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ソーラーカーの速さを消せ!

ヤヤの新シリーズ、今度は、事象と戦います

『本日未明、光の巨人が現れ、町を壊滅させました』

 居間で較の作った朝食を食べながらテレビのニュースを見ていた良美が眉を顰めた。

「こんな時間にジョーク番組か?」

「良美は、ちゃんとニュース見てないのー。近頃は、ちゃんとニュースに出てるよ。八刃じゃ、昔っから光の巨人の事は、掴んでたんだよね?」

 笑顔で問い掛けてくる小較に較が頬をかく。

「ごめん、それってあちきから聞いた?」

 小較が目を見開く。

「そんな、ちゃんと前にニュースを見たときに教えてくれたよ」

 目を潤ませる小較に良美が勝ち誇る。

「これだからお子ちゃまは、夢と現実の区別もつかないんだからな」

「違うもん、ちゃんと聞いたんだもん!」

 泣きそうになる小較を優しく抱きしめながら較が言う。

「小較のそれは、少し前の戦った『侵食する光』が生み出したノイズが原因よ」

「ノイズ?」

 涙を拭いながら小較が聞き返すと較が頷く。

「あのクラスの異邪になると神々と同じく過去干渉を行える。その力でこの世界に歪みが発生しているの。小較の記憶は、その一部。そして、あちきやヨシがその影響を受けないのは、白牙様に侵食されてるから」

「それで何で光の巨人が出てくるんだ?」

 良美の質問に較が肩をすくめる。

「上手くいけば復活の足がかりになるとでも思ったんでしょうけど。ほぼ間違いなく八百刃獣の何方かに滅ぼされるのが関の山」

「でも無視しないんだろ?」

 良美の突っ込みに較が頷く。

「八刃が神頼みに頼り切ると思う?」

 良美が首を横に振る。

「それが前回言っていたノイズ掃除って奴か?」

「半分以上は、直接動く事が出来ない八百刃様の間接的な干渉だけどね」

 較の説明に良美が首を傾げる。

「あの毎日の様にたかりに来ていたのが忙しいのか?」

 遠い目をして較が言う。

「人間の基準で判断できないほど忙しい筈なんだけどね……」

 流石に空気を読んだ良美が話を変える。

「とにかく、妖しいところをぶっ潰していけば、このノイズが消えるって事だな」

「何でも単純に考えないで欲しい」

 そう言って入ってきたのは、谷走鏡であった。

「ヤヤにヨシ、それに小較ちゃんお久しぶり」

 入ってきた鏡の隣の女性、鏡の恋人に挨拶をする小較。

「芽衣子さん、お久しぶりです」

「いきなり鏡と芽衣子さんが来るなんてどうしたの?」

 較の質問に鏡が大きなため息を吐いた。

「ホワイトファング前提のミッションだから、お目付け役として呼ばれました」

「彼女込みで?」

 良美の突っ込みに頭を押さえる鏡。

「私は、全力で反対したのですが……」

 芽衣子が朗らかな顔で答える。

「長期任務になると聞いて、詳しい事情を聞いたんですが、ヤヤやヨシとなら一緒に行動しても迷惑が掛からないかなと思って八子さんに相談したら、バイトとして参加させてもらうことになったんです。今回の給料は、結婚資金になる予定です」

