昔々のその昔
所々で異世界ルールが発動しております。深く考えず、そういうものだということでスルーしてください。
作中に造語があります。地球上の言葉ではないモノとして読み流してください。
昔々のその昔のお話です。
長く続く戦争が、この世界を壊そうとしていました。
人々はただ、その光景を見ていることしか出来ませんでした。それは戦争を引き起こしたのが『人』だったからです。
人々はその過ちを、嘆き、悲しみ、悼むことしかできませんでした。
そんな時、美しい花から一人の娘が生まれました。
花の娘はとても愛らしく、その微笑みは全てのモノを癒す力がありました。
そんな花の娘が初めて目にした世界は、とても痛ましい世界でした。その痛みに、その辛さに、その虚しさに、心が潰されてしまいそうになりながら、花の娘は世界の泣き声を聞き続けていました。
そうして花の娘は、たった一人でこの戦争に立ち向かう事を決意するのです。
それは過酷な道のりでした。味方は一人もいないのです。それでも、花の娘が立ち止る事はありませんでした。
花の娘はただ、この世界が光溢れる場所になる事を夢見ていたのです。それはかつて、誰もが抱いた夢でした。
人々はそれを諦めました。しかし花の娘は最後までそれを諦める事はありませんでした。
その姿に心打たれた人間がいました。それは魔力を術として使う三人の人間でした。その三人は花の娘に従い、娘と共に戦争を止める事を誓いました。
花の娘は三人の人間と共に、世界の哀しみに立ち向かいました。
そしてついに、長きに渡って繰り返されてきた戦争を終わらせることができました。
その報せに世界中の人々が喜び、花の娘を讃えました。
しかし喜びも束の間、花の娘はその役割を終えるかのように世界から消えようとしていました。それを目の当たりにした三人の人間は、その時ようやく気付きました。
この世界は、花の娘が生きられない世界になってしまっていたのだという事を。
腐敗した大地には最早緑は残されておらず、黒雲で覆われた空から陽の光は届かない。この世界には、花の娘が生きられる場所はもう残されていなかったのです。
花の娘が消えてしまう事を悲しんだ三人の人間は、花の娘に約束をしました。
この世界が光溢れる場所になるよう、我らが世界を創っていこう。これは別れではないと信じて、我らは永久に君の帰りを待ち続けよう、と。
花の娘はその約束を胸に、その愛らしい微笑みを残して静かに世界から消えていきました。
その微笑みは世界を癒していきました。
大地には緑が戻り、黒雲を晴らし陽の光が世界に届きました。
人々は花の娘がくれたその恩恵を決して忘れることがないよう、胸に刻みつけるのでした。
その後、三人の人間は、魔力を『術』から『法』に変え、全ての人がその『法』を使えるようにしました。
そして三人は花の娘との約束を守るため、一つの国を創りました。
三人は永久にその国を守るため、一人は国の礎となり、一人は血を継ぐ者となり、最後の一人は守護者となって、その国を見守り続ける事にしました。
そうして三人は今も、花の娘の帰りを待っているのです。
――童話『レイヴァーレ』より――