが? 大丈夫ですよ。もっとも、今のバロンさんの書き込み見たら機嫌悪くするかも知れませんけど(笑)」

 「え? それはマズイなぁ」

 「冗談です(笑)。あ、ごめんなさい、そろそろ失礼させていただきますね」

 「あ、すいませんでした、引き留めてしまって」

 「いえ、平気です。こちらこそお話につきあっていただいて済みませんでした。お休みなさい>バロンさん」

 「お休みなさい>みきさん」

 そう書き込んでリターンキーを押しながら、ふと、こんな明るい人が何故自殺などしようとするのだろうかと思った。会話の端々から感じられる彼女の性格は、朗らかで、人懐こそうな感じだ。生きていることを楽しんでいるようにも思える。

 では本当に、彼女の言うように自殺することが決まったから明るくなれたのだろうか?

 ぼんやりとそんなことを考えながら、暫く画面を見つめる。何度かリロードされるが、もう書き込みは増えなかった。彼女は出ていってしまったのだろう。

 果たして、あれで良かったのだろうか。思い止まらせるべきだったのでは?

 再び、そんな思いが脳裏をよぎる。だが、そうだとしてももはや手遅れだった。

 (ま、俺が気にしてもしょうがないか)

 そう自分に言い聞かせると、軽く溜め息をつきチャットルームを出る。それから、もう一度メールチェックをした。

 メールは何も来ていない。

 まあそんなもんさ、と自分に言い聞かせると、回線を切った。時計を見るともう三時近い。それから、思い出したように『自殺互助会』のURLを『お気に入り』に登録した。こうしておくと、次からいちいち面倒くさいURLを入力しなくても一発で行けるようになるのだ。

 だが、何のために?

 その疑問の答えは、健二にも分からなかった。


 その後、健二はそのままデバックルームで仮眠を取った。そして、朝になってから食料を買いに行くついでに常には買わないスポーツ新聞も買った。本当は普通の新聞が欲しかったのだが、コンビニには置いてなかったのだ。買ってくると早速、隅々まで読んでいく。もしかしたらどこかに女性の自殺の記事が載っていないかと気になってしまったのだ。

 だが、そんな記事はどこにも載っていないようだ。大体、よく考えてみれば夜中にチャットで会話した人間がその後自殺したとしても、そんな記事が朝刊に間に合うはずもないではないか。

 馬鹿馬鹿しくなって、健二は新聞を床に放り投げた。

 さあ、仕事だ。

 「はよっス」

 疲れた目でピコピコと仕事をしていると、八時三十分ちょっと前ぐらいに良隆が入ってきた。良隆は今日もにこやかな顔をしているが、目の下にはくっきりとクマが出来ている。

 「…夕べはお盛んだったようで」

 隣の席に座る良隆をちらっと見てからつとめて興味なさそうに再び画面に視線を戻した。良隆は最近彼女が出来たばかりなのだ。

 「へへ…」

 照れくさそうに良隆が笑う。ほとんど会社に泊まりっぱなしの生活なのに一体どうやって彼女などを作ったのだろうか。健二もあやかりたいくらいだ。

 「お前がこの頃特に元気なのは絵里子ちゃんのおかげかもな」

 「いやぁ…仕事がきつくても、あいつの笑顔見ると何だか疲れが吹っ飛んじゃうんだよね。でさ…」

 頬を赤く染めながらうれしそうに話していた良隆が、背中の辺りに立ちこめている殺気に気がついて話を止め、恐る恐る後ろを振り向く。

 「…ど、どもー」

 いつの間にかデバックルームのあちこちで転がっていたたくさんの社員たちが良隆の後ろに集まっていた。良隆は引きつった笑顔で答えるが、時既に遅し。

 「良隆ー!! のろけやがってー!!」

 「のわーっ!!」

 ヘッドロックをかけられたり、こめかみを拳でグリグリとやられ悲鳴を上げる良隆。ようやく嵐が過ぎ去った後にはボロボロになった良隆とみんなが良隆を殴るのに使った雑誌や丸めた新聞紙などが散らかっていた。

 「自業自得だな」

 ニヤニヤ意地悪く笑いながらそう言うと、健二は再び仕事に戻る。

 そしてまたぼんやりとした時間が過ぎていき、気がつくと夜になっていた。

 時計を見ると、午前一時を回っている。

 一息入れようと、健二は堅くなった肩を拳でたたきながら痛む目に目薬を差した。隣では良隆がコントローラーを握ったまま画面に突っ伏すようにして眠っている。

 その寝顔が何だか幸せそうに見えたので、健二はおもいきりアッカンべーをした。

 (…メールチェックでもしてみるか)

 ふとそう思い、テレビの隣に置いてあるノートパソコンを取り出す。

 メールをチェックしたが、しかしと言うべきか、やはりと言うべきなのか、メールは来ていなかった。

 また一つ溜め息をつき、回線を切ろうとした時、ふと夕べのみきの事が気にかかった。

 まだ、生きているのだろうか。

 一瞬の逡巡の後、健二は『お気に入り』に登録してある『自殺互助会』をクリックする。ほとんど待ち時間もなく、例のページが表示された。

 今日はまっすぐにチャットルームに入る。書き込みは昨日みきと健二が別れた時のままになっている。念のためリロードしてみたが、一瞬の後に表示された内容は何ら変わっていなかった。

 ここのチャットはあまり使われていないらしい。まぁ、これから自殺をしようという人間がにこやかにチャットで談笑するというのもそれはそれでシュールではあるが…。

 時計を見ると、午前一時二十五分だ。健二は画面いっぱいに表示されていたブラウザのウインドウのサイズを小さくして、新しく別のウインドウを開く。そして、新しいウインドウを使ってあちこち巡回することにした。