「もう直ぐ結婚するんですか!」

 目を輝かせる小較に幸せそうに頷く芽衣子。

「大学を卒業と同時に籍を入れる予定。結婚式には、呼ぶからね」

 較と良美が視線を向けると鏡が呻いていた。

「世界で一番大切な女性なのです。それを世界で一番危険な場所に連れて行くなんて!」

 苦悩する鏡の肩に手を置く較。

「諦めなさい。二人であちきを負かした時から尻に敷かれる運命だったんだから。全力で護ってあげなよ」

「元凶には、言われたくありません!」

 鏡の魂の叫びは、残念ながら誰の心にも届かないのであった。



「珍しい車がいっぱい走ってるよ!」

 レースサーキットではしゃぐ良美に芽衣子が首を傾げる。

「ソーラーレーサーカーってメジャーだと思ったけど」

 その一言に較が眉を寄せる。

「侵食する光の影響が出てるのは、間違いない。ソーラーカーが通常の車より速いって異状だもん」

 鏡が真剣な顔をする。

「かなり強い影響力が出ている事になりますね」

「ここのノイズを潰せばかなり改善に向かうかも」

 較も応じる中、良美が手を上げる。

「ここは、この会場ごとホワイトファングをぶちかませば終りじゃん」

「そうだね、火事でも起こして人を避難させた後にやっちゃおうか」

 較も乗ってくる。

「非常事態ですから仕方ないかもしれませんね」

 鏡も渋々同意しようとした時、一人の男性、如月キサラギ雷斗ライトが怒鳴る。

「そんな非常識が通るわけないだろうが! お前達、もう少し常識をもって行動しろ!」

「状況が非常識なんだから問題ないと思うけどな」

 較の反論に雷斗が沈痛な表情で告げる。

「今回のミッションに谷本さんや俺が組まされた理由がはっきり解った。常識人の感性が必要だからだ。とにかくもう少し穏便な方法を探すぞ」

 一応年長者の言葉に従う事にした較達であった。



「特に妖しいところは、ありませんね」

 予選の様子を観察した芽衣子の言葉に較も頷くが、良美が手を上げる。

「どうも気になったんだけど、何であのチームだけ段違いの成績だしてるの?」

「それだけの実力があるんでしょう」

 鏡は、気にせず較も同意する。

「ドライバーも実力者だし、金もあるチームみたいだからおかしい事は、無いよ」

「そうでもない。こういったレースと言うのは、一チームだけ突出するのは、おかしい。おかしいと思わなかった事が不自然な程の差がついている。他のレースだったらありえない筈なんだが」

 眉を顰める雷斗の反応に較と鏡がノートパソコンで調べ始めた。

「確かに、異常な程に成績の差があるね」

「他のレースで、これだけ長時間、一つのチームが突出している前例は、少ないですね」

「詰まり、どういう事ですか?」

 芽衣子の問い掛けに較が問題のチーム、『ソーラーブレイク』を指差して言う。

「今回のノイズの元凶の可能性が高いって事。詳しく調べるよ」



 ソーラーブレイクのピットの入り口に移動する較達。

「一応記録では、古いチームで、このソーラーカーレースでは、常勝。しかし、気付いてみれば確かに常勝過ぎる。こんなレースじゃ盛り上がる訳が無いのに、全世界的に人気があるレースって事になっているのは、不自然ですね」

 鏡の説明に較が頷く。

「その不自然さを不自然だと思わせないのが神クラスの過去干渉能力だよね」

「神様って言うのは、本当に過去を変えられると言うのか?」

 動揺する雷斗に眉を寄せる較。

「過去を変えることなんて神様にも出来ない。でも過去の出来事は、変えられる。意味が解る?」

 良美が即座に両手をあげる。

「そんなとんちの様なもんは、理解できないよ」

 雷斗も同感の様に頷くが芽衣子が少し考えながら答える。

「詰まり八刃は、時間の流れを否定していると言う事よね?」

「正解です。過去の世界なんてものは、存在しない。存在しない物を変える事は、出来ない。しかし、神クラスの力の持ち主なら、今の世界に干渉で、過去に起こった出来事を変化した様に出来ます」

