魔王はその時 1
妾はずっと一人じゃった。母様は妾を産んだときに亡くなったらしく、父様は会ったことも無かった。城には配下の魔物がおったにはおったが皆一歩引いたような態度しなかったから一緒にいるって感じはしなかった。
でも、そんな一人なのにも慣れ切りつつあった日常に変化がおきたのじゃ。
「あ~・・・君?ちょっと起きてくれないかな?」
そのような声が妾を起こそうとする。なんなのじゃ一体妾は眠いのじゃ。しかし、城の中に妾を起こすほど近しい者などいないはずじゃが・・・気にはなったがやっぱり眠いのじゃ。
「う~、妾はまだ眠いのじゃぁ~、せっかくの至福の二度寝を邪魔するでない~」
妾は夢うつつの中でそう答えていた。せっかくの二度寝なんじゃ。邪魔されてたまるものか。
「もう昼だぞ。起きなさい」
だというのに声の主は、それを許してくれんらしい。
「あとちょっと~あとちょっとだけなのじゃ~」
ほんとにあとちょっとで起きるから寝させてくねんかの?
「そんなこと言っても起きないだろう?」
起きると言っておるのにめんどくさいやつなのじゃ。あとちょっと、そうじゃな・・・5年くらいかの?いやそれは長いか?・・・まぁ、いいか。
「起きるのじゃ~あと5年したら起きるのじゃ~」
これで諦めてくれるといいんじゃが・・・。などと思っていると
「長いわっ!!」
そんな声とともに頭に衝撃が走った。
「ふぎゃっ、な、なんじゃ!?」
いきなりの衝撃で意識が覚醒する。いきなりなんなのじゃ。痴れ者が!!・・・
「ってここはどこじゃっ!!妾はさっきまで城にいたはずじゃぞ!?」
さっぱりわからぬ。いつから妾は城から大自然あふれる草原に来てまで寝てしまったのじゃ
「あ~と、ちょっといいかな」
そんなことを考えていると声を掛けられた。振り向くとそこには、黒髪に黒目という珍しい組み合わせの男がいた。
「ん?なんじゃ御主?っは、もしかして誘拐犯というやつか?」
こやつが前に本で見た誘拐犯という奴かもしれん。
「失礼なっ!!」
ふむ?違うのかの?その割には目が泳いでいるようにも見えるが・・・
そこでこやつは妾を『召喚』というスキルを使ってここに呼んだことが分かった。こやつの様子から嘘をついてる感じはしないから信じても問題無いじゃろ。しかし魔物を召喚スキルなど本でも読んだことは無いのじゃ。
「ふむ、そういうことじゃったのか。それにしても魔物を召喚するスキルか・・・御主珍しいものをもってるの。だが、これで納得がいった。」
「ほんとか!じゃあ、魔物を呼ぶスキルなのになぜ君が現れたのかがわかるのか?」
納得していると男がよくわからんことを言ってきた。そんなの簡単じゃろ
「それは簡単じゃよ。だって、妾魔王じゃし」
そう言った瞬間に男の顔が間の抜けた顔になった。もしかして、こやつ気づいておらんかったのか?
まぁ、貴重な体験もできたしそろそろ帰してもらうことにするかの。
「で、いつになったら妾を返してくれるのじゃ?」
「えっ!?」
えっ!てなんじゃ、えっ!て。などとここの中で毒づいていると、男は帰せないみたいなことを言ってきた。
「へ?いやいや、信じんよ?妾」
今度は妾が間の抜けた顔になった。って、またまた~、こやつなかなか冗談がうまいやつじゃ。一瞬信じてしまったのじゃ。あ~空が青いの~。
「うーん、残念ながら現実なんだよ」
なん・・・じゃと?じゃが、それからも信じん妾に何度も説明してくる男。こんなに言われたんじゃあ信じんわけにはいかんじゃろ・・・。だったら
「して、御主はこれからどうするのじゃ?」
これからこの男がどうするかを聞いて見ることにした
「は?なにが?」
む、察しが悪い奴じゃの。
「まさかここで餓死するまで待っているわけじゃあるまい?」
そこまで言ってようやくわかったのか、男は納得した顔になって
「そうだな~。とりあえず町か村を探そうかと思ってるな」
ふむ、やることは決まっておるのか。一安心じゃ。
「なるほどでは、妾も付いていこうかの」
と当然のごとく言ったのじゃがここで男に驚かれた。まさかこの男は妾をここに見捨てていくつもりなんじゃろうか?そこまで考えた時いきなり不安になった。妾は魔王とはいえまだ12。ここで見捨てられたら野垂れ死にするしかないのじゃ。だから・・・
「なんじゃ、その態度。御主が呼び出したんじゃから御主が責任もって送り届けるべきじゃと思うが?それとも何か?生まれてからまだ12年しか達とらん少女をここに置き去りにするのか?」
と、苦し紛れに言ってみたのじゃが
「ぐっ、それを言われると・・・」
お、動揺しとる。これはもしかすると
「わかった。じゃあいっしょに行くか」
その言葉を聞いて嬉しくなる妾。どうやら自分の予想以上に心配していたらしいとても安心した。
「わかればいいのじゃ。わかれば」
気づかれない様にそんなことを言ってみるけど、ううむ困った、頬に力が入らないのじゃ。にやけてしまうのじゃ。
そんな頬と格闘していると男がいきなり頭を撫でてきた。なんなのじゃ一体っ!!