 一時三十分を過ぎる。チャットルームは相変わらず動きを見せない。

 一時四十五分を過ぎた。相変わらず。巡回先はすべて回り終えてしまった。仕方がないのでたまにしか行かないアングラ系の掲示板ものぞいてみる。アングラというのはアンダーグラウンドの略で、社会的に見てあまり好ましくない内容を取り扱っているサイトをひとまとめにしてこう呼んでいる。そういう意味では、この『自殺互助会』もアングラ系だろう。

 匿名報道されている犯罪者の顔写真や住所などを公開しているホームページもあり、暇つぶしには事欠かない。

 一時五十分を過ぎた。変化なし。

 いい加減ネットの巡回にも飽きた健二は他のウインドウを閉じてじっとチャットルームの画面を見つめる。

 二時になった。

 「…ふう…」

 溜め息をついて回線を切断しようとした時、

 「どなたかいらっしゃいますか」

 という文字があらわれた。発言者の欄は『みき』になっている。

 「こんばんは」

 即座に、健二は返した。

 「あ、こんばんわ>バロンさん。すぐに返事が返ってきたんでびっくりしちゃいました。ずっといらしたんですか?」

 「いや、たまたまです」

 大嘘だ。

 こんな時、ネットでのチャットは便利だと思う。画面に現れる文字には、会話では隠しきれない、声の調子などの情報が全く欠落している。そのかわり、受け取りようによってはきつくなりがちな文章には『(笑)』などと書いて表現を緩和する必要もあるのだが。

 「そうですか。でもうれしいです。私、その日までは思い残すことがないようにいろんな人と話したいって思ってましたから」

 「何だかとても楽しそうですね」

 みきはとてもこれから死のうとしている人間とは思えないほど、明るかった。テンションも昨日より上がっているような気がする。

 「ええ。ホントに日にちが決まったらいいことばっかり♪ 会社でも急に色々な人に話しかけられるようになったし、チャットしに来ればバロンさんと偶然居合わせるし。前なんて、一晩いたってチャットする相手がいなかったりしたんですよ」

 ここでの事はともかく、会社での事は彼女自身が積極的に行動するようになったからではないかと健二は思う。

 「もしかして、会社では色々な人に『話しかけられた』んじゃなくて、『話しかけた』んじゃないですか?」

 「うーん、あ、そうです、もう後何日しかお付き合いしないんだからって思って色々話しかけたりしてました。すごいですね、何でわかっちゃうんですか?」

 「いや、今のみきさんはすごく積極的みたいだから…」

 「そう言えばそうですね、昔はチャットでさえこんなにお話しすること出来ませんでしたから。彼にも言われました、お前の『何でもいい』にはウンザリだって…」

 その書き込みを最後に、暫くお互いが無言のままページだけがリロードされていく。もしかしたら、コンピューターの向こう側の彼女は泣いているのかも知れなかった。

 「あの、イヤな事思い出させてしまって…ゴメンナサイ」

 気まずい沈黙に耐えられなくなって、ようやく健二はそう入力する。もう向こうが『落ち(回線を切って)』てしまって何の返答もない方が気が楽かも知れない、という気持ちと、もっと話をしていたい、彼女についてもっと知りたいという気持ちが心の中で綱引きをしていた。

 「いえ、こちらこそすいません。正直、もう愛想尽かして落ちられたかと思ってました」

 「そんな…! 正直、もっと話を聞いてみたいです」

 不思議と指がなめらかに動いて、気が付いたときには既にリターンキーを押してしまっていた。リロードされた画面に表示された文字を見てしまったと思うが、もう後の祭りだ。

 「え?」

 次のリロードでみきの応えが表示される。戸惑う表情が目に浮かぶようだ。

 「…あ、すいません、調子に乗りすぎました」

 慌てて謝りの文章を入力する。

 「…聞いて、くれますか?」

 多分コンピューターの向こう側で躊躇っていたのだろう、三回目のリロードの後、みきの返事が返ってきた。

 正直、健二にはこの返事は予想外だった。

 「いいん…ですか?」

 「ぜひ聞いて欲しいんです。何だか、それだけがいつまでも胸につっかえてしまって…。ほら、話すと楽になるって言うじゃないですか。どうせなら、すっきりして死にたいですから…」

 『死にたい』という言葉が、ざらりとした感触を伴って健二の心に触れる。

 このままで良いのだろうか?

 そう、自問する。

 だが、それが彼女の選んだ道なのだ。

 そう自分に言い聞かせると、健二はキーボードを叩いた。

 「…じゃ、お願いします」

 「はい。こちらこそ、お願いします」

 そう答えると、一呼吸おいたような間の後、みきが話し始める。チャットなので『話す』では多少正確さに欠けるのだが、コンピューターを介して、二人は今、それぞれの相手の事を他の誰よりも身近に感じていた。

 「そもそも、私がここに来るようになったきっかけは、彼に振られた事でした。彼とは四年来の付き合いだったんですが、その彼から突然、別れ話を持ちかけられたんです」

 溜め息でもつくかのように一拍おいて、またみきは口を開く、いや、キーを叩く。

 「ホントは分かってたんです。彼の様子が最近おかしいって。夜、電話もくれなくなったし、私と会っても何だかそわそわして、落ち着かないようでした。でも、ずっと『心配ない』って自分に言い聞かせるだけで…確かめよう、とかそういう事は何もしませんでした。それがいけなかったんでしょうね。ずっと待ってばかりで。こっちから電話をすることもほとんどなかったし、デートの予定を立てるのも彼でした」

 心の中にわだかまっていたものが、一気に吹き出したようだった。そして、ひとたび押さえていたものが外れてしまうと、後から後から止めどなくあふれてくるのだ。

 「ある夜呼び出されて、一緒にレストランで食事をしている時、言われました。『君はいつも、『何でもいい』んだね』って。何のことかと思ってキョトンとしていたら、『さっきも言ってたよ。どの店に入ろうかって言ったら、『何でもいい』って。もう君のその台詞にはウンザリなんだ。…ゴメン、別れよう』って言われました。でも、その時ですら、私は彼を引き留めることさえもしなかったんです。…バカですよね」