 鏡の説明でも良美が眉を寄せているので較が補足する。

「簡単に言えば、普通の人間は、常にスタートしかゲームしか出来ないのと違って神様は、好きなように強くコンテニューが出来るって事だよ」

 手を叩く良美。

「解りやすい!」

「結局の所、どういう意味があるんだ?」

 難しい話の連続で頭を押さえていた雷斗の質問に較が答える。

「まさに強くコンテニュー。本来なら一から作らなければいけない信仰の土台を偽造して、そこから信仰心を生み出して再生の力を捻出しようとしている。悪あがきだよ」

 そんな会話をしながら近づいてくる較達に気付き、ピットクルーが止めに来る。

「ここから先は、関係者以外は、立ち入り禁止。帰った!」

 良美は、首から提げた身分証明書を見せる。

「きいて驚け、あたし達は、このレースの主催者の特別VIP。機嫌をそこねると次の大会は、無いよ」

「そんな馬鹿な話があるか!」

 信じないピットクルーに較がプレートを見せて言う。

「正式なフリーパスです。お疑いなら確認してみれば?」

 言われるままに確認し、顔を青褪めさせるピットクルーが慌てて監督の所に向かった。

 そして、監督が駆けてくる。

「スポンサー関係者がどうしてこんな所にいらっしゃったのですか?」

「別に大した理由が有るわけじゃないよ。ただ見たかっただけ、マシーンを見せてもらって良いよね?」

 較の言葉に嫌そうな顔をする監督に雷斗が苦笑する。

「そんなにストレートに顔へ出すなよ。このレースが無くなったらあんたらだって困るだろ?」

 更に不満そうな顔をする監督が年長の雷斗の方を向く。

「貴方達にそれだけの権力があるとは、思えませんがね?」

 較は、携帯を取り出し、少し話をすると、監督の携帯が鳴り、慌てて出ると顔を青褪めさせる。

「どこに電話したの?」

 良美の質問に較が肩をすくめる。

「ここのメインスポンサーの所。あちき、これでも大株主だから」

「ヤヤってお金持ちね」

 芽衣子が感心する中、監督が苦虫を噛み潰した顔で言う。

「自由に見ていってください」

「ありがとうございます」

 笑顔で答える較に鏡が溜息を吐く。

「凶悪な笑顔ですね」

「全くだ」

 雷斗も頷くのであった。

 そして、マシーンをチェックする較だったが、眉を顰める。

「マシーン自体にも、関係者にもノイズを感じられない」

「ノイズって解る物なのか?」

 雷斗の質問に較が頷く。

「世界は、神の意志ベクトルの集まりで構成されている、ノイズは、ベクトルが異質だから一目瞭然なんだよ」

 首を捻る較だったが、その場を離れる事にした。



 ノイズが見付からないままレースが始まった。

「結局、何処にもノイズが見付からなかったですね」

 思考する鏡。

 較も眉間に皺を作っている。

「これだけ大きな異変が発生しているから間違いなくノイズが発生していると思うんだけどな」

「やっぱり勘違いって事は、無いか? このレースは、毎年ニュースにも取り上げられていたぞ」

 雷斗の言葉に較が首を横に振る。

「それだったら、尚更。あちきの記憶にそれが無いって事が異常なの。必ずノイズが有る筈なんだよ」

 そんな中、レースを見ていた芽衣子が感嘆する。

「ソーラーカーは、やっぱり速いのですね」

「あたしは、意外だけどね。ソーラーカーは、どうしても遅いってイメージがあるよ」

 良美のその一言に較がレース場のソーラーブレイクのソーラーカーを凝視する。

「ノイズ発見!」

「何処だ!」

 雷斗が聞き返すと較は、ソーラーカーを指差す。

「あのソーラーカーは、先ほどチェックした筈では?」

 鏡の指摘に較が苦笑する。

「走っていない状態じゃ、ただのソーラーカー。それは、元からあるからノイズには、ならない。速いソーラーカーがノイズなんだよ」

 眉を寄せる雷斗。

「何かおかしくないか? それじゃ、そのノイズは、物でなく事象みたいじゃないか?」

