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童話と王宮庭師

 王宮の敷地内の一画にセルネイの住まいは存在する。

 さほど広くはなく、一人で生活するには十分な広さのその部屋で、セルネイは一人、窓際の卓につき、古い本を読んでいた。

 久しぶりに本棚から取り出したその物語を、セルネイは微笑みながら何度も読み返した。もうずいぶんと読んでいなかったなと思いながら、遠い日の思い出とともに文字の羅列を目で追っていく。

 そうして何度目かの読み終わりを迎えた後、そっと本を閉じた。

 古ぼけたその表紙には『レイヴァーレ』という題名が書かれている。

 世界中に出版されているこの本には著者名が書かれていない。それは、この物語を書いた人物が誰であったのか、もう誰も知らないからだ。

 ずっと昔からあるこの童話は、この世界では当たり前のように誰からも愛される物語となっている。この物語に隠された真実も想いも、誰も知らないままに。

 閉じられた本を見つめていたセルネイの表情がふと切なげに翳る。

 セルネイが持つその本の表紙には、忘れられてしまった著者名が書かれている。その名をそっと指でなぞると、セルネイは誰にともなく呟いた。


「この先を、ずっと願ってる」


 セルネイはふと窓の外に目をやった。窓から入る陽の光を受けて不思議な色合いを見せるその瞳は、遠く空の彼方を見ていた。

 心を決めなければならない。

 留める覚悟と託す覚悟を。


「君の幸せを、信じてる」


 夏の装いから秋の色へと変わった庭は、高い位置にある陽に照らされて一層美しい輝きを見せている。


「――」


 小さく呟かれたその言葉は、誰にも届く事はない。

 それでいいのだと、セルネイはそっと目を伏せた。




 この物語の続きは確かにあった。

 しかしそれを、今はまだ誰も知らない。


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