 多分、コンピューターの向こうで彼女は自嘲気味に笑っているのだろう。暫く、無言のままリロードが続いた。

 「彼と別れてから、何もかもイヤになって、ぼんやりと橋の上で下の黒い水面を見つめていました。そしたら、急に、『死んだら楽になる、こっちへ来い』っていう声が聞こえたような気がして…その時思ったんです。『死んだら、彼は泣いてくれるかな』って。それから、誘われるままに欄干に手をかけてました。そしたら、千香ちゃんに止められたんです」

 千香は『自殺互助会』などというホームページに関わっているわりには自殺を思いとどまらせてばかりいるらしい。

 「私が彼女に会った時もそんな感じでしたよ。もっとも、私は仕事がイヤになってはいたんですが、特にこれという理由もなくただ、ホームに入ってくる電車を見ていたら飛び込みたくなったんですが。その時、やっぱり彼女に止められました」

 みきが自分の話をしはじめてから初めて、健二はキーを叩いた。

 「きっと、魅入られたんだと思います。千香ちゃんが言ってました」

 「魅入られた?」

 みきの答えに、健二はオウムがえしに尋ねる。

 「川とか、飛び込みの多い電車の駅とか、そういう所には自殺したけどその場所にとどまったままになってしまっている、自縛霊っていうのがいるんだそうです。そういうのが、たまたま波長の合ってしまった人を引きずり込むんだそうです」

 「霊、ですか。彼女、私の時には何も言ってなかったけどなぁ」

 注意したつもりではあったが、少し疑わしげな調子になってしまっていた。元々、健二は霊とかそういうものをハナから信じていないのだ。

 「千香ちゃん、霊とかそういうのを信じない人には言わないって言ってました」

 そう返事を返してから、それだけでは失礼なように感じられたのか、みきは慌てて付け加えた。

 「…あ、ごめんなさい、別に非難するつもりじゃないんですけど」

 「いや、そんな風には取ってませんよ。それで、あなたには話したんですか?」

 「ええ。私、小さい頃はそういうのを感じられたんです。大人になるにつれて鈍くなってしまったんですけど。だから、そういう話には特に抵抗はありませんでした」

 「そうなんですか。だったら彼女、良く人を観察できてますよ。私はそういうのを全然信じていませんでしたから」

 「過去形なんですか?」

 健二の書き込みの微妙な点をみきが指摘する。

 「今なら何となく納得できます。私には特別死ぬような理由なんて無かったはずですからね」

 電車に飛び込もうとした時、頭の中で囁いた『何か』の事を思いながら健二は答えた。

 あれが、そうだったのだろうか。

 もしかしたら、みきがそう言うなら信じてもいい、と心の何処かで思ったのかも知れない。

 「ところで、バロンさんって、どんなお仕事をしてらっしゃるんですか? …あ、ごめんなさい、差し支えなければ、でいいですけど」

 「別にいいですよ。小さなゲーム会社に勤めてます」

 そう答えながら、健二は自分でも知らず知らずのうちに自嘲気味に笑っていた。『ゲーム会社』。そこに勤める事になった時、どれ程の希望を頭に描いてその文字を見つめていたのだろう。そして、そこに入って、どれ程の希望が失われていったのだろう。

 「羨ましいな。きっと、たくさんの人達に夢や希望を与えてらっしゃるんですね」

 「いや、そうでもないです。通るのは先輩の企画ばかりだし、それも、何処かの作品の二番、三番煎じのようなヤツばっかりで」

 日頃思っていることを初めて文字にした。だがよく考えてみれば同じ部屋でそのやり玉に挙げられた先輩達が眠ったり、仕事をしたりしているのだ。

 もし今見られたら?

 (どうでもいいや)

 半ばやけを起こしているのか、健二は開き直った気分になっていた。

 「でも、すごいですよ。きっと、いつかバロンさんの夢も形になるんでしょうね」

 それは、みきにとっては何気ない一言だったのかも知れない。

 だが、その一言は長い間健二が忘れていた事を、急に思い起こさせていた。

 そうだった。

 いつの間にかやけを起こして、通るような、説得力のある企画をたてる努力をしていなかったんだ。

 唐突に、健二はそれに気が付いた。

 「バロンさん?」

 暫くぼんやりとしていたので、遠慮がちなみきの問いかけが画面に現れる。

 「あ、すいません、ちょっとぼんやりとしてしまって」

 「もう遅いですものね。そろそろ落ちましょうか」

 時計を見ると、もう三時三十分になろうとしている。

 「そうですね。あ、ところで…こんな質問は失礼かも知れませんけど」

 「何でしょう?」

 「その…いつ、なんですか? …あ、答えたくなかったらいいんです」

 遠慮がちに健二は尋ねた。

 「お互い様ですね」

 聞こえるはずはないのだが、健二はみきがクスリと笑ったような気がした。

 「え?」

 「さっき私がバロンさんのお仕事の話を尋ねて、その時似たような訊き方をしたでしょう、差し支えがなければ、って」

 「ああ…そうでしたね」

 健二はまだ画面に表示されている数行前の書き込みを見る。確かに、同じような訊き方だ。

 「私が死ぬのは明後日です。街で一番高いビルから、自分が何年か暮らしてきた街の夜景を見て…これも、私が希望したんです。それから、そのまま…」

 ハッキリとは書かなかったが、飛び降りる、という事らしい。

 「そうですか。…寂しくなりますね」

 言いたいことはたくさんあるのに、文字になったのはたったそれだけだった。

 「…あの、お願いがあるんですけど」

 今度はみきの方が遠慮がちに尋ねてくる。

 「何でしょう」

 「明日も、ここに来てお話ししていただけますか?」

 「もちろん、喜んで」

 健二は快く引き受ける。健二も同じ事を思っていたのだが、言い出せなかったのだ。

 「じゃ、また明日。お休みなさい」

 「お休みなさい」

 回線を切ってからも、健二は暫く夢見心地でいた。頭の中ではみきの『いつかバロンさんの夢も形になるんでしょうね』という台詞が、何度もリピートされている。

 「…ん…絵里子ちゃん…」

 不意に、隣でコントローラーを握っていた良隆が幸せそうに呟く。寝言だった。

 (今なら…こいつの気持ち、分かるかも知れないなぁ)

