蛍光色のブームを消せ!
第二次ぬいぐるみ戦争勃発
「今回の戦いだけには、負ける訳には、行かない!」
較が熱血していた。
「えーと、いままでのパターンでいくとあの象徴ぽいぬいぐるみをホワイトファングで撃ち抜けば良いんじゃないか?」
雷斗が提案するが較が完全否定する。
「完全却下! ここで完全にあのぬいぐるみの人気を打ち砕いておかないと憂いを残す事になるの!」
「ヤヤちゃん、今回は、かなり気合入っているわね?」
芽衣子が不思議そうな顔をすると、問題の店で売られている小さな目をした動物のぬいぐるみを見せる良美。
「これがどうしても受け入れられないって感じらしいよ」
芽衣子がぬいぐるみを見る。
「蛍光色の血で血まみれなんだけど、何故か人気あるんですよね」
「良くわからない人気だな」
鏡の言葉に良美も頷く。
「そうだよね。この手のキワモノってヤヤって大嫌いだから」
「絶対にこの一発狙いのぬいぐるみ人気を駆逐してやるんだから!」
較が珍しく燃えていた。
「一つ聞くが、相手のまん前の店をどうやって手に入れた?」
雷斗の指摘に較が笑顔で答える。
「大金を山ほど積んでも意地が有るからって言ってたけど、目の前で買った包丁の束を握りつぶしたら、応じてくれた」
「完全な脅迫だな」
雷斗の突っ込みを無視する較であった。
「それでどうやって、勝つつもり?」
良美の言葉に較が真白のぬいぐるみを取り出す。
「あっちが、色に拘るならこっちは、ホワイトぬいぐるみだ!」
「ディズニーでよく有る奴ね」
芽衣子の言葉に較が頷く。
「格安で売れば、あっちの人気が自然と下火になる筈!」
「また、そうやって資本に物を言わせたやり方で勝とうとするのね」
その声に入り口を見ると一人の少女が居た。
「あんたは!」
較が驚く。
「知り合い?」
芽衣子の確認に良美が呆れた顔をする。
「前に高校で、問題あるぬいぐるみを配布していた只野姫矢だよ。何か凄くライバル意識が強くって」
「聞き捨てならない事を言わなかった。資本だけで勝てるほど、ぬいぐるみは、甘くない!」
較の主張に姫矢も頷く。
「確かに資本だけじゃ勝てないわ。でもね、勝負を左右する事は、あるわね。そこでよ、今回は、純利益勝負にしない?」
「純利益勝負?」
較が僅かに怯むのを確認して、姫矢が笑みを浮かべる。
「実際の売り上げから材料費や制作費、輸送費、広告費等を引いた金額、純利益が多かった方が勝ち。そうね、身内の人件費は、サービスしてあげる」
「後発のこっちには、かなり不利じゃない!」
較の言葉に姫矢が苦笑する。
「それって詰り、敗北宣言? 所詮、可愛いだけのぬいぐるみでは、私のキモカワぬいぐるみには、勝てないって言う事よね?」
拳を握り締めて叫ぶ。
「良いじゃない、受けてあげる! 勝負は、来週の日曜日から二週間、その間の売り上げで勝負よ!」
「望むところよ! 今度こそ、どちらのぬいぐるみが上かハッキリさせてあげるわ!」
こうして第二次ぬいぐるみ戦争が始まるのであった。
「そういうことで、皆さんには、ぬいぐるみ製作をやってもらいます」
較の一言に、ざわめきが起こる。
「おいおい、ぬいぐるみなんて作った事無いぞ」
雷斗の当然の言葉に、較が舌打ちする。
「仕方ないな。雷斗さんは、輸送全般をお願いします。あと、ガソリンは、ちゃんと安いところで入れて下さいね」
「何か、何時に無く厳しいな」
雷斗が引く中、芽衣子が恐る恐る言う。
「あの、流石にここに居るメンバーだけでは、お店で売る分を作るのは、難しいと思うんですけど」
較が頷く。
「もちろん、そのことも考慮しているよ。あちきも伊達にぬいぐるみ屋をやろうと思っていない。製造ルートだって地道に確保しているの。今回は、そのテストとして格安で受けて貰う様にお願いしてある」
「材料は、どうするんだ?」
良美の指摘に較が即答する。
「そっちは、十斗経由で、買占めを行ってもらって、必要量だけ格安で仕入れることになってる」
「それって反則じゃないのか?」
雷斗の突っ込みに較が笑顔で言う。
「何処が?」
「何処がって買占めするのには、多大な金が掛かるだろ。その金額を考えたら……」
雷斗の反論に較が遠い目をする。
「買い占めるのは、あくまで十斗であってあちきじゃないからノーカウントだよ」
「やり方がエグイな」
良美の呟きを無視して、較が宣言する。
「必勝モードで行くよ」
その中、芽衣子が奥でパソコンに向わされている鏡が気になり見に行く。
「所で、鏡に何をやっているの?」
そこには、ピンクの背景のブログがいくつも展開されていた。
沈痛な表情で鏡が答える。