「な、なんじゃっいきなり。や~め~る~の~じゃ~!」
いきなり頭を撫でるとは失礼な奴じゃまったく。・・・まぁ、でも悪くなかったのは妾だけの秘密じゃ。
「ははは、ごめんごめん」
笑いながら手をどける男。む、むぅやめろとは言ったがちょこっと複雑じゃ。い、いやもっと撫でてほしいなど思ってなんかおらぬのじゃっ!?
「それじゃあ、自己紹介でもするか。俺の名前は川原 純だ。よろしくな」
妾の心の葛藤も知らず、ぬけぬけとそんなことを言ってくる。そういえば名前はカワハラ・ジュンじゃったか・・・カワハラは長いからジュンでよかろ。
「わ、妾の頭を勝手に撫でておいて平然と自己紹介するとは、勝手なやつじゃ・・・まぁ、いいじゃろ。妾の名前は魔王じゃ」
少しくらい恨み言を混ぜて妾も自己紹介をする。のじゃが・・・
「いやいや、それはさっき聞いたから名前を教えてほしいんだけど」
「だから魔王じゃと言っておるじゃろ?生まれたときから他の奴からは魔王様としか呼ばれんかったから他の名前なんぞ知らんのじゃ」
ちょっと悲しくなるが嘘は言ってない。産まれてこれまで城の者からは、魔王様としか呼ばれることは無かった。妾だって名前が欲しいのじゃ・・・。
そう思っていたら、こちらをじっと見ていたジュンがおもむろに口を開いた。
「なあ、お前の名前スミレってのはどうだ?」
どうだと言われてもいきなり結論はだせん。そもそもスミレとはなんじゃ?響きは悪くないが・・・
「スミレ?悪くはない名前じゃがスミレとはなんじゃ?」
思い切って聞いて見ることにした。
「俺の故郷の紫色の花だ。お前の髪の色を見てピンと来たんだ」
髪の色から取ったのか。妾は母様譲りのこの紫色の髪が大好きじゃった。だからその紫の色の花から取った名なら妾はなんの問題も無い。
「髪の色から決めたのか。なるほどの。この髪は妾が自慢できる少ない場所じゃ。ふむいいじゃろ、そのスミレという名でこれから妾をよぶのじゃ。」
「じゃあ、これからよろしくなスミレ」
スミレと呼ばれた時、胸の中が暖かいようなくすぐったい様な感覚があった。
「えへへ、名前など初めてだからくすぐったいのじゃ///」
気がつくとそう呟いていた。
「すまん。聞こえなかったから、もう一回言ってもらってもいいか?」
ひゃ、ひゃあっ!でも完全には聞かれてないようなのじゃ・・・
「な、なんでもないのじゃっ!!こちらこそよろしくなのじゃ、ジュン」
そう言ってジュンと握手する。
こうして召喚された妾と妾を召喚した不思議な雰囲気をした男の旅は始まったのじゃ。
今回はスミレちゃんサイドのお話でした。次もこの続きの予定ですので。物語は進まないと思います。すいません・・・(・ω・;)
余談ですが他の方の小説を読んだ後自分の小説を読むと絶望しかありません・・・
もっと精進せねば!!