 幸せそうな良隆の寝顔を見ながら、健二はそう思う。それから、明日チャットルームで出会ったら、一番最初にみきに何と言おうか、決めた。

 そしてそのまま、いつの間にか机に突っ伏して眠ってしまう。

 いつもはなにがしかの期待を込めて回線を切断する前にもう一度メールチェックするというのに、今日はそのチェックを忘れている事に健二はついに気が付かなかった。


 翌日は時間が飛ぶように過ぎていった。あれほど嫌気のさしていたはずのデバック作業も、大して気にはならない。鼻歌さえ歌いながら、健二は作業を進めていく。するとどうだろう、今までは遅々として進まなかった作業が面白いくらい順調に進んでいくのだ。

 「ご機嫌じゃん」

 昼過ぎになって、鼻歌を歌いながらコンビニで買ってきたパンとカップ麺を交互に食べながら作業をしていた健二を見て、良隆が言う。

 「…お前、ずるいよな」

 「へ?」

 健二の返答に良隆はキョトンとした顔をした。

 「…何でも。ちょっとお前さんを見習ってみたのさ」

 そう言うと、再びテレビの方に向き直って作業を続ける健二。良隆は暫くそんな健二をキョトンとした顔のまま見つめていたが、やがて肩をすくめて自分の作業に戻った。

 入社以来久しぶりに楽しんで仕事をしているような気がする。午後十時ぐらいまでには、珍しく予定の仕事が大体片づいてしまっていた。

 「帰らないのか?」

 同じく、予定の仕事を終わらせた良隆がまだ机に座ったままの健二に尋ねてくる。

 「ああ、もうちょっとやってからにするよ」

 「…さては、女だな」

 しばらくの間物珍しそうに健二の顔を眺めていた良隆が、不意にそう言った。

 「な、何でそうなるんだよ!? 大体、そんな暇なんてないだろ!」

 図星、ではある。だが、まだ健二は良隆のように堂々とのろけられるほど慣れてはいないのだ。それに、まだ健二の一方的な好意でしかない。

 「ネットで知り合ったとかね」

 良隆は意味ありげににやりと笑った。

 「バカ言え!」

 またまた図星だ。誤魔化しながらも、良隆のヤツひょっとして隣で寝たフリをして俺の事を見ていたのでは、と疑う。だが、それは考え過ぎだったようだ。

 「ハハ、冗談だよ、そうムキになるなって。じゃ、あんまり根つめすぎてぶっ倒れたりするなよ」

 笑いながらそう言うと、良隆はデバックルームを出ていく。その後ろ姿を見送った後、健二は思わずほっと溜め息をついていた。

 その後、会社の給湯室で身だしなみを整える自分に健二は苦笑した。姿が見えるわけはないのに。

 そして、ファミレスで久々にのんびりとした食事をとり、会社に戻ったのは午後十一時を回ってからだった。それから、少々残っていた仕事を片づけ、それもすべて終えてしまうと今度はノートパソコンを引っぱり出してずいぶん昔に書きかけのまま放ってしまっていた企画書を呼び出す。

 あれこれとその続きを考えているうち、気がついてみると午前一時二十分を回っていた。少し早いが企画書のファイルを保存してワープロソフトを終了させると、今度はインターネットに繋ぐ。

 だが、エラーが出て接続が出来なかった。何回か試してみた後、よく調べてみると、どうやらノートパソコンが繋がれている会社のコンピューターがメンテナンスのため使えなくなってしまっているらしい。

 「嘘だろ…」

 慌てて、健二は社内のネットワークなどを管理しているシステム情報課へと出向いた。そこも課員のほとんどがデバック要員として駆り出されていたが、ようやく、一人、机の下に潜り込んで寝ていた男を見つけ、たたき起こす。

 「…なんや…ショートカットのネーチャンに囲まれてええとこやったのに…」

 最初、その男は無理矢理叩き起こされたせいかふてくされていたが、健二が襟首を掴んでがくがくとゆすりながらメンテナンスの事を尋ねると、ようやく眠そうな声で言った。

 「そない怖い顔されても…。一応、メンテの事はメールで全員に知らせときましたで」

 「聞いてないよ!! あと一体どれぐらいかかるんだ!?」

 その男はずり落ちそうな黒眼鏡をなおし、サーバマシンの時々ついたり消えたりしているハードディスクのアクセスランプをちらっと見てから答える。

 「さあ…あと三、四時間かもうちいとかかるんやないかと…」

 「冗談じゃない!!」

 叩き付けるようにそう言うと、健二はシステム情報課を飛び出した。健二はプロバイダと契約をしているわけではなかったので、ノートパソコンは持っていたが会社以外ではインターネットに接続できなかったのだ。

 (一体どうしたら!?)

