ラメラメな流行を消せ!
ちょっと短めの今回は、ファッション
「あのー一つ聞いて良い?」
芽衣子の小さく手を上げた。
「何ですか?」
較は、忙しなく手を動かしながら聞くと芽衣子が質問をする。
「何で、ファッションショー直前の楽屋にあたし達が居るのかしら?」
「そこ、しゃべってないで手を動かせ!」
「はい!」
チーフからの怒声に芽衣子が慌てて作業を再開する。
較が小さく溜息を吐いて言う。
「あちきもやりたくってやってるわけじゃないんですよ。今度は、このファッションショーで一番輝いている物がノイズだって事らしいので潜入してるんです。第一、それらしき服が出てきたら、無理やり脱がしてホワイトファングを放つって案を却下したのは、芽衣子さんじゃないですか」
芽衣子が沈痛な表情で告げる。
「それって一般常識的に言って駄目だって解らない」
較が朗らかに笑う。
「記憶操作くらい出来ますから誰も不幸になりません」
「そこであっさり記憶操作が出てくること自体が問題だ」
雑用係をやっていた雷斗がやって来ていた。
「対象の服は、出てきた?」
較が問い返すと雷斗が首を横に振る。
「良美の見たところ異常なファッションは、無いそうだ」
そんな雷斗の後ろをラメだらけのコートを羽織ったモデルが通り過ぎる。
「今のも見た筈だよね?」
顔を引きつらせた較の言葉に雷斗が頷く。
「そうだが、何かおかしいのか?」
「今の流行ですね」
芽衣子が普通に流す中、較が頭を抱える。
「あれがおかしいと思わないのがノイズです。観客側からの見張りをヨシに任せたのは、失敗だった」
困った顔をする芽衣子。
「でも、ヨシってば、手先が器用じゃないから」
「そこ、無駄話をしている余裕があると思ってるのか!」
再びチーフから怒鳴られる較達であった。
観客席。
「良美さん、さっきの衣装は、異常なセンスだったらしいですよ?」
護衛の鏡の言葉に頬をかく良美。
「うーん、あたしってあまりファッションとか詳しくないんだよね」
大きなため息を吐く鏡が、ステージを見上げると、眉を顰める。
「そうなると、このラメ入りのドレスも怪しいのかもしれませんね」
「それは、普通です」
較がやって来て答えた。
「あれ、ステージ裏に居て、戻ってきた服を消し飛ばすんじゃなかったの?」
良美が不思議そうな顔をする中、較が肩をすくめる。
「こっちで正しい判断できなければその案も使えないから雷斗さんに仕事を代わってもらってこっちに来た」
難しい顔をする鏡。
「あの先程のコートと今のドレスとどう違うのですか?」
頭をかく較。
「ラメを服にちりばめる自体は、それほど珍しい事じゃない上、ファッションショーだからあのくらいの派手さは、許容範囲なんだけど、ほら丁度来た、あのモデルのマフラーにラメがあるでしょ。流石にああいう防寒着の類にラメが過剰に入るのは、おかしいわけよ」
「違いが解らん」
即答する良美に沈痛な表情を浮かべる較。
「防寒着系で異常デザインと思って」
「あのジャンバーも?」
ラメ入りジャンバーを指差す良美に眉を顰める較。
「それは、かなり微妙かも」
そんな会話をしている中、アナウンスが流れてくる。
『本日、メイン。太陽をイメージした最新ファッションです』
出てきた服を見て較は、目が点になった。
「ラメを使って無いから違いますね」
鏡が納得し、良美が嬉しそうにする。
「何か、アニメのロボットみたいでかっこいいじゃん!」
日輪をイメージした自分の背丈ほどある発光体を背負ったモデルに注目が集まる。
「凄い、斬新だ!」
「これがニューウェーブだ!」
「素敵!」
巻き上がる歓声に較がホワイトファングの準備に入る。
「あの輪を打ち抜くよ!」
「あれがノイズですか?」
鏡の確認に較が半ば切れ気味で頷いた。
「いくらファッションショーでも限界があるよ。あんな素っ頓狂な服に歓声があがる訳が無いよ」
「でもここだと不味くない?」
珍しい良美の正論に較が舌打ちするのであった。
結局、その日は、ホワイトファングを撃てなかった。
数日後、問題の服が大評判を呼び、ファッション誌の一面に載った。
「これは、不味い流れだよ。今更、あの服にホワイトファングを撃っても意味が無さそうだよ」
較の言葉に雷斗が眉間に皺を寄せる。
「しかし、もうファッションショーが終わってしまった。前回みたいにその象徴になる物がない以上、ホワイトファングで撃ち抜けないだろう?」
「売り上げ記録などを発表する番組をホワイトファングで壊せばどうですか?」
鏡の過激な意見に芽衣子が苦笑する。
「鏡、ファッションショーに出た服が普通に売られるまでは、かなりの時間がかかるわ。その上、その服自体が高い売り上げを稼ぐ事は、無い筈よ」
「そうなのか?」
良美の問い掛けに較が頷く。
「ファッションショーに出る服は、あくまでショー用の物で、それをマイナーチェンジした物が市販されると思っていいよ。ファッションショーの服に似てるけど、実用性がある服が世間には、出回る訳だけど、実際にどうしたものか?」
頭を悩ませる較達に良美が何気ない様子で言う。
「いっその事、そのブランドの会社を撃ち抜けば」
「何を過激な事を……」
雷斗が呆れたが較が立ち上がる。
「それで行こう! 鏡、問題の会社の本社を買い取って、人払いをして一気にやるよ」
「駄目元ですからね」
動き出す鏡。
「駄目元で会社の買取をするのか?」
顔を引きつらせる雷斗であった。
泥縄な作戦だが、上手くノイズが除去できた。
「それにしてもとんでも無いのが流行っていたのですね」
問題の衣装をノイズが消えて、感覚が戻った芽衣子が見て驚いていた。
「あたしは、カッコイイと思うけどな」
良美の言葉に較が肩をすくめる。
「ヨシの趣味が流行ったら世界がおかしくなるって事だね」
「何でそうなるの!」
大声を出す良美に苦笑が広がるのであった。