「そうなのでしょう。考えてみれば、ノイズとは、異質な現象なのですから、何かをやっている状態じゃないと発生しないのかもしれません」

 鏡の言葉に較が頬をかく。

「問題は、あれにどうやって安全にホワイトファングを当てるか。スピードも面倒だけど、中の人が消失しちゃうよ」

「降りた所を処理したらどうかしら?」

 芽衣子の一般的な回答に鏡が首を横に振る。

「それでは、ノイズを消せません。ノイズは、あくまで速いソーラーカーから発生しているのですから」

「何か意地悪クイズみたい。走っていないと意味が無いけど、走ってる状態だと誰かを犠牲する。誰も犠牲にしないで解決するには、どうしますかって」

 良美の指摘に較が腕組する。

「そういった意地悪クイズは、発想の転換が必要なんだよ。ホワイトファングで速いソーラーカーって事象を無くすってのをソーラーカーを消失させないでする方法ね」

「速いなんて相対的な物だ。そんな事が出来るわけ無いだろう」

 雷斗の常識的な意見に芽衣子が電光掲示板を見る。

「速さの判断をソーラーカーを見てしてないです!」

 較も手を叩く。

「確かに、速さって数値化されて始めて意味があるんだよね」

「何をしようとしてるんだ!」

 雷斗が慌てる中、較が右手を電光掲示板に向ける。

「撃つよ!」

「何か解らないけど、やっちゃえ!」

 良美のGOサインが出る中、較がタイミングを図る。

『速いぞ、これは、最速ラップが出るか!』

 アナウンスと共に電光掲示板の表示が変わろうとした瞬間、較が放つ。

『ホワイトファング!』

 白い閃光がソーラーカーの最速ラップを表示しようとした電光掲示板を消失させた。



 その日の夜のホテル。

「えーと俺たちってここにノイズを消しに来たんだよな?」

 雷斗が不安気に言う中、較が頷く。

「そして、見事にノイズの一つを消したよ」

「何にも変わってない気がしますが?」

 芽衣子が首を傾げる中、良美がレース会場を指差して言う。

「昼間まで、レース場だったのが、陸上競技場に変わってるのは、変化じゃないの?」

「私達の記憶の中では、あそこは、元から陸上競技場です」

 鏡が淡々と答える中、良美が首を傾げる。

「どうでも良いけど、どうやってノイズを消したんだ。速いソーラーカーがノイズなんだから、ソーラーカーを消す必要があったんじゃないのか?」

 較がストップウオッチを取り出し、タイムを表示させる。

「速い遅いなんて相対的な物。それを人に認識させるのは、数値。それもあの会場で一番強くそれを人に認識させていたのがあの電光掲示板だった。最速ラップを表示する瞬間、一番のノイズがあそこから発生していたんだよ。それを消し飛ばす事で、そのノイズに関連するノイズが一緒に消えたの」

 大きなため息を吐く雷斗。

「今回の仕事は、随分と抽象的な仕事になりそうだな」

 較が肩をすくめる。

「仕方ないよ。ノイズが生み出す信仰心自体が抽象的な物なんだから」

「一つだけ良いですか?」

 鏡が手を上げる。

「何?」

 較が聞き返すと鏡が一つの記事を見せる。

「過去の改善とは、別にこんな現象が起きています」

「不自然な人工衛星のカバー範囲の異常? 関係者は、まるであるべき空間が切り取られたみたいだと語っている。まさかと思うけどこれって」

 芽衣子の質問に較が視線をずらすが良美が平然と答える。

「そっか、ホワイトファングって空間そのものを消失させるんだっけ」

 顔を引きつらせる雷斗。

「おい、お前達、そんな物を今までも何発も使ってたのか!」

 較は、回答拒否する中、鏡が沈痛な表情で呟く。

「こんな危険な技を使うのが前提のミッションを続けるのですね」

「出来るだけ影響で無いように頑張りましょう」

 芽衣子の励ましに力なく頷く鏡であった。

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