7/16
10
殴られるー。
冷静に考えたらライが私を殴るなんてあり得ないはず(立場的にも)なのに、何故かその時はそう思った。
深い黒い瞳。目がそらせない。なんだか切ない表情をしている様だ。
「ライ?」
「心臓が止まりそうでしたよ。貴方に何かあったら生きていけない。」
「兄様も重役もライにそんな罪はー。」与えない、と言おうとしたが言えなかった。
かたく逞しい胸に抱きしめられたから。
「そういう意味じゃありません。」
頬を撫でられ、張り付いていた濡れたままの髪の毛をよけてくれる。
ライは実は本当に優しい。優しすぎて切ないよ。
同時に安心感から眠気が襲ってくる。
ライの整った顔が近づいてくる。
ああ、この顔によくキスしたもんだ。急に羞恥心が襲ってきて顔に血がのぼるのが分かった。
ふ、と仄かに笑ってライがサラに唇を寄せた。