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お兄様どういうことですか?---問うと兄は表情を変えずに言った。
「お前の婚姻話が進んでいる」
兄はもうサラの兄ではない。国民の王になったのだ、そう気づかされた。
政治的に必要な婚姻を進めているということだ。
私の意思など考慮していられないのだ。私も王族に生まれたからにはその覚悟は求められる。拒否権はない。分かっている。
でも、もう少しだけ。そう思うのは我が儘だろう。
「どうしました」
「ライ」
見上げると一瞬心配そうな表情を見せたが、いつものポーカーフェイスに戻る。
「そんな荷物で、家出でもしようと言うんですか?」
「家出というか…」
「なんです?」
旅にでる
そう言えば、目の前の騎士団長さまが固まった。
今日は珍しく色んなライが見れるな。
「世界を見てみたい」
私はこの王城しか知らない。たまに近隣の国に行くくらい。
知らないままでいたくない。
結婚したらそんな事許されない。いや、今も許されないことなんだろうけれども。
一国の王妹の発言としてはあるまじきこと。
何をどうしたらそういう考えに至るんだ。
思わず閉口したライは己の顎に手をやる。
(いや、俺のせいか?)
ライ・エヴァンスは此の国の出身ではない。故郷を捨て行き着いたのが目の前にいる姫の父親が納める国だった。
せがまれて何度か他国のことを話した際には、眼をキラキラさせて聞いていたものだ。
「私も旅をしてみたいなぁ」
所詮戯言だと思っていたのだが。
「…ライ。私は本気だ。」
ジッと見つめてくる曇りのない瞳。俺の唯一の光。
「行った所でどうするのです。すぐ連れ戻されるのがオチですよ。路銀は?道中はチンピラや山賊もいますよ?世間知らずの貴方が耐えられる訳がない。」
「大人しく嫁いでいけと?」
「そうは言ってません。なんですか、嫁ぐとは。」
ライは溜息をつく。
「ライ」
呼ばれて見下ろすと姫がすぐそばまで来ている。不意に両手で顔を挟まれた。前屈みになる。
「サラさー」
姫を呼ぼうとその名を紡いだとき、
サラが思い切り背伸びし、その唇がライのそれに触れた。