「広告費削減の為に口コミを狙ったネット戦略らしい。来週までにこのリストにあるページ全てを回らないといけない」
そのリストの厚さに芽衣子が顔を引きつらせる。
「それを一人でやるの?」
鏡は、小さな溜息と共に言う。
「このくらい、普段のトラブルの後始末に比べれば大した事は、ないさ」
短い沈黙の後、芽衣子が尋ねる。
「普段のトラブルの後始末ってそんなに大変なの?」
鏡が苦痛の表情を見せる。
「トラブルが起こったと聞くと八刃の情報操作部門の人間全員が電話を手に取り、暫く家に帰れないと電話をし始める」
芽衣子が振り返り、新作ぬいぐるみの型紙を作る較を見る。
「ああやっている姿は、比較的普通なんだけどね」
鏡は、作業に戻りながら言う。
「今回の様に穏便に済ませられるんだったら、それが一番なんだろうな」
芽衣子が苦笑しながら頷くのであったが、その後、酷く後悔する事になるのであった。
そして、較の仮店舗が開く。
「二週間、限定オープン、ホワイトシリーズの特価販売です」
その金額を見て、向いの店にいた女の子達がざわめく。
「嘘! あんな安いの!」
「あの大きいの可愛い!」
「ホワイトって言うのも良いわよね!」
こうして、お客が流れ込んでくる。
その様子を見て姫矢が言う。
「そんな特売で利益が出るものですか!」
一週間後、中間発表。
御互いの帳簿を見せ合った後、姫矢が言う。
「よくこんな外道な商売を思いつきますわね」
較が笑みを浮かべる。
「ちゃんと掛かった費用は、全て計上してるよ」
姫矢が悔しそうに言う。
「生地の買い叩きに、無差別ブログ投下のコメントあげ、あそこに居る人なんて死に掛けているじゃない!」
昼夜問わず走りまわされた雷斗は、完全にグロッキーであった。
「身内の人件費は、サービスなんだから、そこを利用しない手は、無いよ」
較の返事に睨み合う二人。
「いいじゃない、こっからが本当の勝負よ。御互いの新商品の出来が勝負を左右するわ」
「当然、こっちは、新商品ラインナップは、豊富よ」
較の強気に姫矢が笑う。
「ただの白いぬいぐるみじゃ限界があるわね。こっちのオールカラーのぬいぐるみでのバリエーションに勝てるかしら!」
戦いは、更に激化するのであった。
較が携帯に怒鳴る。
「雷斗、早く生地を運べ!」
『少しは、休ませろ!』
怒鳴り返してくる雷斗に較が返す。
「一週間してから死ぬほど休むのと、今すぐ死ぬのと好きな方を選んで」
『……解ったよ!』
雷斗が疲れきった声を最後に電話を切る。
「鏡は、出来上がったぬいぐるみの搬入を手伝って!」
「了解した」
目の下に隈を作った鏡が外に出て行く。
「ヤヤちゃん、売り子が足らないんだけど?」
弱々しい声で言う芽衣子の言葉に較が微笑む。
「もう少しで、こっちの手配が済んだら手伝うから頑張って」
鬼気迫る較に言葉を続けられない芽衣子の肩を叩く良美。
「今回は、諦めて」
普段、あまり働かない良美も、売り子の一人として頑張っている。
搬入された新作ぬいぐるみに値札をつける較が怒鳴る。
「新作、親子ペアぬいぐるみが到着しました。数に限りがありますので、御早めに!」
こうして、人が集まっていくのであった。
そして、決着の日。
両者が出した金額を大きな算盤で計算されていく。
そして、最後の金額が入れられた瞬間、長い沈黙の後、ガッツポーズをとったのは、較だった。
「百円勝った!」
「悔しい!」
本当に悔しそうにする姫矢。
「不思議に思うんだが、身内をあれだけ酷使したヤヤの店と売り上げでどうして均衡出来たんだ?」
ヨロヨロの雷斗の言葉に疲れ果てて突っ伏している芽衣子が答える。
「単価とバリエーションの違いだと思います。先発のあちらは、既存のシリーズがあって、その新作をコンプリートする為って多少高くても買う人が多かったんですよ」
アイスマスクを着けて、休んでいた鏡が呟く。
「とにかく、こんな戦いは、二度としたくありませんね」
「本当だよ」
流石の良美も頷く中、姫矢が言う。
「今回は、僅差で負けたけど、勝負がついたと思わないでね! キモカワブームは、何度だってくるんだから!」
「王道のキュート派は、不滅だよ!」
燃え上がる二人。
「次は、長期で勝負になると思いなさい!」
姫矢の宣言に較が応じる。
「当然ね。そっちでも絶対に勝ってやるんだから!」
再戦を誓い合う二人を見て良美が言う。
「勝手にやってくれ」
激しく同意する一同であった。
因みに、シンボルであったぬいぐるみを消し飛ばして、ブームが無くなりノイズは、消えたが、姫矢のぬいぐるみは、普通に売り上げを続けるのであった。