 健二は考える。会社の近くにはインターネットの出来る二十四時間営業の漫画喫茶も、インターネットカフェもない。それに、会社仲間のほとんどが健二と同様に会社経由でインターネットに繋いでいたため、知り合いのIDを使わせてもらう、というのも望み薄だ。

 ちらりと時計を見ると、もう一時五十分になろうとしている。

 「オンラインサインアップ!!」

 不意にある考えがひらめき、健二は思わず叫んでいた。

 オンラインサインアップというのは各プロバイダが用意した専用ソフトを使ってインターネットに繋ぎ、画面上の申込書でプロバイダとの契約をしてしまう、というものだ。これだと契約終了から一時間ぐらいでインターネットに接続できるようになる。オンラインサインアップ用のソフトは大抵、雑誌などに付録のCD-ROMに入っているはずだ。

 健二は企画課に飛び込むと、隅に積まれているパソコン関係の雑誌を片っ端から漁っていく。

 程なくして、目当てのものを見つけた。以前はプロバイダと契約する時には色々考えてから選ぼうと思っていたのだが、今はそんな事に頓着はしていられない。CD-ROMの入った厚紙のケースを雑誌からひっぺがし、CD-ROMを取り出すと、手近な電話機からコードを外し、ノートパソコンのモデムに繋ぐ。

 システムが起動すると、すぐさまCD-ROMを叩き込み、オンラインサインアップ用のソフトをインストールした。

 そして、ソフトの起動。会員規約などが表示され、色々な説明がされていくが、そのほとんどをすっとばし、メールアカウント(電子メールをやるのに必要な個別識別名のようなもの)などをとにかく適当に決めていく。ようやくすべての入力が終わり、申し込みが終わった。

 後は暫く待つだけだ。

 パソコンを前に、じりじりしながら健二は待った。

 二時三十分。まだ繋がらない。

 二時四十分。ダメだ。

 二時五十分。まだダメだ。健二はイライラしてマウスを机に叩き付ける。

 カッコーンという軽い音を立てて、マウスが机の上を転がっていく。哀れなマウスはコードが抜けてしまい、そのまま机から床に転がり落ちて辺りに部品をまき散らした。

 灰色の床の上に散らばった白いマウスの部品は、アスファルトの上に血をまき散らせて横たわるみきのイメージに重なってしまう。

 (まだ大丈夫。それに、決行は明日の筈だ)

 健二は半ば祈るように自分自身に言い聞かせ、ほんの少しでもアクセスが早くなるようにプロキシーサーバの使用を解除する。そして、あとはひたすら、時の過ぎるのを待つ。

 結局、健二がインターネットに繋ぎ、チャットルームに行く事が出来たのは三時を過ぎてからだった。

 そこには、既にみきはいないようだった。

 二時に、

 『バロンさんいらっしゃいますか』

 という書き込みがあり、その後二時三十分にもう一度、そして三時少し前に、

 『ごめんなさい、天気の都合で予定が早まりました。今日、これから行きます。バロンさんと会えて、本当にうれしかったです。さようなら』

 という書き込みがされていた。

 「…何で…」

 「何でなんだよぉぉ!!」

 健二は拳で机を何度も叩く。悲しくて、言葉が出てこないほど悲しいのに、不思議と涙は出てこなかった。

 「泣いている場合? バロンさん?」

 その時、不意にそんな声が聞こえたような気がして、健二は顔を上げる。しかし、もちろん側には誰もいない。

 だが、ふと液晶モニターに目をやると、そこには確かに

 『泣いている場合? バロンさん?』

 という文字が、みきの最後の書き込みの後に追加されている。発言者は『チカ』となっていた。

 「千香ちゃんか!? 一体、どういうことだ?」

 「『チカ』よ、ハンドルネームは。ところでバロンさん、ゲームをしない?」

 「ゲーム?」

 健二は聞き返す。

 「そ。みきさんが飛び降りるまでに彼女を見つけだしたらあなたの勝ち。でも間に合わなかったら、私の勝ち」

 「どこにいるのか知ってるのか!? だったらどうして止めないんだ!?」

 健二は無意識のうちに液晶モニターに詰め寄っていた。

 「私はそれが仕事。その言葉、そっくりお返しするわ、バロンさん? 昨日なら時間はいくらでもあったのに、どうして昨日のうちに止めなかったの?」

 「それは…まだ明日があると思ったから…」

 言葉に詰まる健二。しかし、千香の『それが仕事』というのはどういうことだろう。

 だが今はそれどころではなかった。

 「人間の悪い癖ね、『明日にすればいいや』ってのは。どうして今日を精一杯生きようとしないのかしら」

 「それより教えてくれ、一体彼女はどこにいるんだ!?」

 キーを打つのももどかしく、健二は叩き付けるようにリターンキーを押す。

 「あら、それを探し出すのがゲームなのよ。それじゃ」

 「ま、待ってくれ! 何かヒントを!!」

 「…ヒント? そうね、厨房、かしら。材料は全て提供しているわよ、ベテラン料理人さん? じゃ、成功を祈ってるわ」

 「おい、待ってくれ、もう少しヒントを!!」

 だが、それから何回かリロードしてみたが、もう返事はなかった。チカは出ていってしまったらしい。

 「厨房って…」

 頭をくしゃくしゃ掻きながら、どうしていいか分からずに健二はチャットルームを出てホームページ内を移動しまくる。

 『確実な成功のために』、『FAQ』、『掲示板』、『チャットルーム』。

 それがこのホームページの中身だ。自殺のオンラインBTOになっている『確実な成功のために』はフォーム(申込用紙みたいなもの)でしかないし、『FAQ』にはどうしたら確実に成功出来るかが書いてあるが、その中の『飛び降り』の項を見ても、せいぜい、周りに高い建物のない高いビルの方が良く、それも昼間よりは夜の方がいい、ということが分かるくらいだ。高いビルというのは彼女自身が『街で一番高いビル』と言っていたし、時間にしても『これから行きます』と書いてあったのだ。夜か、せいぜい明け方だろう。さっきまでいた『チャットルーム』は論外、『掲示板』にも彼女の書き込みが古い書き込みの中に残っていたが、特に場所や街については言及していない。

 『死ぬならやっぱり夜景を見てからがいいな…あと、ウエディングドレス着て…ってそれはさすがに冗談だけど(笑)』

 それが掲示板での最後のみきの書き込みだった。それに対してチカが

 『『確実な成功のために』でオーダーしてくれれば全部お任せよ。たとえ、ウエディングドレスでもね(笑)』

 と答えている。

 書き込みの日付からすると、健二がチャットルームでみきに出会うちょっと前ぐらいのようだ。

 (何で止めないんだよ…)

 健二はそのチカの書き込みを恨みがましく見つめる。その時、ふとある事に気づいた。チカのIPアドレスがproxy01.hel.go.helとなっているのだ。健二は首を傾げた。IPアドレスには一定の決まりがあり、たとえば○○○.co.jpなどの○○○は会社名などを表し、その後のcoは一般的には企業を表している。そして最後のjpは国名を表すことになるのだが、チカのIPの場合、最初のproxy01はおそらくプロキシサーバの事だとして、その次のhelは企業名あるいは団体名、次のgoは政府機関の事だ。そしてもっと分からないのは最後のhel。これは一体どこの国だろう。

 (待てよ…IPアドレス?)

 はっとある事に気が付いた健二は、チカのIP対する疑問を何処かに放り出し、目を凝らしてみきの書き込みを見つめる。

 あった!!

 チカの言っていたヒントが。

 みきはやはり生IPで書き込んでいたのだ。それによると、彼女はどうやら東京近郊の街のアクセスポイントを使用しているらしい。幸いなことに、そこなら会社からでも車を使えば三十分ぐらいで行けるだろう。

 健二はノートパソコンを抱えると会社を飛び出し、近くを通りかかった空車のタクシーに飛び乗る。それから運転手に街の名前を告げ、一番高いビルは何処かと尋ねた。

 「あそこだったら、多分駅ビルでしょうね」

 怪訝そうに首を傾げながらも、まだ若そうな運転手はそう答える。それから、付け加えた。

 「お客さん、まさか何かしようってんじゃないでしょうね? あそこは、その手の名所だから…」

 何か、とは飛び降りのことだろう。厄介事はゴメンだという態度がありありとにじみ出ている。

 「その何か、を止めに行くんだよ!」

 健二はイライラしながらそう答える。それから、健二の剣幕にすっかり気圧されてしまったような運転手にとにかく急ぐようにと言うと、後はただ間に合う事だけを天に祈った。


 健二がその街の駅に着いたのはそれから三十分ほどしてからだった。金を払うのももどかしく万札をたたきつけるように渡し、

 「お釣りは要らない!!」

 と言ってタクシーを転がるように降り、そびえ立つ駅ビルを見上げる。確かに、他のビルより高そうだ。

 (頼むよ…)

 祈るような気持ちで、健二は非常階段へと駆け寄る。調べてみると、侵入防止用の柵が少し開いていた。

 いけそうだ。

 健二は階段を一気に駆け上がる。途中でノートパソコンが邪魔になり、踊り場の所で乱暴に放り出した。ガシャンと派手な音を立ててパソコンが落ち、液晶画面にヒビが入る。

 だが、今はそれどころではない。

 心臓が激しく脈打ち、息が切れていた。長いこと運動をやっていなかったせいですっかりなまってしまっている肺や筋肉が、悲鳴を上げる。だがそれでも止まることなく健二は階段を上がり続けた。

 一体、何階まであるのだろうか。どんどん足が言うことを聞かなくなってきている。一歩毎に足が重くなり、動きが鈍くなってきていた。

 (早く…)

 もうこれ以上は足が動きそうもない、という寸前に、終点が見えた。

 屋上だ。

 ほとんど倒れ込むようにして、健二は屋上に躍り出る。真正面のフェンスの向こうに、真っ白いウエディングドレス姿の小柄な、痩せた女性が一人、濃い紫と藍色の入り交じった空をバックに佇んでいた。

 風が、長いスカートの裾や、頭に被った白いヴェール、それに肩ぐらいまでにそろえられた彼女の黒髪を激しくなびかせている。風をはらんだスカートが、ただでさえ小柄な彼女をよりいっそう小さく見せていた。

 「…メだ!! みき…ん、行っ…ちゃダメだ!!」

 途切れながらもありったけの声で健二は叫ぶ。足がどうしても言う事を聞いてくれず、立ち上がることが出来ない。フェンスの向こうで佇んでいた女性が、ぎょっとして振り返った。

 「…誰…? まさか…バロン、さん?」

 そう言いながらも、彼女はその場から動こうとはしない。健二はようやく半身を起こしながら大きく頷いて見せた。

 「どうして? どうして来てしまったの?」

 ほとんど泣き出しそうな声で、みきが叫ぶ。

 「どうしてそっと死なせてくれないの!? もう誰にも必要とされてないのに!!」

 「違う!!」

 健二も思わず大声で叫んでいた。

 「君は必要だ!!」

 「あなたに何が分かるって言うの? 嘘は止めて!! 同情なんか聞きたくない!」

 イヤイヤをするように両耳を手で覆い、みきは激しく首を振る。

 「分かる!! 俺にとって君は必要なんだ! …戻って、ずっと側にいてくれ!!」

 ほとばしるように、想いが言葉になっていた。

 「…そんな…そんなの…ルール違反じゃない…」

 呆然としてそう呟いたみきの目からは、大粒の涙がこぼれ落ちていく。健二はようやく立ち上がると、よろけながらもフェンスの所までたどり着き、フェンスの向こう側の彼女の手を握る。それから、二人はフェンス越しに身体を寄せ合った。

 長いこと風の中で佇んでいたためか、夏だというのに彼女の身体はひんやりとして冷たい。だが、健二の火照った身体には、それがかえって心地よかった。

 「…暖かい…」

 やがて、みきがぽつりと呟き、続けて言った。

 「あの、すいません、手を離していただけますか?」

 ぎょっとして健二が顔を上げると、はにかんだように微笑みながらみきが訂正する。

 「違いますよ、そっちに戻るんです」

 「あ、す、すいません」

 慌てて健二は手を離した。そして、フェンスに登り、みきが登るのを手伝おうと手をさしのべる。みきがそれに応えて立ち上がった刹那。

 ビルの縁から血まみれの手がにゅっと伸び、みきの足をガッと掴んでそのまま何もない虚空へと引っ張った。

 「きゃっ!?」

 足を引かれたみきの腕を、咄嗟に健二が掴んでいた。

 「な…」

 ものすごい力で虚空へと引っ張られていくみきを何とか引き戻そうとする健二が見たものは、何人もの血まみれの人々だった。ある者は顔の半分が潰れている。またある者は腕があらぬ方向にねじ曲がり、肩から白い骨が突き出している。年齢や性別なども千差万別で、若いOL風の女性もいれば五十過ぎぐらいの男もいる。共通しているのは、それらがギラギラと欲望に目を輝かせ、ものすごい力でみきの足を引っ張っていることだった。

 「何をしている…早く来い…」

 「そうよ、ここまで来たのに…」

 「死にたかったんだろう? さぁこっちに来い…」

 「さっさとその手を放せ…」

 それらは口々に呟きながらみきをぐいぐいと引っ張っていく。

 「ば…バロンさん…」

 みきが途切れ途切れに悲鳴を上げた。

 「頑張れ! 負けるな!!」

 そう励ましながら健二は全身の力を込めてみきの腕を引っ張るが、劣勢なのは明らかだ。

 「早くしろ…」

 「放せ…」

 「その手を離すのよ!」

 「うるさい! 負けるかよ!!」

 まとわりついてくる声を振り払うように健二は叫んだ。だが、そうしている間にも手が徐々に滑ってしまい、とうとう握手をしているように手と手を握っている状態になってしまっていた。

 「ならばお前も来い!」

 その声と共に、フェンスの編み目に差し込んでいた足が滑る。

 「うわっ!!」

 一瞬の浮遊感。

 だが辛うじて健二の足はフェンスの一番上の部分に引っかかり、留まっていた。しかし、その体勢では二人とも滑り落ちてしまうのは時間の問題だろう。下から吹き上げてくる強い風が、みきのヴェールを吹き飛ばした。

 「手を離して! バロンさん!! このままじゃバロンさんまで…」

 「い…いやだ…」

 必死に身体をフェンスの内側に引き寄せようとするが、逆に外へと引っ張られて行くばかりだ。

 「さぁ二人ともこっちに来い…」

 「仲間でしょう? 死にたかったんでしょう?」

 「楽になるぞ…」

 誘うように、声がまとわりついてくる。

 「離して!! これは、わたしが望んだことだから…わたしはバカだったの…死を望むなんて…でも、最期にバロンさんに会えて良かった…」

 そう囁くみきの声が、いやにハッキリと健二の耳に届いた。

 「そうだ…諦めろ…」

 「楽になるぞ…」

 その囁き声には甘美な感じさえする。だが、ここで負けるわけにはいかなかった。

 「生きたくないのか!? みきさん!!」

 ふりほどこうとするみきの手を何が何でも離すまいとしながら健二は叫ぶ。

 「何故生きようとする?」

 「そうよ…生きていてもいい事なんて無いじゃない…」

 「こっちへ来て仲間になれよ…」

 「うるさい! どんな現実でも自分が変われば変えていくことが出来るんだ!! 生きていれば変えていけるんだ!!! たとえ死んだって絶望を取り憑かせて仲間を増やそうとするお前達の仲間になんか絶対なるものか!」

 健二はそう絶叫していた。

 「…わたし…生きたい…」

 次の瞬間、そう呟くみきの手に、力がこもった。それと共に健二の身体に力がみなぎる。みきの足を掴んでいた者達がはじかれた様に虚空に飛ばされ、恨みがましい目で見つめながら溶けるように消えていく。

 「生きるんだ!!!」

 健二は、渾身の力を込めて手を引っ張り上げた。

 

 「どうやらあなたの勝ちね、健二さん?」

 ちょうど二人がフェンスのこちら側に戻るのを待っていたかのようなタイミングで、聞き覚えのある声がする。

 千香だ。

 顔を上げると、健二が開け放したままにしていた非常階段の出入り口の所で、手に何か黒い固まりを持った、制服姿の千香が立っている。ようやく昇り始めた太陽の光が床に映し出した彼女の影は、彼女のくれた名刺の死神のシルエットにそっくりだ。

 二人が息を呑むのを見て、千香が不敵に笑う。

 「気が付いた? 人騒がせなお二人さん?」

 「君は…」

 「そう。その通りよ。…さて、本来はみきさんを連れて行くのが筋なんだけど。契約もしてるんだし」

 途中で途切れてしまった健二の呟きに、どこからともなく派手なシールの一杯付いたシステム手帳を取り出し、ぺらぺらとページをめくりながら千香が答えた。

 「そんな…」

 健二が抗議しようとするのを、千香は手で制する。

 「待ちなさいって、ひとの話は最後まで聞いてよ。でも、この場合は後からした健二さんとの約束が有効になるの。つまり、さっきのゲームの事ね。だから、あたしはここでさよならってわけ。二人とも、人が来ないうちに帰った方がいいわよ」

 そう言うと、千香は手に持っていた黒い固まりを持ち上げ、下からのぞき込むようにする。

 その黒い固まりはもがくようにうごめいていた。

 「あたしは、代わりにこれを貰っていくから」

 もがもがともがくその固まりを見つめたまま、誰にともなく千香は言う。それは、健二達に言っているようにも、その固まりに言っているようにも聞こえたのだ。

 「それは…?」

 健二は思わずそう尋ねる。

 「さっき見たでしょ? ここにいた人達…のなれの果て、ってとこかな。さっきの貴方の『生きよう』っていう気にふれて、焼けちゃったのよ。ね?」

 千香が答えると、またその固まりがうごめく。まるで、千香の手から逃れようとしているかのようだった。

 「こんな所じゃ退屈だろうから、あたしの故郷で観光させてあげようと思って」

 「…こ…故郷…?」

 恐ろしい予感に、健二は背筋がゾッとする。

 「ま、ね。来てみる? 千葉のディズニーなんたらも大阪のユニバーサルスタジオも目じゃないわよ?」

 ウインクして千香が微笑んだ。

 「け…結構です…」

 かすれる声を漸く絞り出し、健二は答える。

 さて、あたしもそろそろ行かなくっちゃ。そっちもさっさと帰んないと、警備員とかに見つかったら面倒よ。じゃね〜」

 それだけ言うと、周りの空気にとけ込むように、千香の姿は見えなくなっていった。


 「…と、とにかく、ここを出ましょうか、みきさん?」

 「…そ、そうですね、バロンさん…」

 暫く呆然と千香のいた辺りの空間を見つめていた二人だが、やがてぎこちなく言葉を交わす。

 二人がお互いの本名を知ったのはそれからすぐの事だ。

 彼女の名前は、望月美希と言った。


 それから数年が経とうとしている。

 あれから一度だけ、二人で『自殺互助会』に行ってみようとしたが、『Forbidden(アクセス拒否)』と表示されて中に入ることは出来なかった。

 「ふー。疲れた。お茶にしようか」

 健二が額の汗を拭いながら言う。

 「賛成」

 美希がにっこりと微笑み、まだこまごまとした荷物がしまわれていない台所でお茶の支度をする。

 新居に二人分の荷物を運び込み、ようやくその整理が一段落ついた所なのだ。と言っても、まだまだ細かい物がそこいら中に散らばっているのではあるが。

 ピンポーン

 その時、玄関のチャイムが鳴った。思わず二人は顔を見合わせる。まだここの住所は二人の家族しか知らないはずだし、二人の家族共々、今日は尋ねてくる予定など無かったはずだ。

 「新聞屋かな」

 健二はそう言いながら立ち上がり、玄関に向かう。

 ドアを開けると、そこには宅急便の配達人が立っていた。

 「お届け物です、印鑑お願いします」

 誰からだろう…?

 訝しみながらも認め印を押し、荷物を受け取る。それは、何の印刷もされていない段ボール箱で、サイズは大学ノートよりちょっと大きいぐらい。厚さは五センチくらいで、そんなに重くはない。

 「!!」

 差出人を見て、健二は息を呑んだ。

 「どうしたの?」

 健二が青ざめているのを見て、美希も側に寄ってくる。そして、同じように差出人の所を見て息を呑んだ。

 差出人は、石田千香となっていたのだ。

 「今頃…」

 そう呟きながら、健二は恐る恐る包みを開ける。

 中身は、きちんと包装材に包まれた、傷ついたノートパソコンだった。あの日、どんなに探しても見つからなかった物だ。

 液晶モニターをあげると、中に一枚の名刺が挟まっている。

 いつかもらったのと同じ、千香の名刺だ。だが今度はURLの代わりにメッセージが添えてある。

 『人騒がせなお二人へ

 ご婚約おめでとうございます。このパソコンはあの日の記念にお返しいたします。あたしはあの件では上司にこってりと絞られました。ホントは、あんなに介入しちゃいけなかったんです。まぁ、しちゃった事はしょうがないって事になりましたけどね(笑)。でももし万が一、今度お会いする事があったりしたら、容赦しませんので。

 追伸

 いつか時が来てお二人がこちらに来られたら、『最期まで生き延びた二人』としてレポートを書いて戴きたいのですが。健二さん、約束にはそういう条件はなかったですけど、それ位いいですよね? 上司に言われてるの…(泣)』

 「…そうか」

 暫く名刺をひっくり返したりしていた健二は突然ある事に気が付いてそう呟く。

 「どうしたの?」

 怪訝そうな顔で美希が健二の方を見つめた。

 「これさ、この名刺のことなんだけど。ホラ、裏には死神のイラストが印刷されてるよね。でも、表の名前の印刷の向きと、裏のイラストの印刷の向きが逆なんだよ」

 そう言いながら、健二は名刺を何度かひっくり返してみせる。

 「…ホント。間違えたのかしら」

 「そうかもね。でも、もしかしたらこのイラストは、これで正しいのかも知れない」

 「?」

 美希がキョトンとした顔をした。

 「つまり、逆位置って事だよ。タロットカードでは、死神のカードの正位置は『何かの終わり』、『別れ』を象徴するけど、逆位置だと『再生』、『好転』それに『変化と新たなる出発』を意味するんだ」

 「変化と新たなる出発…」

 噛みしめるように、美希が呟く。

 「そう。ほら、ここ、朝日が昇ってきてるだろ? ちょうど、あの時の千香ちゃんみたいに」

 そう言いながら『死神』のイラストの背景の朝日を指さす。

 「きっと、千香ちゃんは死にたがってる人にギリギリの所で再生のチャンスをあげようとしてるんじゃないかな。一見、自殺の誘いという形をとりながら」

 「でも…でも、どうしてそんな回りくどいことを?」

 「多分、それ以上はしちゃいけない事になってるんだよ。ほら、ここにも『ホントは、あんなに介入しちゃいけなかったんです。』って書いてあるし。それに…」

 そこで一息つき、美希をいとおしそうに抱き寄せる。始めはちょっと驚いたようだったが、すぐに美希も身体を預けてきた。

 「誰かに、『考え方を変えれば世界も変わる、生きようという意志を持て』なんて言われても宗教家か楽天家の戯言だと思ったと思うよ。あの頃の俺なら。ギリギリの所で『生きたい』、『生きよう』って自分の心の底から思って、頭で理解するんじゃなく心で分からない限り、結局同じ事になるのを分かってるんじゃないかな。千香ちゃん達は」

 「…そうね…きっと、あの頃の私なら…」

 みなまで言わせずに、健二は自分の唇で美希の唇を塞いだ。


 ご覧頂き有難う御座います。作者の山本哲也、略して山哲です。

 えーと、この作品、もう結構古いので(2001年の作品)書いてある内容が今の実情と相当ズレているところもありますが、そのへんは、その時代を知っている方は「あーこんな時代もあったね」と、知らない方は「ふーん」と思っていてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